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十一月のDaydream Believer

前回のお話はこちら

帰ってからというもの

石垣島で見たバンドがカッコよかったんです、絶対売れます

と、会社でもプライベートでも会う人にそればかりを話した。
最推しの話だって、日頃表立ってはあまりしないのに。

しかし、次に石垣島へ観に行けるのはいつになるかわからない。
個人事業主に有給なんかないし、関西−東京間のように交通手段の選択肢がたくさんあって最速2時間ちょっとで行けるような場所じゃない。
じゃあ、どうやったら石垣島でもっとライブを見られるようになるだろうか。
そもそも今のやり方で働くのを続けるの?
っていうか、この会社にずっと勤めたいって、もう思ってなくない?
連休前通りに仕事をこなす日々に戻っていく最中で、違和感が着実に育っていった。

いろんなことにわからないといいつつ

家でボーッとしながら、あれこれ検索をしていた10月半ば。
11月に石垣島へ行けないか。
日程的に、もしもライブのタイミングが合えばと密かに狙っていた。
これに当選していて、北谷へ行くことは確定していたからだ。
那覇空港から大体1万円くらいで石垣島まで行ける。
平日でも時間だけはある。
なぜなら、仕事を辞めたからだ。

結局、耐えられたのは9月末までだった。
8月に退職希望を告げたところ、意外と色んな人から引き止められたり、理由を尋ねられた。
でも、決定打となる出来事があってどうしてもそれを受け入れることが出来なかった。
一緒に働いている身近な人達のことは好きだし、尊敬していた。
しかし、今回の出来事を良しとするのは、いずれ働く自分を許せなくなるだろうと思い、辞めた。

後悔は全くなかった。
そして、次のアテもない。
おまけに貯金もない。
辞めた翌月に支払われる給与で収入が途絶える。
クレジットカードのキャッシング枠は、0で申し込んだから使えない。
実家にだって頼れないし、石油王の知り合いはいない。
それでもとにかく辞めたかったし、一回経験した未払いよりはマシな未来だろうと、どこか楽天的だった。
そんなに簡単に死ねないよ、五体満足なんだし。
なんたって、運だけはいいんだから。

一縷の望みをかけて

いくらなんでも流石にそんなにタイミングよくは日程合わないだろうか。
でもなあ、諦めきれない。
もし合えば、どうにかして行こう。
そう思っていた矢先のこと。

18、19日がある! と情報を確認した直後に、飛行機を予約した。
タイミング、合った!
お金のことは後でなんとかしよう。
11月を逃したら、今度こそ関西から出るような旅行にいつ行けるかなんてわからない。
チャンスの神様は前髪しかない。
掴むんじゃ甘い、引っこ抜く勢いでないと!

もう一回、行ってきます

初めて泊まったヒルトンは、とても良かった(これはこれでいつか書くかもしれない)
しかし、目的地はもう一つある。
前回、下見で迷った万世館。
一回行った場所はどれだけ時間が空いてもほぼ忘れないので、今回は大丈夫。

万世館入り口を、ちょっと離れたところから
Tシャツも買いました、赤いやつ
学生無料って太っ腹よね

今やらないと、「何時か」は来ないよ

ライブ、どちらの日もボロボロ泣いた。
マスクつけっぱなしだったけれど、ビシャビシャになった。

どちらの日だったかを忘れたけれど、観に来ていた吹奏楽部の打楽器担当の男の子が、急遽舞台に上がってドラムを叩いたのだ。
(石垣島は吹奏楽が盛んで、中学校の吹奏楽部は2023年12月の全国大会出場が決まっていたのだそう)

はじめはちょっと躊躇っていたようだったけど、一度座れば立派に演奏していて感動した。
リハーサルもせずにプロの隣にいきなり誘われるなんて、びっくりしただろうに。
すごくカッコよかった。

泣きっぱなしでステージを見ていると、栄昇さんがチューニングをしながら仰った。
「何時か音楽やりたいな、アレやりたいなと思っていたりする人がもしこの会場にいるなら。あのね、今やらないと、何時かは来ないよ」

息が止まりそうになった。

今やらないと、何時かは来ないよ。

脅し文句みたいな口調で仰ったわけではない。
それは淡々と、聞かれた明日の天気をただ答えるのと同じようにサラリと。
けれど、その「今」を積み重ねた音楽をやっている人にしか言えない一言だった。

書きかけで溜まっている記事がブワッと自分の頭の中を巡って、同時にわたしは「今」を蔑ろにしているんだなと寒気がした。

やばい。
「今」お金がないことより、「今」書いてないことのほうが絶対まずい。
どうにかなるさって場合じゃない。
やばい。

勿論楽しかったのだけど、そのことを思い浮かべたままフラフラで会場を出た。
会場最寄りのファミマで見かけた吹奏楽部の移動費用カンパ箱へ、持っていた小銭を全部突っ込んだ。

今日聞いたのは、Daydream Believer

しかし、白昼夢をのんびり追いかける訳にはいかない。
その夜、タブレットのメモに考えていたアイデアなどを片っ端から書き出した。
お前、無職期間でライブ楽しみに来たんじゃないのかと自問自答した。
それはそうなのだけれど。

じゃあ、どうやったら石垣島でもっとライブを見られるようになるだろうか。
そもそも今のやり方で働くのを続けるの?
っていうか、この会社にずっと勤めたいって、もう思ってなくない?
連休前通りに仕事をこなす日々に戻っていく最中で、違和感が着実に育っていった。

それでも、あのときの違和感を適当にしなかったから。
「今」なんじゃないのか。
あそこで何となく「白昼夢」を見ていれば、それこそ収入の心配なんかなかった。
でも、それは選べなかった。
逆説的なことだったとしても、辞めてなきゃ休みなんかないんだから。
「今」ここにはいなかった。

当時上げたストーリーのスクリーンショット

自分の未来を自分で選ばなきゃ。
そこらへんの薄っぺらいビジネス書よりよく効く一発を貰ってしまった。

会場でアルバムを買った

どうしても会場で買いたかった。

あの日から繰り返し聴いている。

(了)