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短い記録354:【過去作品再公開】Joy't(ジョイント)1

昔、comicoで応募用に書いていたものです。
ヘッダーは本日もCanvaより「ぬいぐるみ」で選出


を吐いたことは、ありますか?
それは、誰かにですか?
それとも、自分にですか?
あなたの嘘がどこに繋がっているか、考えたことはありますか?


プレゼントはぬいぐるみバッグ。

赤を基調にしたいろんなチェックの端切れがパッチワークになっている。
目は黄色い糸でバツ印を付けたように縫い止められている薄茶色のボタン。

ちょうど首のつけねみたいなところに持ち手がついているけど、それでぶら下げておくとちょっと怖い姿勢になっちゃう。

口がチャックになっていて、小物が入る。
なぜだかジッパーがスムーズに開けられる日とそうでない日があって、今日はちゃんと開くみたい。

これは私の大事な友だちがくれた宝物。

その子とはもう何年も会っていないんだけど、さっき急にあの子のことが気になってクローゼットの奥からこのバッグを取り出した。

ホコリがつかないようにビニール袋にずっと入れっぱなしだったから、汚れてはいない。

ガサガサ取り出してなでてみる。
あの子、どうしてるかな……。
引っ越しちゃってから会えてないけど、元気かな。

「ハナエ、ちょっと来て」
階段の下でお母さんが呼んでる。

「なに?」
「シホちゃん、覚えてる?」
「え!」

シホちゃんというのは、このバッグをくれた友達のことだ。
バッグを持ったままのわたしを見て、お母さんは続けた。

「団地で事故があったんですって」

事故って?
テレビからニュースを読み上げるアナウンサーの声が聞こえる。

「先日発覚した、一部区域でのガス漏れ事件による続報です」
馴染みのある地名がわたしの耳に飛び込んできた。
2年前までわたしが住んでいた団地だった。

もちろん、シホちゃんも。

「ガス漏れって?」
「あの団地だけ、夜中にあったんですって。ガスの元栓がおかしくなったっていう感じかしらね」
「……なんで『シホちゃん覚えてる?』っていったの?」

何かあったのとはいえなかった。

「団地の名前聞いたら真っ先に浮かんできたのがシホちゃんだったのよ。仲良かったでしょう、連絡取ってないの? 引っ越す前に携帯買ってあげたじゃない」

確かにねだってねだって携帯を買ってもらった。
でも、肝心のシホちゃんはおうちが厳しくて、高校生になるまでダメと携帯を持っていなかった。
だから、連絡先は変わらずシホちゃんのお家の電話しか知らない。

わたしはそのまま2階に戻って、携帯を探した。

【シホちゃんち】

あった。

ここ1年くらい使っていなかった番号を選択する。


しばらく続きます。