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1. 空気の違うまち

西村佳哲

東京と二拠点居住、と言いつつ暮らしの軸足はこちらに置いていた神山町(徳島)を、来年の5月末までに離れることにした。簡単な事の次第と、思うところは日記に書いた。
https://livingworld.net/nish/dialy/19292/

離町のタイミングは、移る先が見つかれば早まる可能性もある。この数年取り組んでいたような仕事(町の地方創生と、まちの状況づくり)をまたどこか別の場所でとはいまのところ考えていない。そのとき自分が出会った人たちと、その場所で出来ることを形にしてゆくんでしょう。

でも折角なので、ここにいるうちに、あまり書くことのなかった神山のこと、神山から見えた東京のこと、ここでなにをしていたのかなど、気の向くまま書いてみようと思った。

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神山はなんだか不思議なところで、訪れた人から「空気が違う」とか「なにか生まれやすい感じがする」という感想を聞くことが多い。

自分もそう思う。逆に、訪ねてみても、なにも起こりそうにないというか、起こりにくいし育ちにくい感じがするまちはある。除草剤をまかれて固くなった駐車場の地面のよう、とか言うと怖い表現だけど、つい「…難しいよな」と思ってしまうところ。ヤブ化の進んだ緑地のような地域はあるなあと思う。

この違いはなんだろう。

二ヶ月後に進行役をつとめるセミナーのゲストに、造園家の高田宏臣さんがいて、このところ彼が書いたものを読み込んでいる。『街の木を守る、街の木に守られる』という小冊子もよかった。

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木が水を吸い上げて蒸散させていることは、誰でも知っていますよね。

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でも同時に土中と大気の熱交換や、空気の浄化も行っていること。根に沿って菌糸(糸状菌)を広げながら、CO2を蓄積し、炭素を含んだ黒土を育んでいること。一本の大きな木が、周囲の環境を安定させながら、土の中を涵養しているということをあらためて知った。

まちかどに生えている大きな木の価値や意味合いを、再認識できたんですよね。これはよかった。

で、この「健康な木々の多いまち」と同じことが、木でなく、人で起きているのがいまの神山なんだろうなと思う。

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先月FRaUの取材チームが数日間滞在して、いろんな人の話を聞いてまわっていて、届いたゲラに「出会ったどの人の話にも必ず〝NPOグリーンバレー〟の名前が顔を出す」というくだりがあった。グリーンバレーは神山というまちの大きな木の一つだろう。

枝に鳥がとまり。足下の木陰では実生も育ち。葉を広げながら土を育て、周囲の空気をよくしていて。大きな木がもたらしている機能と、本当に相似的だ。

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自分が初めて神山に来たのは2007年9月だった。面識のないグリーンバレーから、彼らのウェブサイトづくり(後の「イン神山」)の相談をもらい、まず町を訪れてみなさんに会ってみようと考え、二泊三日の日程で来た。

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一人だと心細かったのでトム・ヴィンセントにも一緒に来てもらった。

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東京から来た専門家(一応私たち)そっちのけで屈託なくワイワイ語り合うグリーンバレーの人たちを見て、私も「空気が違う」とか「なにか生まれやすい感じがする」と感じたんだよな。
それで、来る前までは慎重に「お断りするかも」と伝えていたけど、夜には企画をまとめてイン神山をつくり始めたんだ。14年前のことだ。(家を借りたのはその7年後)

けどグリーンバレーに限らず、このまちに、そんな木のような人々や場がいくつも生えていて、そのつながりの中に生命圏が広がっている様子がよく見えた。生まれ育った東京のまちでは、何十年暮らしていても自分にはよく見えなかった。

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いまはまだ生まれて間もない小さな店や、新しいプロジェクトも、いずれそれぞれ枝葉を広げた木になる。時間をかけないと育たないものは、時間をかければいい。神山で町役場と「神山つなぐ公社」という一般社団法人をつくり、理事の一人に就き、集まった仲間たちと5年少々働いてきたのだけど、その公社も、まちを涵養する木の一本に育ってゆくといいなと思う。

自分は自己紹介と、あと「最近なにをしているの?」と聞かれるのが苦手で。この数年間も神山でせっせせっせと働きながら、そう聞かれると答えに窮することが多かった。「えっと、すごく働いているけど、なにしてんだっけ?」という感じ。メタ認知能力が低いんでしょうか。

次は、7年間なにをしていたのかを書いてみようと思います。


*イン神山 https://www.in-kamiyama.jp/

*11/10のセミナー「今、地方だから建築でやれることがある」(町の工務店ネット)は、顔ぶれが素晴らしいので、ぜひ多くの人に見て欲しい。
https://machi-no-komuten.net/archives/27431

*そのゲストの一人、高田宏臣さんが今年6月に上梓した『土中環境』は大変よく読まれているようで、早くも10刷を越えた。まちづくりや土地利用を考える上で、とてもいい補助線を引いてくださっていると思う。
https://amzn.to/2YrwA5O
『地球守の自然読本』という小冊子もいい。お薦めします。
https://chikyumori.org