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2023年6月のふりかえり|やっているうちに面白くなるのに

photo above: Takusen Inamoto

今月のハイライトは、「かがやきロッジ」の看護師・赤池芳恵さんと、丹後半島の鈴木昭男さんとすごした別々の時間が、首位を争奪中。


5月◯日

日本仕事百貨が試している合同説明会(就活)のオルタナティブ「かこむ仕事百貨」が、北軽井沢のTAKIVIVAで開催された。2年目。一緒に滞在して、ファシリテーションのごく一部を担当。

仕事百貨は、でき女やでき男の集まりというわけでない「がんばれベアーズ」的な愛嬌のある連中だが、つまり自己完結的でないし、どの人にも共通して「損得勘定に長けていない」感があるところが私は好き。
いまの社会は、損得に敏感な人間を育てる方向によく整っていると思う。高校で始まる金融教育も、成年年齢の引き下げにともなう必要性はわかるけれど、損得教育になってしまいそうで気がかり。

ナカムラケンタさんは、損得でない軸性を持ち合わせた彼らと、会社という〝ひとの居場所〟をつくりつづけていてすごいなあと思う。TAKIVIVA/きたもっく代表の福嶋誠さんの話も、夜にサシでたっぷり聞いた。泊まりがけのプログラムは余白が多く、想像以上のことが生まれやすい。


6月◯日

5月につづき「書くワークショップ」のβ2。集まった数名と5日間、どんなワークショップになるか試す。

やってみて思うのは、「書く」ことにハードルを感じていたり、「書く」ことと自分の間に距離を感じている人が多いんだな、ということ。あるメンバーは「書くことと仲良くなりたい」という言い方をしていた。

自分においては思わぬ副産物として、スマホを見る時間が激減した。先月からつづく集中的なワークショップの滞在が、「砂漠をラクダでゆく断◯◯ツアー」的な効果を発揮したのだろう。
かわりに増えたのは、本を読む時間と、メモを書く時間と、周囲の人々の姿や景色を眺めている時間だ。懐かしい世界に帰ってきた気分。

「書くワークショップ」は、5月と6月の2回でステージ1を終えた感じ。そうだと面白い。角を曲がるとその先が見えるし、尾根筋に出れば次の頂が見える。つづく9月のβ3で、このあともやってみたいと思えるかわかるだろうし、自分自身の「書く」ことの今後も見えてくるんじゃないか。


6月◯日

頭や心に身体はないけど、「動きたい」とか「跳びたい」基本欲求があるんじゃないかな?
「心が弾む」と言うとき、実際に弾んでいる感覚があるし、面白い話を読んだり聞いて楽しくなるのはそこに「動き」が生まれているからだと思う。

「面白い」というのは「あーー動いた(笑)」ってことなんじゃないか。


6月◯日

12月の「どう?就活」にむけて益田ミリさんの『マリコ、うまくいくよ』を読む。読みながら、本の中に登場する20代・30代・40代の各マリコが、ほのぼのとした絵柄ながら、なぜああもギスギスしているのか?  同類を憎んでいるのか?  と呆気にとられる。

未来の自分や、過去の自分(のような人)を、腹の中で批判し合っている社会や会社なんて最低じゃないか。それを慈しむことは…うーん、できないなあ。


6月◯日

「aftersun」をみる。ある女性が、まだ小さかった頃に、お父さんとすごした最後の数日間を描いた映画。見終わってしばらく自分の記憶と混ざって不思議な状態になった。錯覚が長くつづいた。


6月◯日

アソブロックの元代表・団遊さんから新しいプロジェクトの相談。曙橋のオフィスに、素敵な数名が集まった。
以前から団さんともっと一緒にすごしたい気持ちがあり、それは仕事をするのがいちばんいいので喜んで顔を出したものの、「自分にできるかな?」という一点が不安。空欄を埋める言葉がない。(つづく)


6月◯日

岐阜県美術館の仕事の前日、ひさしぶりに「かがやきロッジ」を訪ねる。診療帰りの市橋先生や、一日の業務を終えた平田・増井・赤池・関口さんたちが残ってくれて(お疲れだったろうに)、田瀬さんが設計した庭先で一緒に飲み食いしながら夕暮れどきを味わった。

市橋さんは以前「想像できる人生は、もう生きたことにする」と話していたことがあって、実際、本人が本人の想像を越える方へ仕事と人生の舵を切りつづけている。
新たに始まった取り組みの話も聞いた。

建築計画の始まりにかかわったこの建物(かがやきロッジ)が、彼らがくり広げる冒険の足場というか、船のように働いている様子が感じられて嬉しい。空間は本当にちゃんとつくるのがいいですよ。365日・24時間、わたしたちを支えたり背中を押しつづけてくれるわけだから。(ウェブサイトも同様)

ロッジ前に、新しいバスの停留所ができていて驚いた。この日は彼らから思いも寄らない預かり物も受け取った。いろいろ想像を越えた日。


6月◯日

「サウンドバム」サイトの再公開が終了。バムメンバーの川崎さん、オアイオニアの永島さん、私、そしてなにより岡田晴夫さんの協働作業。岡田さんは昨年12月に亡くなってしまったけど。

ウェブコンテンツは、HTMLが古いと表示が崩れたり、セキュリティの脆弱さを理由に検索結果から除外されるなど、意外に寿命が短い。インターネットというミドルウェア(でいいのかな?)あっての表現物で、つくづくパッケージメディアと違う。

「サウンドバム」は音の再生にFlashを使っていたので、そのサポートの終了が致命的だった。しかし手を入れ直す余裕がなく、そのまま長く経ってしまっていたが、Pioneer/Sound Lab.に移設する方向で一年半ほど前からコツコツ作業が重ねられてこの再公開に至った。アレンジをしたのは岡田さんだから、彼の置き土産だ。

書いた自分も忘れていた「音のある世界で」というシリーズを発見。30代中頃のつたないインタビュー群だが、佐野元春さんがレコーディング中に聴いていた音の話、駒沢敏器さんの屋久島の森の体験談、飯野賢治さんのゲームの中の音の話など、どれも貴重。

「音」から世界をつかまえる仕事はまだいくらでもできるな。F1エンジニアの舘内端さんの、音の話も面白い。

数日後下北沢で、サウンドアーティストの鈴木昭男さんのパフォーマンスがあった。裏表のまったくない人。ここまでない人も珍しい。再会がとにかく嬉しくて、手を取り合って喜んだ。

翌日、10年ほど前『わたしのはたらき』に書いた彼のインタビューを読み返し、電車の中で笑い転げた。下の引用は笑うというより味わい深い箇所。

── 他の人たちがすぐ飽きてしまうところで、ずーっとつづけられることが、人それぞれなにかある気がする。では、それをやめずにつづけてゆくとなんになるのかな? という興味があります。

鈴木 そうですね。僕がこれまでつくった楽器は、誰でも音を出せそうなので「触ってみたい」とよく言われる。でも「どうぞ」と渡すと、数分でやめてしまうんです。それが不思議ですよね。やっているうちに面白くなるのに。

『わたしのはたらき』

昭男さんに限らず誰においても、「あきない」ことは本人の才能の在処なんじゃないか。


6月◯日

羽田発の深夜便でチェンマイへ。7月につづく。


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