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聖夜への招待状|クリスマスアドベントカレンダー

12月10日 某所 

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 街中が輝くイルミネーションに彩られ、あちらこちらに赤と緑の飾りが目立つ季節。人々は温かな布地にくるまれ、白い息を吐きながら隣合う人と言葉を交わす。静かに心が浮き立つ、そんな時節。
 桃花(とうか)は1年の中でも12月がいちばん好きだ。冷たくしんとした空気も、それとは対照的な浮かれた雰囲気も、すべてにロマンを感じることができるから。こんな日には、自分の過ちも愚かさも過去も、許してしまいたくなる。きっと白い雪がすべてをふわりと隠してくれるだろう。

 外国かぶれの恋人のおかげで、桃花の家には海外の絵本がたくさんある。その中の多くがクリスマスを描いたものであることも、この季節を楽しめる要因のひとつかもしれない。恋人のすきなヨーロッパ圏ではクリスマスが大々的に祝われ、年越しなんてほんのおまけ程度らしい。日本の風習とはやけに違う。
 生粋の日本人であり葬式を仏教式で行う桃花でも、華やかなイベントは楽しい。いまどき花祭りなんて国をあげては行わないので、クリスマスはなんとなく特別な感じがする。今年なんて、恋人が買ってきたシュトーレンをドイツに倣って律義に切り分け、クリスマスまでの日を数えながら食べている。日が経つほどに味がしっとりと深くなるので、毎日が楽しい。

 そんな桃花が家に帰ると、恋人はまだ帰っていなかった。その代わりなのかなんなのか、赤と緑の枠に囲まれた封筒が机の上に置いてある。はてな、と思いながら封を切ると、手紙である。

『きたるクリスマス・イヴ、仮面舞踏会を開催する。仮面をかぶっても尚、パートナーを求めることができるかの挑戦である。心して備えよ。  
                   サンタクロースのしもべより』

 illustratorを使って本格的にデザインされた紙面を見、桃花は内心、ぶってんなあ、と微苦笑をこぼした。

 これはきっと、先日結婚するか否かの話がでたことへの、恋人なりのアンサーなのだ。生活をともにするのが本当にこの相手でいいのか、不安になるのはきっとだれでものことだろう。その答え合わせをイベントでしようとするあたり、桃花の恋人はとことん派手好きでとことん疑心暗鬼でとことん運命論者だ。

 受けて立ってやろうと思う。指定された日まで14日。14日後には、運命との答え合わせが完了する。その日までに桃花は、運命の歯車をすきなように改造してやろうと思う。
 桃花もまた、とことん疑心暗鬼でとことん運命論者なのだ。


 がちゃり。玄関扉の開く音がする。

「おかえり~」

 そう言って桃花は、手紙と封筒をそっと本棚の隙間に滑り込ませた。

「お風呂入る? ごはん食べる?」

 桃花の笑顔は完璧だ。サンタクロースにでもトナカイにでも、いっそピエロにでもなれるだろう。

 自らの手で、幸せという名の贈り物を得るために。幸せという名の贈り物を渡すために。

 ここから既に、仮面を被った劇場は始まる。




【つづく】

 

#クリスマスアドベントカレンダー


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