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牧場物語で悲しかったこと

牧場物語というゲームシリーズがあります。

第1作目は1996年に発売されたスーパーファミコン向けソフトで、荒れ地と化してしまった祖父の牧場を再建するストーリーです。ゲーム開始時は石と雑草だらけの土地ですが、石を割り草を刈り、クワで耕して野菜を育て、いずれは鶏や牛を……と次第に発展させていく過程はわくわくするものでした。また、このゲームには結婚システムがあり、牧場に隣接する町に住む5人のヒロインと交流し好感度を上げていけば、プロポーズをして結婚し、ともに牧場で暮らすことができるようになります。每日意中のヒロインに話しかけては好みを把握し、プレゼントを選ぶのも大きな楽しみのひとつでした。

牧場物語はその後シリーズ化され、様々なハードで複数のタイトルが発売されています。1999年2月にNINTENDO64で発売されたシリーズ3作目「牧場物語2」は初代主人公の孫世代の話で、ヒロインだけでなく町の人々との交流がより深く描かれるようになったうえ、初代をプレイ済みだとニヤリとするような小ネタも仕込まれていて、当時小学生だった私は夢中になってプレイしました。

「2」でも初代同様5人のヒロインが登場しますが、私がひとめぼれしたのは寂れかけたぶどう園のわがまま娘カレンでした。彼女の両親は家業の経営に行き詰まって不仲となっており、彼女も両親と揉めてはいつか都会にでて踊り子になりたいとこぼします。そんな境遇もあってかゲーム開始時は主人公への態度も冷淡ですが、心を開くにつれ段々と可愛らしい表情を見せてくれるようになります。前髪だけが金色の特徴的な髪型をしていますが、それは初代のヒロインのひとり、酒場の看板娘イヴからの遺伝なのだそうです。また、踊り子志望なだけあって町のお祭りでダンスを申し込むと、踊りながらウインクをしてくれる等、芸が細かいのも魅力的でした。

すっかり牧場物語シリーズのファンになった私は、同年12月に発売されたPlayStation用ソフト「牧場物語〜ハーベストムーン」にも手を出します。ハードの関係もあるのかできることが一挙に増えただけでなく、操作性も向上してプレイが非常に快適となっていました。発売日にわくわくしながらプレイし、実際ある程度楽しみはしたのですが、どこか拭えぬ違和感を抱えながらPlayStationの電源を切ったのを覚えています。

違和感の原因は主人公を取り巻く町の人々の設定でした。キャラクターデザインは「2」そのままに、性格やひいては家族関係も含めた設定ががらりと改変されていたのです。そもそも町の名前自体が初代・2の「花の芽町」から「ミネラルタウン」と聞き慣れない地名に変わっています。前述のカレンはぶどう園の娘ではなく雑貨屋の娘となり、性格も気分屋ではなく面倒見の良い姉御肌となっていました。……かわいいんですよ。このカレンもかわいいんですよ。でも私が好きになったのはぶどう園のわがまま娘のカレンなんですよ。「2」と全く同じ外見のまま違う場所で違う家族と暮らす彼女を見ていると、一種の不条理系ホラーの世界に巻き込まれたような空恐ろしい心地がしました。

このように町の住人達の設定が改変されたことで、初代との継続性も失われてしまっていました。初代から「2」の間に設定上数十年の時間が流れていますが、それでも続投したキャラが1人だけいます。初代ヒロインのひとり、エレンです。「2」ではすでにおばあさんになっており、話しかけると時折主人公の祖父(初代主人公)の話をしては前作とのつながりを感じさせてくれるキャラでした。ハーベストムーンにも「2」と同じデザインの「エレン」が登場しますが、舞台が花の芽町でないのなら彼女はいったい何者なのでしょうか。

当時の私は上記のような未分化なもやもやを抱えながらハーベストムーンをプレイし、なんとなくエンディングを迎えることなく他のソフトに手をつけてしまいました。あの頃は周囲に同シリーズをプレイしている友達はおらず、インターネットで気軽に他の人と意見交換ができるような環境もなかったので、そのもやもやはそのままおいてけぼりになっていました。

そんな思い出など忘れかけていた数年前、SNSでたまたま同シリーズの話題に触れたことがきっかけで、懐かしさから公式HPにアクセスしました。そこでハーベスムーンの紹介文を読み、子ども時代に感じていた違和感がなんだったのか腑に落ちました。以下引用します。

当初、64版を移植する予定だったのですが、あれやこれやと新しい要素を盛り込んだら、別のゲームになってしまいました(笑)
出典:https://web.archive.org/web/20160329134531/http://www.bokumono.com:80/series/index.html
※オリジナル記事はリンク切れのためInternet ArchiveのURLを記載

これです。これを見てとてつもなく悲しい気持ちになりました。私は性格や家族関係などを踏まえたキャラクターデザインや初代からのつながりを感じさせる「2」の設定が好きだったのに、それを中味だけ変わった別のキャラに変えられてその上(笑)で済まされたのです。悲しいだけでなく、怒りも覚えました。「2」のキャラ設定に合わせてつくられたキャラクターデザインを別の性格や家族構成に使い回すのはハーベストムーンのキャラ設定に対しても失礼なことだと思います。

また、最近になってこんな記事を見つけました。「牧場物語」の生みの親である和田康宏氏へのインタビュー記事です。

なお、プレイステーションに「牧場物語 2」の移植が決まった時には、すでに「牧場物語 3」の製作がスタートしていたので、やむなく外注に委託したところ、出来上がってきたものは、キャラクターの名前も性格も変わっていた。「何となく違うなと思ってチェックしたら、世界観まですべて違っていました。もう作り直す余裕はなかったので「パラレルワールドだということにしてそのまま出しました」と当時の経緯を残念そうに振り返った。
出典:【GDC 2012】和田康宏氏が語る「牧場物語」誕生秘話 – GAME Watch
http://game.watch.impress.co.jp/docs/news/517764.html

公式サイトでの(笑)によるダメージが大きかったため、この記事でキャラ設定改変の経緯が明かされたこと、それについて和田氏自身が「残念そう」にしているということに対して、納得はできないもののほんの少しだけ慰められたような気がしました。

20年以上前のゲームに拘泥しすぎていてみっともないと思われるかもしれません。その通りだと思いますが、それくらい「2」が好きだったのです。しかしこうして何年も経ってから、改変の経緯を知ることができ、当時感じていた未分化なもやもやが悲しみと怒りだったことが分かったことで私はどこかほっとしています。

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