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ルールのあり方を再定義!「学びのルールワークショップ」実施レポート

社会にはさまざまなルールがあります。学校や職場、家庭においても、あるいは友人間の暗黙のルールなど。これほど身近に溢れるルールに対して、私たちは学校などで「守る」の必要性は教えられてきましたが、それ以外の接し方、つまり「ルールをつくる」「ルールをかえる」「ルールをやぶる」など、他にもあるはずの方法について十分に学んできたことはありませんでした。

現在Learn by Creation NAGANOの実行委員である齋藤新は、ふだんはNPO法人グリーンウッドの事務局長として、子どもたちの山村留学をサポートしています。

その主軸の事業である「だいだらぼっち」は1年間じっくり実施するプログラム。子どもたちが主役となり、起床や消灯の時間、日中や夜の過ごし方、その他食事やお風呂の用意など、暮らしにまつわるすべてのルールを、話し合って決めています。

「だいだらぼっち」では、ルールはうまくいかなければその都度調整するもの。斎藤は「だいだらぼっち」で働くようになってから、ルールはその場にいる人たちが安心して過ごしたり、目的を達成するためのもので、そこにいる誰もが主体者のはずである、ということに気づいたそうです。

だいだらぼっちでの普段の食事の風景。だいだらぼっちでは、暮らしのルールを自分たちでつくっている。

また、普段からアートエデュケーターやファシリテーターとして活躍している臼井隆志さんは、アート教育の事業開発や組織作りのファシリテーションを行うなかで感じたことを、「人を自由にするルールを作る」という課題設定として、SNSで発信していました。

守るべき規律とされながらも、ときに「無意味」「目的がわからない」とも言われてしまうルール。人を自由にし、自律的に学びを得続けるために必要なものは、どんなものなのでしょうか。そのあり方をもう一度考え直すため、臼井さんをファシリテーターに迎え、オンラインでの「学びのルールワークショップ」を斎藤が企画しました。
Youtubeにて、この二人による「ルール」についての対話も行っておりますのでぜひご覧ください。


このnoteでは、1月10日に開催したワークショップの模様をお伝えします。

まずは、自己紹介!

今回の参加者は8名です。最初にチェックインとして、自己紹介や今回のワークショップに興味を持った理由などを順番に話していきました。

参加者のなかには、教育学を専攻している学生や、学校の教員も。

そのうちのひとりである学生の方は、子どもたちがダンボールや折り紙などで自由にものづくりできる部屋を作り、そこではどんなことが起こるのかを研究しているそうです。

「創造性を阻害するかもしれない」という考えから、その部屋にはルールを設けていませんでしたが、あるとき子どもたちから「ルールがあったほうよいのでは」と提起されたとのこと。改めて、ルールを作るとはどのようなことなのかを考えたい、と話していました。

また他の方は、中学校に勤める先生。生徒の自主性を大切にする学校で多様な生徒が集まりますが、生徒間の相互理解がなかなか進まないために、ルールについて話し合う場がうまく進まないのだ、と言います。話し合いを全員が気持ちよく進めるためにはどうしたら良いのかを、考えたいと参加を決められました。

「だいだらぼっち」で行われるルールづくりとは

参加者の皆さんの話を聞いて、「社会、家庭、教室など、本当にいろいろなところにルールがあるのだと改めて感じた」と臼井さん。

ワークショップに入る前に、事前に実施していたトークセッションを振り返ります。

2枚のスライドで提示されたのは、「だいだらぼっち」で行われているルールづくりをもとに、ふたりが話したことです。


子どもが主役となって、1年間の過ごし方を決める「だいだらぼっち」。あくまでも活動の主体は子どもたちですが、参加する子どもたちも運営する大人たちも守るべき「3つのおきて」が存在します。

この「3つのおきて」ができたのは、10年ほど前。子どもが主役だけれども、お互いに気持ちよく過ごすために、と考えだされたものです。「おきてと同時に、やってはいけないこと・やられては困ることに対する子どもたちの意見交換があって、秩序が守られているんですよ」と齋藤は話します。

「だいだらぼっち」では、完成された場を目指すというよりも、1年間、大人も子どもも一人の人間として参加し暮らしながら、みんながより豊かになれる暮らしを考え続けるそうです。

嫌だったルール・おもしろかったルールを考えよう

ここから、参加者と一緒にルールについて考えるワークショップが始まります。用意されたのは、1枚のスライドです

上記サンプルでは、臼井さんの事例が書き込まれています。これを参考に、8分間、参加者それぞれ書き込んで発表しました。

ここでは、みなさんの発表をかいつまんでご紹介します。

<嫌だったルール>
(子どものころ)
・登下校時は携帯電話を触ってはいけない
・授業中に飲み物を飲んではいけない
・給食を残してはいけない
・宿題を全部出さないと帰れない
・通学中はなにかを買ってはいけない。でも、教員は許されている。
(大人になってから)
・入社してから3年間は、会議で発言してはいけない
・集団下校。子どもたちの喧嘩の元になるのに……
など

<おもしろかったルール>
・(大学にて)迷ったら、進めてみよう!
・(児童館で)暗闇おにごっこをするときには、必ず懐中電灯を持つ
・育休を取得しない場合にだけ申請する
・残っている人がいる場合は「お先に失礼します」と言って帰る
・出し物は、仕事よりも優先して本気でやる。
・(スノーボードで)失敗しても成功しても「ナイスラン」と言う
・(山村留学で)ふりかえりの会では反省しない。よかったことだけを語る
・(哲学対話で)最初と最後で意見が変わってもいい、むしろそれが学び
など

<嫌なルールに共通する要素は?>
・どうでもいい(あってもなくてもいい)
・「こういうものだから」と押し付けられる
・道徳的に「良い」とされることを強制されること
・形骸的なもの
・自由でも困らないのに決められている。前例的なもの。
など

<おもしろかったルールに共通する要素は?>
・禁止されるものではなく、推進力がある
・ルールだけど楽しめる
・ポジティブになる
・気遣いが感じられる
・なんとなく意図が伝わってくる
・逸脱を許容されている、気持ちが楽になる
など

発表されたなかでも特にユニークな発表だったのは、「暗闇おにごっこをするときには、必ず懐中電灯を持つ」というルールでした。暗闇おにごっことは、日が沈んだ後に体育館の電気を消して、子どもたちが遊ぶおにごっこ。危ないので、懐中電灯を持つというルールができました。

ただ、このルールができてから、懐中電灯を隠したり振ったりするなど、ルールの範囲内で遊び方をアレンジする子どもも出てきたそうで、「楽しむ余地があるルールだ」と感じたそうです。

参加者のみなさんの様子を見ると、これまでにどのようなルールに接してきたか思い出し、書き出すのが大変だったようです。8分をめいっぱい使って記入していました。

良いルールを生み出す動詞を考える

「だいだらぼっち」の子どもたちの自主性を育てる「3つのおきて」について知り、これまでに接してきたルールをそれぞれ振り返って、いよいよ最後のワークです。

このワークでは、それぞれが考える「良いルール」を作り、営むための動詞を考えます。それまでに対話してきたことを踏まえて、ルールをリフレーミングするために、「ルールを〇〇する」と表現してもらいました。

そこで記入されたのが、こちら。

「ルールのもとをたどる」「ルールをはずれる」「ルールで遊ぶ」といったように、“ルールだから守るべきである”と盲目的に従うのではなく、ルールのあり方を考えるような動詞が並びました。

「人の輪の数だけルールはありますが、普段は生活に溶け込んでいるためにあたりまえすぎて、なぜそのルールがあるのかを考えることはなかなか無いのではないでしょうか」と齋藤は会を締めくくります。

情報や技術が広がり、多様さが細分化され、さまざまに変化が起こる現代社会では、生活にいかにルールが溶け込んでいたとしても、うまく活用できなくなってしまうこともあるはずです。

今回のワークは参加者のみなさんが、身の回りにあるルールに目を向け、ルールの存在意義を改めて考え、ルールに関わる人達でどのように運用されていけばよいのかを考える、スタート地点となったのではないでしょうか。この記事を読んでくれたあなたにとっても、ルールを捉え直すきっかけとなりますように。

Text: 松本麻美

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