ソウルへ:旅中のメモ⑧

旅中のメモ⑧

2023年8月24日18:00〜24:00

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ふたたび留学生のAさんと落ち合い、夕食を食べる。パンケーキ=チヂミがメインらしい、かなりローカルなお店だが、英語メニューを出してくれる。パンケーキのアソートおよびキムチ豆腐を頼むと、見るからに食べきれないくらいの量だった。

アソートで出てきたパンケーキはチヂミとはぜんぜん違い、野菜や練り物や魚に衣をまとわせて鉄板で焼いたらしい、手のひら大のもの。魚肉ソーセージ。カニカマ。エゴマの葉で練り物を巻いたもの(おいしい)。豆腐。刻んだ野菜の混ぜ込まれたひらべったい鳥つくね。エリンギ。ズッキーニ。小さい魚の開き。

Aさんはその日、DMZに行ったという。朝8時にソウルの市庁駅に集合し、ツアーで国境まで(ソウルは国境にわりと近いので、昼過ぎには帰ってくることができる)。展望台に上がり、北朝鮮の土地を見渡すと、青々した山に加えていくつかの村、そして遠くのほうには街もわずかに見える。北朝鮮側がかつて韓国側への侵入のために掘削したトンネルを見学することができる。ガイドの説明も充実していた。韓国側のDMZ内にある唯一の村は税制優遇措置がとられ、兵役も免除されているんだって(日本でも自衛隊基地や米軍基地がある市町村は財政が潤っている、そういう町にはものすごく立派な美術館がある、とわたしはやや的外れなコメントをする)。北朝鮮から韓国に脱出してきた有名な女の子の自伝を読んだことがある?と彼女は訊く(ない、と答える)。ものすごく壮絶な半生が綴ってある(なぜか美術館だけを見てまわっているわたしの過ごし方がつまらないものに思われてきて言外に少ししょんぼりする)。

食べているパンケーキがかなりユニークな感じなので、あとは日本食の話ばかりをする。日本にも魚肉ソーセージってあるけど、こんなに太くないよねとか。カニカマ(フェイク・クラブ?)は日本のものと同じ見た目をしている。エゴマの葉は紫蘇と似ているけど、風味が違う。紫蘇ってモチに使われてるやつで、食べられないよね? いや、桜もちの葉っぱは食べられる。食べられないのは柏もち。韓国にも梅酒があるんだ、と店内のポスターを見てAさんが言う。あんまりお酒は飲まないけど、日本で梅酒だけは好きになった。あまりに好きなのでスウェーデンで買えるか調べたけど、輸入されているのは1種類だけで、しかもものすごく高いやつなので悲しい。梅酒じゃないけど、わたし、家で梅のシロップ作ったよ。あ、それ日本のホストファミリーもやってた。どうやるの? 砂糖と梅を混ぜてほっておくだけ。すると勝手に水が出てくる。スウェーデンでも作れるかもしれないけどプラムの種類が違うし、アルコール生産は違法かも。いや、梅酒はまぜるだけなのでアルコール生産にはならないはず…などなど。

ふと目を上げると店内のTV番組のニュースが、海岸でプロテストしているひとたちを映していた。あれはフクシマのニュースかな、と読めないテロップを見ながら言う。放水は今日から始まったらしい。そういえば今朝は北朝鮮からのミサイルが発射されて、沖縄の向こうに落下したと言う(書き忘れていたが、2日ほど前の昼間には韓国全土で有事に備えた20分間の避難訓練が行われていた。観光客にとっての景色は特に変わりなかったけれど)。

ソウルにいる感覚は日本と似ている、とわたしは言う。正直、旅行をしているという感じがあんまりしない。となりの街に来たみたい。
そうかな、とAさんは言う。逆にソウルは上海に似ていると思った(書き忘れていたが、Aさんの家族はいま上海に住んでいるらしい。悪名高いコロナのロックダウンのあいだも上海にいた)。
英語とスウェーデン語のどっちが得意、と聞くと、英語のほうが得意だと答える。スウェーデン語は家族としか話したことがないけれど、英語の学校に通っていたから。スウェーデンで就職しても、クライアントが欧州の企業なので英語だけで問題ない(これも書き忘れていたけれど、コンサル企業に就職予定らしい)。日本だとどう、と聞かれる。基本的に日本のコンサルは外資でも日本企業を相手にしているから、クライアントと話したいならば日本語が必要。海外に支店があるグローバル企業がクライアントの場合は、英語のプロジェクトもあるけれど。

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おいしかったけれど例によって量が多いので食べるのに1時間半くらいかかり、それでも大量の豆腐とキムチは食べきれなかった(豆腐とキムチのメニューが1000円ほどもした時点で、量を想像しておくべきだった)。でも、昨日グーグル検索した限りでは、とわたしはあいまいな知識を伝える。韓国では日本と違って、食べ残すことはそれほど失礼に当たらないらしい。たぶん。

帰り道でミンティアをもらう。すっかりミンティア中毒なのだとAさんは言う。この黒いパッケージもけっこう強いタイプだけど、青いやつでもっと強いのがあるよね。いやいや、とわたしは半笑いになる。たぶんわたしはあなたほどミンティアには詳しくないと思う。

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夜、DMZのツアーを検索すると、翌日午前の回はもう予約できないようだった。
午後の回に行くのだとするとLeeum美術館に行けない。そのほかのいろいろも天秤にかけて(Aさんの話が克明だったのですでに体験したような気がしてきていることもあり)、結局DMZには行かないことにして、眠る。

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