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あき

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秋の俳句はこちらに。
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【俳句】ティータイム 秋から冬へ

        紅葉                       黄葉               椛 秋の季語ではあるけれど 木々の色づきには遅速があって ソメイヨシノなら9月の初め、 ハナミズキも10月を待たずに紅葉する。 紅葉の足取りは、町中に立つ街路樹より かえって山々の方が遅かったりする。 初冬のこえが聴こえそうになったころ ようやく色づきはじめて、お? 常緑樹の山懐に点々と、明るい差し色。 一日ごとに気温の低くなる季節は 一日ごとに時間の速度が遅くなる。 そ

たんぼLOVE「11月」

11月にもなると 天日に干していた稲はすっかり取り込まれ 稲架の組み木もかたづけられます。 田んぼに残るのは、実を取ったあとの藁ばかり。 一束ごとに藁でくくられた藁束が 刈田にじかに置かれています。 よく晴れた日には、いつもの棟梁さんと 昔のことなら何でも知っていそうなおじいさん達が 畔に腰かけ、藁束を作る仕事をしています。 藁をくくるのも藁だなんて 稲には無駄になるところがないのですね。 ある日曜日。 田んぼの中程に棒が「にょこ」っと立てられます。 5、6メートルはあり

さよなら秋 2023

幸せを求めすぎると幸せになれない、と言います。 足ることを知らず、今よりもなお満たされようとすれば つねに精神が貧した状態になってしまうからでしょう。 このブログでは 今年の夏の尋常ではない暑さについて 何度か書きましたが、 初秋のおとずれを感じるのが遅かった分 その後の秋の深まりは急速だったように思えます。 晩秋の1か月の間に、秋の移ろいがギュッと 濃縮されていた気がしました。 風邪をひいて早引けをした日がありました。 熱も咳もたいしたことはないのですが、 人のなかにい

たんぼLOVE「10月」その2

例年、この辺りの田んぼは 9月の終り頃から稲刈りが始まります。 10月ともなれば、農家の方の繁忙期。 けれど4月5月の田起しや田植の頃にくらべると 人数も少なめなのです。 春に手伝いに来ていた様々な方たちは、 もういません。 最近外に出るようになったニートの方かな? なんて勝手に思っていた人も(まあ失礼な)、 見かけなくなりました。 稲作を取りしきる棟梁のような方が その相棒さんと二人ばかりで、 稲を刈っては束ねて、稲架掛けにして、 といった仕事をくり返しています。 稲作

たんぼLOVE「10月」その1

10月が来ました。 田んぼの10月はとくべつな月。 それぞれ遅速はあるけれど、あちらこちらで 稲穂が黄金色へと変わります。 収穫の季節の到来で 農家さんは、大わらわです。 とはいえ。 ひんやりとした朝、 農家さんのいない田んぼを 守る誰かがいます。 そう、案山子です。 でも。 雀たちには、人形だってばればれですよ。 近よっても動きませんから。 ……なんて無粋を言うのはよしましょうか。 稲がいい具合に色づいてきたら、一仕事。 刈り入れの前の田んぼの水を 抜かなくてはなりま

たんぼLOVE「9月」

季節は白露をすぎて秋分へ。 今年はそれでも残暑が退いてくれないのですが 朝は草々に露がびっしり結ばれています。 どうしたものか、例年よりよほど多く 前の晩に雨でも降ったのかと思うほどなのです。 季節の名のとおり白い露の揺れる畦を行けば 稲穂が浅緑の葉のあいまより 重く実った顔をのぞかせます。 早くも曼殊沙華の芽が伸びています。 他より先に一本だけ伸びたその先は、堅い蕾。 蜻蛉が止まっています。 年に数回おこなわれる畦の草刈り。 この曼殊沙華は、花を咲かせる前に切られるので

【おさんぽ俳句】この草のうえに、晴と雨

何日か前のお天気ニュースによると、 今年は十年に一度しかないほどの暑さなのだとか。 え~。 そんなこと言われても。 もう9月なのに。 ということで、秋らしい話でも書きます。 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * すこし早く起きた休みの日が 昨日までよりひんやりと感じたら。 散歩に行きたくなるフラグ。 朝ごはんの時間ももったいない。 さっそく出発です。 土手にのぼって川下へ。 残暑が長引いているとは言え、 朝から虫の鳴く、そん

たんぼLOVE「8月」

青い稲が風になびきます。 その青さは、季節によって変化します。 6月の、ようやく膝丈くらいになった青さ。 7月をすぎて、腰にとどくくらいの青さ。 丈が高くなるにつれ、色はうすくなります。 風がやめば、色薄い頃の田んぼは眠たげです。 ことしの8月はどうしたものか、 お盆をすぎても猛暑日がつづいています。 ふらりと田んぼに寄ってみると 7月よりもさらに青色が薄まって さっと黄色がさし込んですらいます。 近づいて見てみれば、 おっと。 はやくも稲から、穂が出ているではないですか。

さよなら秋 2022

空想に歯止めの利かない子供でした。 ここにいない何かが、いつも頭の中で話し掛けてきます。 得することもないこの力を 制御できないまま大人になってしまいました。 そんな大人の暮らしはどのようなものなのか。 端的にいえば 眼のまえにないものばかりを いつも待っているような心理状態です。 「ここ」にはない世界を「ここ」にはないもので 埋めていくために生きている。 しかと意識したことはなくても どうやらそのために 「ここ」で生きてきたと思えるのです。 ぼくがもう少し はっきりと

団地ロマン

なぞなぞです。 大きな四角の中に、ちいさな四角が入って それぞれの小さな四角の中に、さらに小さな四角が入って その中では人が恋したり、泥棒したりしています。 なーんだ? 答えは、団地の各お住まいの中のテレビ。 なんて冗談はさておき。 団地のならぶ一帯を散策するのは ちょっとした冒険気分です。 小さな四角に区切られた箱の中に住む人は ドールハウスの住人のようです。 あるいは化粧箱の中で それぞれの仕切りに納まったお菓子のようでもあります。 さながら分厚いビスケットや

あんこブームがマイブーム(だなんて)

食欲の秋、邁進中の lylinです。 いま現在のおきにいりは、あんこです。 まさかじぶんに「あんこブーム」が来るなんて 去年のいまごろは思ってもみませんでした。 それなのに。 いまじゃ、おやつはあんこメイン。 ヘビ―ローテーションは、どら焼き。 こんなに食べていたら、ドラえもんになっちゃいますね。 なりませんよ。 あはは。 人って変わりますね。 じぶんのなかで、これは変わらないだろうと思っていたことも あんがいあっさり変わる。 こんな不思議があるんですね。 もとよりお

おさんぽ俳句「どようび」

家のちかくに田んぼがあります。 どの季節でも見あきませんが、いちばんの見どころは 夏の青田から秋の黄金田へ移り変わる頃でしょうか。 八月上旬 立秋の候 田んぼは、青田の季節です。 帰宅時刻の夕方、田んぼも空もまだ青く 燕が勢いよく飛び交っています。 それなのに、お盆を過ぎてしまうと おなじ時刻でも、空は薄暮。 燕に入れ替わって、蝙蝠が飛ぶようになります。 昔、この辺りには もっとたくさんの田んぼがあったとか。 こんな光景が、以前はこの町でも見られたかもしれません。

おっと、たいふう。

#    剃りにくき髭を起こせる厄日かな     梨鱗 雑節に「二百十日」という日があります。 台風がよく来る日とされ、「厄日」とも呼ぶことも。 今年は9月1日がそれに当たりますが、 すでに八月の半ば、台風8号が列島を騒がせていきました。 みなさま、ご無事でしたでしょうか。 掲句は、台風の気配を危ぶむ心情を詠んだつもりですが……。 実はLylinは、台風大好きです。 あらあら。 昼間からどんより曇っている空に、ワクワクします。 窓を波のようにザンブザンブと打つ

野で遊ぶにはまだ早い

今回は僕の尊敬する俳人、 田中裕明氏(1959-2004)の俳句を紹介します。         穴惑ばらの刺繍を身につけて    田中裕明 『花間一壺』                        「穴惑」は秋の季語。 本来なら冬眠に入るはずの蛇がまだ、 眠るべき穴を見つけずにいることを言います。 その季節に、ばらの刺繍の人にふらっと出くわしたとも、 ばらの刺繍のように派手な蛇が人前を通ったとも読め、 秋の日差しの下の、軽やかで心地よいショック。 かすかな婀娜っぽさもあ