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千葉・外房R128 酒蔵めぐり【2】一宮・稲花酒造

房総半島の太平洋側には、66kmに渡ってゆるいアーチを描く『九十九里浜』が広がっています。

その九十九里浜の南のはしに位置する一宮(いちのみや)町に、「稲花酒造」はあります。東京2020オリンピックでサーフィンの競技会場になった「釣ヶ崎海岸サーフィンビーチ」をはじめ、サーフスポットや海水浴場がひしめく町です。

酒蔵から、一番近い東浪見(とらみ)海岸までは車で約5分。こんなにビーチに近い場所で酒造りが行われているということに驚きました。

国道128号線から離れ、のどかな風景が広がる畑に囲まれた道を進むと、目に飛び込んできたのは「稲花(正宗)醸造元」と書かれた木の看板(たぶん、今は使われていない釜の蓋ではないか思う)。細い道を入っていくと空に向かって長く伸びる煙突が現れて、ここで酒造りが行われていることがわかります。

庭で酒瓶を洗っていた方に「お酒を買いに来たんですが……」と声をかけると、「あっちですよ」と指さしてくれた先に見えたのは、酒蔵と思われる瓦屋根の建物。

 赤いうちわに描かれているのは千葉県の誇るゆるキャラ、チーバくん!

黒光りするどっしりとした引き戸がガラガラと開き、「どうぞ!」という声にしたがって中に入っていくと、ほのかに日本酒の香りが漂う、ひんやりとした空気に包まれました。

入り口の近くには、お酒を買う人のために、酒瓶が並んだテーブルが置かれていますが、薄暗い奥の方に目をやれば、酒造りに使う大きなタンクが並んでいます。

訪問したのは9月下旬。まだ、酒造りは始まっていません。このあたりでは、酒米の収穫時期は食用米より遅いのだそうです。翌日出かけた勝浦の朝市で新米を売っていた農家の方によれば、「ここら辺では、お米の収穫は8月末ぐらい」とのことだったので、そろそろ酒米の収穫時期だったのかな。

「どうぞ!」と声をかけてくれた女性は、蔵元の秋場さんでした。「千葉のお酒って認知度低めだし、海の近くで醸造しているから塩辛いんじゃないの?とか言われることもありますよ!」と笑いつつ、おすすめのお酒をいくつか選びながら、酒蔵とお酒造りにまつわるたくさんの興味深いお話を聞くことに。

「うちが酒蔵を始めたのは、江戸時代。その頃の一宮はイワシ漁や、林業などが盛んだったんです。庄屋を務めていたので、漁業や林業のほかにも、小作人を雇って米も作っていて。そのお米を使って酒造りを始めたのが、酒蔵の始まり……」

……と、江戸時代から始まった秋葉さんのお話は、明治を駆け抜けて昭和へと続き、お酒造りからお米作りまで多岐にわたり、時間が経つのを忘れてしまうほど。

中でも印象に残ったお話のひとつは、扁平精米※のことでした。「稲花酒造」は、近年注目を集める扁平精米で酒造りをした最初の蔵なのだそう。

「扁平精米は、精米の難しさもさることながら、丸いお米に比べると洗米や蒸し方も違うので、細部に気を使わなければならないんです。だから、扁平精米のお米を使う日は、いつも以上に気を引き締めて取り組んでいますね」と話す秋葉さんに、扁平精米での酒造りへの情熱をひしひしと感じました。

醸すたびに違う結果が出る、酒造りの難しさと奥深さについても「30代のころ先輩杜氏から言われた『酒造りはいつも一年生』という言葉の意味がやっとわかってきました」という秋葉さんの言葉が、耳に残っています。

この日はお酒を買うだけという予定でしたが、お酒を買って蔵を後にしたのは、なんと2時間半ほど経ってからでした!

上総の国 一の宮 純米吟醸 無濾過生原酒(稲花酒造)

この日「稲花酒造」で買ったお酒のうちの一本が、『上総の国 一の宮 純米吟醸 無濾過生原酒』。未開栓で1年オッケーということなので、日本に置いてきました。次回の帰国が楽しみです!

嬉しい&楽しい時間超過のため、次に予定していた酒蔵を飛ばして、御宿(おんじゅく)の「岩瀬酒造」へ向かいます。

酒造の庭にわさわさと咲いていた、山吹色やオレンジ色のコスモス

※扁平精米:ラグビーボールのような形のお米は、通常の精米では丸い形になります。扁平精米は、ラグビーボールの幅を保ちつつ、上の部分と下の部分を平面的に薄く削いで平たくしていく精米方法。丸く削られたお米で造られたお酒に比べると、クリアな味わいがが特徴です。


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