バイロイト音楽祭と街の所感

今年初めて念願のバイロイト音楽祭に行ってきた!ちゃんとした感想はまたプログラムを読み込んでから改めて書きたいが、簡単なオペラの感想と音楽祭の雰囲気、バイロイト周辺の所感等を書いておく。チケットがかなり取れやすくなった今、もし今後バイロイトに行く方に参考になれば。私は8/4のさまよえるオランダ人と8/5,6,8,10のニーベルングの指環を観劇。思いついたことをダラダラ書いていたら思いの外長くなってしまった…!


オペラ・音楽祭の感想

さまよえるオランダ人

かなり奇をてらった演出になっている今回、正直よくわからないまま終わってしまった…。しかも前の人が大柄で、舞台の1/3が見えない。序曲の間は舞台上で薄い膜を1枚隔ててあらすじを上演していた。衣装は現代的な感じ。
ただ演奏はさすが超一流、めちゃくちゃ感動した!!嵐が来る様を表現する弦のうねりが鳥肌ものだった。ヒロインがずっとフラット気味だったのは気になった、他の歌手ともオケとも合っていなかった…。
アンサンブルにアジア系の人が2人いた!

ニーベルングの指環

こちらも去年から物議を醸している演出、特に初日は何がなんだかよくわからなかったが、2日目からはなんとか追えるようになってきた。去年は大変なブーイングがあったと聞いていたが、各幕の最後で起こるカーテンコールではブラボーが飛んでいた。ただ最終日の最終幕が終わった瞬間、ブラボーと激しいブーが同時発生していた。ブーイングってニューヨークヤンキースの試合ぶりに聞いた…。確かに全体的にかなりグロテスクで滑稽。ファーフナーを殺す場面は、寝たきり老人の歩行器を奪って転倒させて殺したり。
オペラというより、かなり演劇的。衣装を見る感じ、60年代のアメリカを舞台にしているのか…?舞台も森の中とかでなくほとんどが室内のセット。セットが4つの空間に区切られた家の中だったり透明な箱だったり、このあたりまさに演劇的だった。役者もかなり芝居をする。オペラって芝居は最小限で歌で魅せるイメージだったが、このあたりも違う。唯一ジークフリートの第3幕で出てきたブリュンヒルデの女優さんだけ、芝居というよりいかにもオペラという感じだった。
全編を通してセリフのない少年と少女と使用人が出てきて、またピラミッドがモチーフになっている(指環の象徴?それともノートゥングの象徴?)。この辺りが解釈の鍵になってくるんだろうな。最初と最後がDNAの二重螺旋構造から二人の向かい合う胎内の赤ちゃんの映像だから、人類のさだめみたいなことを表しているのか… 特に黄色いシャツを着た少年が序夜からキーになっているようで、てっきり指環を擬人化したものだと思っていたら最終日にハーゲンになっていてびっくりした。ちゃんとしたキャラクターなんかい!
プログラムを買ったけどまだ読んでいないので、読み込みたい。同内容がドイツ語、英語、フランス語で収録されている。12ユーロだった、安い!

音楽祭の雰囲気

とにかく観客が皆ドレスアップしていて、社交界の雰囲気。ザルツブルク音楽祭でも驚いたけど、バイロイトはさらに格式張った感じで圧倒された…。男性は黒いスーツ、女性は華やかなドレス。私はあまりちゃんとした服を持っていなかった上に、指環は4日間同じ席で見るので着回す訳にもいかず、とりあえず持ってる中でまだちゃんとしてるかなと思える格好で行ったが正直めちゃくちゃ恥ずかしかった。ただ私の隣のご夫婦だけめちゃくちゃカジュアルで、少し救われた…。幕間の休憩は1時間もあるし、実際そこでの社交も音楽祭の一つの醍醐味なんだろう。着飾った老夫婦が腕を組みながら歩いている様子は、微笑ましくもある。さまよえるオランダ人では日本人を見かけなかったが、指環では10組弱くらい見かけたかな。着物をお召しの方もいた。
会場は意外と簡素な感じで、華美な装飾はない。ホワイエも会場内になく、外にある。ホールはなんと中央の通路がなく入り口が左右にしかない!列間の幅も狭く、皆大柄なので奥の人が入れるように基本皆立って待っている。1列揃ったら一斉に座るので、それがなんだか七並べのようだった笑 この椅子が水平よりも上を向いていて、そんな椅子は初めてで驚いたんだけど、ドイツ人は足が長いからそうしてるのか。オペラに集中するようにあえてワーグナーが椅子を硬く作ったと言われているが、窮屈だった…。
指環は2階のボックス席だったが、こっちは非常に快適だった!椅子がふかふかで前の列との間も十分なスペースがある。さらに空席が多くてボックス内で真ん中の方に移っても良いと行ってもらえたので、前後左右誰もいない環境で視界を邪魔されずに見れた。元の席は柱で舞台の1/5くらい見えなかったので、移れてよかった。ちなみに1階の座席は傾斜がきついので、1階の最後列と2階の最前列は同じ高さ。左右に広い扇型で客席の傾斜が結構付いている感じ、新国立中劇場はこういうのを参考にしたのかなと思う。イギリスのNational Theatreも近いかな。
チケットは会場に入る時とホールに入る時に見せる、前者では身分証も見せる。ただこれがQRを読み込むことなく目視で確認するだけなので、チケ入手困難な公演がこんなにザルで良いのかびっくりしてしまった。本物に似せた画像を作れば簡単に入れるし、今年は空席もあったので入ってからもバレない。QRのスクショでは入場できないジャニーズの方がよっぽど厳しい、、

チケット取り

バイロイト音楽祭といえば10年待たないとチケットを取れない、世界一入手困難なチケットで知られていたが、近年ネットでの一般発売が始まってからかなり取りやすくなった。事前に登録は済ませておき、一般発売開始時間の瞬間にアクセスしたところ、順番待ちのページに飛んでしばらく待たされたが、6時間半後くらいに繋がった。その段階でいくつかの演目は既に売り切れていたが、指環とオランダ人とあといくつかはまだ残っていた。ただ安い席はもう残っていなかった。指環は1日ごとでなく4日まとめてしか取れなかった!ただ初日や最終日しか来ていない人もいたので、個別で取ることもできるのかな?一般発売後も一部演目は最後まで売り切れにならなかったっぽい。正直ジャニーズJr.の人気公演より圧倒的に取りやすい!なのでバイロイト音楽祭に行く時間とお金さえあれば誰でも見れる時代になったので、興味ある方はぜひ。既に来年のチケットが発売開始してますね。トリスタンとイゾルデが始まる、パルジファルはARを使った演出が始まる、指環は1日単位でも購入可と。

バイロイトの観光地

ワーグナー博物館、リスト博物館、辺境伯歌劇場に行ってきた。いずれも予約不要。他にも新王宮やエルミタージュがあるが、今回は行かなかった。

ワーグナー博物館

バイロイトに来てここに来ないわけにはいかない!3つの建物からなっていて、しっかり見ると全部で1時間半くらいはかかった。音楽祭の歴史に関する展示(昔の衣装やオケピの構造など)や、ワーグナーが実際に住んでいた家などを見学できる。庭園にはワーグナーと妻(コジマ)のお墓もある。半分くらいには英語の解説がついているが、ドイツ語のみも多い。電波もそんなに良くないから、機械翻訳もできなかった…。ヒトラーとの関係について語られたビデオも気になったけど、ドイツ語のみでわからなかった。リスト記念館、ジョンポール記念館と合わせたコンビチケットも売っていた(私はジョンポール記念館に行かなかったので単発のを買ったけど)。

リスト記念館

娘がワーグナーに嫁いだリスト。旅先のバイロイトで亡くなり、お墓もバイロイトにある。ワーグナー博物館のすぐ隣に記念館があるのだが、こちらはかなり小さかった。一つのフロアに4つくらいの部屋があって、関連品が展示されているくらい。しっかり見ても20分くらいで見終わる。現金のみなので注意。解説はドイツ語だけだが、電波が良くそんなに混んでなかったので、壁にあるテーマの解説はGoogle翻訳して読んだ。パリの女性たちに絶大な人気を誇ったリストの肖像画や晩年の写真を見れて良かった!ショパンやシューベルトとの関係についても展示されていて面白かった。

バイロイト辺境伯歌劇場

世界遺産に指定されている歌劇場。歌劇場の中に入るのはもちろん、歌劇場についての展示がある博物館となっている。祝祭歌劇場は簡素な作りなのに対して、こちらは豪華絢爛!さすがに民間人のワーグナーが建てるのと辺境伯という地位がある人が建てる歌劇場は違う。消失点を生かした構造にすることで実際以上に奥行きがあるように見せているなど、構造上の工夫が面白かった。

バイロイトでの生活(宿泊、食事など)

私は1人で来ていて音楽祭と観光以外の宿泊や食事はできるだけ簡素に済ませたかったので、その前提で。

ホテル

ホテルはibis budget一択。この系列は色んな都市の中央駅の真隣にあって格安で、一方でチェーンなので清潔でサービスが行き届いていて安心感がある。立地的にも市の中心部と祝祭歌劇場の間(どちらも徒歩15分くらい)。清掃は前日までにリクエストしてくださいとのことで、あまり部屋に入られたくない私としてはデフォで清掃がないのは好都合と思っていたが、2日ほど入られてタオル交換されていた。めちゃくちゃ部屋を散らかしたままだったので焦った…。

食事、買い物

中心部に出ればカフェや服屋などがたくさんある、駅にはパン屋さんがある。中心部にはRomainというショッピングセンターがあるのが嬉しかった!大きなドラッグストア、デパコスを扱ってる化粧品店、服屋などがある。食べ物系はパン屋、肉屋、マックなど。回転寿司もあった。正直食事のバリエーションはそんなに多くなかった…。19時まで、日曜は休館。
スーパーは駅の反対側に大きいAldiがある(ベルギーでもずっとお世話になった!)。ここで食品や日用品は安く買える。行き方がトリッキーで、駅の反対側に行くのに一度プラットフォームに出て、他のプラットフォームに乗り換える通路を通って行く。この「駅のプラットフォームも道の一部」っていうのが改札がないドイツの電車ならではで、正直その発想がなかったからしばらく見つけられなかった。踏切あるかなーとか探したけど、まさか線路を渡るのに一度プラットフォームに出るとは思わなかった!

交通機関

バイロイト市内は私は全て徒歩で移動したが、バスも走っている。7日券とかあるので、指環でしばらく滞在する人には良いかも。ニュルンベルクとの往復は、日帰りならバイエルンの1日券を買った方が片道券を2回買うよりも安く、さらに両市内でのバス・メトロも使えてお得。

気温、服装

とにかく寒い。朝晩は12~13℃だし、雨が降ると日中もそれくらい。さらに風が吹くと体感温度はもっと寒く感じる。8月中旬なのに、ウルトラライトダウン的なジャケットやコートを着ている人も珍しくない。日が出て暖かい日は20℃くらいまで上がることもある。とにかく防寒対策はしっかり、折りたたみ傘も必須!

コインランドリー

ホテルから徒歩6分の所にコインランドリーがあって便利だった。洗剤と柔軟剤もその場でそれぞれ0.5€で買える。「コイン」ランドリーだけどコインだけじゃなくてお札も使えるのが嬉しい(オーストリアのコインロッカーと違って)。ただし50,100€紙幣は不可。さらにコインもどの種類でも使えるのが嬉しい(10,20セント硬貨は使えなかったオーストリアのコインロッカーとは違って)。その分、お釣りは10セントや20セントで返ってきがち。
洗濯機は色んな大きさがあって、私は一番小さい6kgを使用。大きさと温度によって値段が変わるが、一番ベーシックな40℃を利用。4.5€、40分でした。パネルと説明文には英語もあって分かりやすい、ありがたい!
乾燥機は一律同じ大きさ(12kg)で8分につき1€、私は24分やりました。
地元の人もよく使うのか、同時に何人も利用してた。けど台数もたくさんあるので、使えないことはなさそう。

注意点

バイロイトでの注意点は、何と言っても現金しか使えない場所(カフェなど)が結構多い!!フランクフルトでもそうだったから、ドイツはそういう所が意外に多いのかな。ブリュッセルやパリではほぼ見かけたことない。

バイロイト周辺の観光地: ニュルンベルク

指環の合間に2日間空いてる日があったので、2日ともニュルンベルクに行ってきた。日帰りで行ける場所としてはニュルンベルク(片道1時間)、バンベルク(片道1時間)、ミュンヘン(片道2時間)あたりがある。
初日はニュルンベルクに行こうとしたらバンベルク行きの電車に間違って乗ってしまい、そのままバンベルクで観光しようと思ったものの、正直あまり見る所がなかったので街歩きだけして、ニュルンベルクに向かった。ただその日が月曜日だったためやっているところが少なく、唯一営業していたニュルンベルク城に行った。本当はGoogle mapで「営業中」となっていたゲルマン国立博物館に行こうと思ったが、行ってみてから休館日であることに気づいた(Google mapの営業中表示よく間違っているというあるある。営業時間自体は正しく記載されていることが多いが…)。
そんな誤算もあり、水曜日にゲルマン国立博物館に行ってきた。行きしに聖ローレンツ教会や広場にも立ち寄った。
ニュルンベルクはある程度の規模がある都市なので、バイロイト滞在中にもっと買い物や食事を楽しみたい場合はぜひ。私はフォーやラーメンを食べました。

ニュルンベルク城

博物館と塔と井戸の見学がセットになった券を購入。一部ドイツ語のみの解説もあったが、大体英語もついていた。ニュルンベルクという街がいかにシャルル大帝の頃から重要な場所だったか、歴史を知れる。
塔は100段くらいの螺旋階段で疲れたが、上から見下ろしたニュルンベルクの街は赤い屋根が連なっていてとても綺麗だった。
井戸はお姉さんがドイツ語で解説してくれて、外国人には英語の説明の紙も回してくれたが、私はそれを見れなかった…。とにかく深くて、水を注いだら「ポチャ」と水面につく音がするまでにものすごく時間がかかっていた。

ゲルマン国立博物館

「ゲルマン国立博物館」でニュルンベルクにあるからナチの歴史とかにも触れられてるのかなと思ったら、そういう展示は特になかった。基本的に旧石器時代から順番に歴史と共に展示してある。他の博物館で見たようなものも正直多かったが、ギルドについての展示がこれまであまり見たことがなく面白かった。世襲制でその家系が造ってきた技術を受け継ぐ、知見を深めるために他のギルドに住み込みの修行に出る、ギルド同士の極秘の集会が開かれる、など。

今回行かなかった観光地

ニュルンベルク裁判記念館、帝国党大会会場文書センター、デューラーハウス、交通博物館、おもちゃ博物館

所感

オペラの内容自体は演出が奇抜すぎてよくわからないところも多かったけど、何より「バイロイト音楽祭に行く」という体験ができて良かった!!中高の頃からずっと憧れだったので。しかもニーベルングの指環を4日間全て通しで見るというのは時間もお金も気力もある今しかできないことだと思うので、実現できて良かった。

バイロイトという街に関しては、あまり観光に特化していない街だなーという印象。毎年夏に世界各国からたくさんの金持ちが集まる訳だから、もっと街全体としてそれをターゲットとしても良さそうだけど、良くも悪くも普通の街という感じ。カードが使えなかったり英語表記がないところが多いし、街全体がこじんまりしてて落ち着いてて物価も良心的。そういう雰囲気にワーグナーも惹かれてここに劇場を建てることにしたんだろうけども。

ワーグナーに関してはこれまでよく知らなくて、作曲のみならず劇場の建立・運営までやっていたことから「芸術とビジネスを両立させた唯一の人」という印象を持っていたのだが(多分三島の評論を読んでそういう印象を受けたのだと思う)、実際は「自分の理想とする芸術を実現するためには手段を選ばない人」なんだなと思った。劇場の運営というビジネス面で特筆するほど成功しているわけではない。多分こっちの方が世間的な印象にも近いはず。それにしても作曲のみならず脚本、演出、指揮、そして劇場の建立にまで至る多才さはすごい。ワーグナーについて論じた三島の評論、帰国したらまた読みたいな…

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