見出し画像

短い記録364:【過去作品再公開】Joy't(ジョイント)11

マガジンはこちらから

※このお話は11話目です。


「もう一回説明しておくよ、ハナエさん」
ウサギさんは昨日した説明を繰り返す。

  • 3つめの選択肢は「嘘を売ってしまうこと

  • 厳密には「嘘を欲しがっている人に連帯保証人の権利を移すこと」

  • 移した嘘がその後どう使われるのかについては「関与できない

  • 一度渡した嘘を「取り戻すことはできない

「ここまで大丈夫~?」
「もうわかったから」

3つめのことを最初から聞いておけばよかったんだ。
これでもう友達の顔を暗い気持ちで思い浮かべなくていい。

「着いたよ」
そこはまた別な公園だった。

「あの人だよ」
スーツ姿の、ごく普通の大人の男の人だった。
すくなくともそう見えた。

「どうやって渡せばいいの」
「握手すればいいよ。ほら、相手の目を見て」

相手の、目を見て?
わたしはその人におずおずと近づき、軽く頭を下げた。

できれば名前は言いたくないなと思った。
すっと右手が差し出された。

顔を上げて、相手の目を見る。
どのくらい時間が過ぎたのかわからない。

「ハナエさん、終わったよ」
握手の相手はいなくなっていた。

「これでおしまい?」
「おしまいだよ」

「本当に?」
「うん。もう帰っていいよ。電話ももうかけないから」

にこやかだけれど邪魔そうにウサギさんは背を向けた。
手の中であのビーズを転がしながら。

その夜も、翌日も、さらにその後も、もう電話は鳴らなかった。
ああ、よかった。

***

ある日、映画館で予告を見かけた。

隣りに座る友達は「これ、ちょっとおもしろそうじゃない?」と耳打ちしてくる。

嘘を吐いたことは、ありますか?
それは、誰かにですか?
それとも、自分にですか?
あなたの嘘がどこに繋がっているか、考えたことはありますか?

わたしは映像を見ながら違和感を覚えていた。
この話、知ってる。

それはわたしが吐かれた嘘。

  • 移した嘘がその後どう使われるのかについては「関与できない

  • 一度渡した嘘を「取り戻すことはできない

切ったはずの携帯が鳴る。
着信相手は、確認したくない。

(了)


【タイトルについて補足みたいなもの】

つながるという単語をキーワードで考えていたので「ジョイント」を使おうと思っていたのですが、そのままだと面白くなかったため、Joy=喜びに否定形の「't」を付け足すことで、嬉しくないつながりという意味を込めております。
およそひと目で伝わるようなものではないんですが、気に入ってます。

最後までお付き合いいただきまして、ありがとうございました。
はー、なんか緊張した!

じゃ、また明日〜。