次世代の計算機。

 量子コンピューターとは、電子や光などが見えない世界で見せる不思議な性質を使って計算する。この性質を使うと、今までのコンピューターでは難しかった問題も解けるようになる。
 今までのコンピューターは情報を0か1かに決めて処理するが、量子コンピューターは0と1が同時に決められるという性質を使って、たくさんの情報を一度に処理する。例えば物質や化学反応などの見えない世界で起こることを再現したり、暗号を解くことができる。人工知能や学習などの分野でも新しいことができるようになる可能性がある。
 でも、まだ実際に使えるようにするには難しい点が多い。周りの音や温度などに影響されやすくて、間違いが起きたりすることが難しい。量子コンピューターで計算するための部品や方法や言葉もまだ開発の途中である。
 量子コンピューターの歴史は30年以上も前に遡る。2016年にIBM Quantum社は量子コンピューターを製作し、数千人の人が利用している。研究が進んでいる国の中で、とくに注目されるのは米国、中国、カナダ、オーストラリアなどがある。
 22年の時点でおよそ数十社が量子コンピューター関連の開発を競い合う。そのうちでIBM(IBM Quantum)、Google(Google Quantum AI)、Microsoft、Intel、AWS Braket、Atos Quantumなどは先駆者として知られる。
 わが国では東京大学が中心となって量子コンピューターの研究開発を進めており、21年7月には川崎市にある研究所に、米国のIBM社の量子コンピューターを導入した。本機は127量子ビットという高い処理能力を有し、商業用としては国内最高の性能を誇る。
 わが国では理化学研究所が国産の量子コンピューターを開発し、2023年3月27日から研究者に提供し始めた。本機は64個の量子ビットで、一度に多くの情報の処理が可能である。しかし、実用化にはほど遠く、ノイズや温度などの影響を受けやすく、多数の課題がある。
 初号機公開の記者会見で理化学研究所量子コンピューター研究センターの中村センター長は、富士山だったらまだ5合目の登山口に向かうスバルラインにのったぐらいの程度と説明した。
 本年4月経済産業省は42億円の助成金を提供し、東大が最先端の量子コンピューターの導入をすると発表した。このコンピューターは、処理能力が5倍高いと言われるIBM製で、北米以外での稼働は初めてとされる。
 欧米と比べて国内での量子コンピューターの開発が遅れている。政府や産業界は実用化を後押しする方針で、本機を活用して、さまざまな分野の研究や産学連携を進める。まだ実用化には時間がかかりそうだ。

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