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【ものがたり】ショートショート

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短い物語を。温かく見守ってください。修行中です。
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#夢

夢には破れない ~ショートショート~

『俺は夢破れた者を、負け犬だと思ったことはない。だけど引きずり続ける夢を言い訳にして他を蔑ろにするやつは人生の敗残者やと思うけん』  高校生2年生の頃、図書館の片隅で読んだ小説に、その一文があった。その頃はとにかくたくさんの小説を読んでいたから、他に埋もれて内容の詳細は覚えていない。けれどその一文は、なぜか私の中に残り続けた。  残り続けたと言っても、座右の銘になったとかそんなことは一切ない。なんならほとんど思い出すこともなかった。ただ、意識のどこかに記憶されていた、という

留学生 ~ショートショート~

 私には恋人がいる。その恋人は、付き合って僅か1週間で海外留学に行ってしまったけれども。  見送りの日、彼はぎりぎりまで群衆の中で私の手を握っていた。その温もりを残り香のようにして、私は何も変わらない毎日を過ごしている。 「櫻井さん?」  アパートの廊下で、ひとりの男性に話しかけられた。このアパートは私の通う大学の学生が多く住んでいるところで、私はこの廊下の突き当りに部屋を借りている。声を掛けられたのは部屋に戻る途中だった。 「はい?」  私の3つほど手前の部屋から出てきた

世界が終わったその後に② ~ショートショート~

 ①はこちら。  ――もう終わった世界で、僕たちは夕陽を見ている。 「できた」  ロイがそう言ったのは、太陽がちょっと赤くなったくらいで、ネイラはロイの足にもたれて眠ってしまっていた。 「本当だ。すごい」  僕が拾った壊れたロープは、そりゃあ完璧じゃないだろうけど、ちゃんとロープに戻っていた。  ロイは、ちょっと疲れた様子で、でもとても満足そうに笑っていた。そのままロープを持って立ち上がるから、ネイラが起きてしまった。 「おにーちゃ?」  寝ぼけながら手を伸ばすネイラの頭

世界が終わったその後に① ~ショートショート~

 ――昨日、世界が終わった。 「あーん。もう、そっちの取ってよう!」  ネイラはもう言って、持っている棒で水面をつついた。その棒は僕の背ほどもあって、ぐわんぐわんと弛んで上下する。瓦の上を進んでいたロイが、無表情でその棒をぐいっと押さえた。 「ノア。それよりもロープ」  言われて、あ、と僕は思い出す。ごわごわとした太いロープは、もうすぐ手が届きそうなところにある。 「ご、ごめん。ちょっと待って」  左手を水面から飛び出た電柱に掛けて身体のバランスを取りながら、水の下で揺れる