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Chat GPTは専門家を淘汰する

Open AIの開発したChat GPTというAIがある。Open AIは他にもDALL-Eという画像生成AIも公開しているので一度は使ったことがある人もいるだろう。

このChat GPT、回答精度が高いということで話題となっていて、私はてっきり「強化学習の焼き直しだろう」とか「女子高生AIみたいなものだろう」と高をくくっていた。

しかし、実際使ってみるとそんなものではなかった。これは単にAIが何でも答えてくれるというレベルではない。

人間が鼻高々にしていた資格や知識をもとにした、なんとなく高給ですごいと思われていた世の中の高尚な仕事のほとんどは、(規制産業としてのロビーイングをしなければ)本質的に代替される対象になった。

すでに情報が早い人は使いこなしていて、プロンプトエンジニア(Prompt Engineer)という職業にすらなっているようだ。つまり、Open AIのツールを使って、世の中に価値を生み出すというエンジニアリングをしている人もいる。

技術がどうすごいのかと聞かれると私は十分に答えられない。

ただ、どう使えるのか、AIの回答精度がどの程度なのかを、専門的な視点から評価することはできる。だからどのくらいすごいのかを伝えることはできると思った。

すでに簡単な質問やインターネット上にあふれている知識を整理してわかりやすく伝えることができるのは自明であったから、より高度な、専門家と言われるレベルの人しか理解してないであろうことを質問してみた。

私は以前、とてもニッチであるが、企業ニーズの高い専門サービスを提供する仕事をしていたので、その分野で質問しようと思った。

販売機能のみを有し、リスクを負わない日本の部品販売子会社の移転価格に関する独立企業間価格算定方法およびTNMMの範囲はどうなりますか。

質問:私

少し雑な問いかけであるが、パッと見て何のことを言っているか分かる人は同業者であろうし、日本におそらく千人前後しかいないと思う。つまりこれはそれくらいマイナーな分野についての専門的な質問をしている。

日本語で質問すると、日本語文献に偏る可能性があり、専門的な内容である上記質問に適切な回答を与えられないと考えたので、これまた優秀な機械翻訳サービスであるDeeplに英語にしてもらった。

The arm's length pricing method and the TNMM (Transactional Net Margin Method) range are used to evaluate transfer pricing of a parts sales subsidiary in Japan that has only a sales function and does not assume any risk.

私→Deepl

私は1分足らずでChat GPTから回答をもらった。

Arm's length pricing method is a principle in transfer pricing where the prices of transactions between related entities should be the same as if the parties were unrelated and negotiating at arm's length. The arm's length price is determined by comparing the prices of similar transactions between independent parties.
TNMM is a method for evaluating transfer pricing by comparing the net profit margin of a tested party with the net profit margin of comparable independent parties. The range of the TNMM is determined by comparing the net profit margins of several comparable independent parties, and calculating an average range. The net profit margin of the tested party should fall within this range in order to be considered at arm's length.
By using these methods, the transfer pricing of a parts sales subsidiary in Japan can be evaluated to determine if the prices charged for sales to related parties are at arm's length and in line with market conditions.

Chat GPT

販売機能のみを有し、リスクを負わない日本の部品販売子会社の移転価格について、独立企業間価格算定方式とTNMM(Transactional Net Margin Method)レンジを用いて評価を行っています。
独立企業間価格算定方式とは、移転価格の原則の一つで、関連企業間の取引価格は、当事者が無関係で独立した立場で交渉している場合と同額であるべきとするものです。独立企業間価格は、独立した当事者間における類似の取引価格を比較することにより決定されます。
TNMMは、被評価者の純利益率と比較可能な独立した当事者の純利益率を比較することにより、移転価格を評価する方法です。TNMMの範囲は、比較可能な複数の独立当事者の純利益率を比較し、平均的な範囲を算出することにより決定されます。独立企業間価格とみなされるためには、被試験企業の純利益率がこの範囲に収まっていなければなりません。
これらの方法を用いて、日本の部品販売子会社の移転価格を評価することにより、関連当事者への販売価格が独立企業間 の価格であるかどうか、また市場の状況に即しているかどうかを判断することができます。

Chat GPT→Deepl

ほうほう。一見もっともらしい解答をいただけたようだ。

よく見ると最初の段落については、私が問いかけたことを言い直しているだけである。あと、とりあえず私はTNMMという方法で聞いているが、独立企業間価格算定方法は他にいくつかあるので、そもそもそれで良いかどうかというところまでは検討してくれてない。

ただ、内容に関しては「だいたい合ってる」(法律的問題はだいたいでは済まされないだろうが、それはデータ量の増大に伴って改善される問題だ)

おそらく書かれていることは、専門家が書籍や論文で言っていることを要約しているのだろう。だから大体合ってる。違う所はそもそも専門家によっても見解が異なったり、国によって制度が異なることがあるから、その誤差と言えるかもしれない。

Chat GPTはちゃんと独立企業間価格算定方法について説明していて、独立企業間価格とみなされるためには比較対象企業の純利益率がこのレンジに収まっている必要があると説明している。

まあ厳密に指摘するなら、日本ではTNMMは「国外関連取引 に係る営業利益の水準と比較対象取引に係る営業利益の水準を比較する方法」となっているから営業利益(Operating Margin)が適切だと思うけれど、当期純利益で見ている国はあるのかもしれない。

なるほど。Chat GPTはかなり詳しいことも教えてくれてる。

専門家と同じレベルと断言はできないけれども、アソシエイトレベルの専門家よりは正しいだろう。これで十分すぎるくらい簡潔に理解できる。

ただ、逆に質問が不明確だったり不正確だったりしても指摘はしてくれない。例えば、このケースではじゃあ具体的に何%であれば独立企業間価格であるのかは教えてくれなかった。

ちなみに書かれている内容は勉強すればだれでも手に入れられることだ。だからAIはすごくないとも言えるかもしれない。しかし、それはどんな質問でも同じである。未知のことでない限り勉強すれば、誰でも専門家やプロになれるし答えられるようになるのは当たり前だ。

しかし、資格を取得するのに何千時間もかける人間と、こうして数秒で解答をくれるAIだったらどっちのほうが良いだろうか。人間はあまりに時間をかけすぎる。

専門家に依頼するメリットは、ひとつに解答が正確で早いこと。そしてお墨付きをもらうことだ。前者に関してはAIが代替するだろう。

後者については、まだ人間は人間の専門家の方がよいと思っているが、そのうちAIのほうが客観的で論理的で、わかりやすく、正しいと思うようになるだろう。

現時点ではChat GPTが手に入れられてない情報だろうから、答えることができてない部分もある。しかし、逆に言えばデータをAIが持っていれば自然に導けると思う。

今回の質問は、法人税に関する質問である。こんなにマイナーな論点をある程度正確にまとめることができるなら、近い将来、国税庁がAIを使えば納税者に対して圧倒的に強いポジションを取ることができるかもしれないなぁと思った。

ある日国税庁の担当者がこんなことを言う。

「こちらもすべての納税企業のデータ、および民間データベースから同じ方法で計算しました。このAIが算定しているので、BIG4のコンサルタントが言ってることのほうが無理があるんじゃないですか」と。

そして世間も裁判官も確かに人間のほうが恣意的だよねと納得するだろう。

専門家がそのポジションを守れるかどうかは、国がAI使い始めるかどうかにもかかっている。太刀打ち出来ないので対抗するか、職を失うしかない。

ただ、例えば今回のようにもし徴税機能自体がAIに取って代わられるのであれば、会社も対抗してAIが経営したほうがよっぽどよい。結局のところAIにすべてやってもらえばいいんじゃないかという世界になるのだろう。

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