Pentas(non-no渡辺編)④
次の週末。私の足は渡辺さんのお店に向かっていた。かなり浮き足立っている。
「こんにちは」
来慣れた店の、いつもの作業台の奥にいた渡辺さんが振り向いて笑顔を見せた。
「いらっしゃい、来るの待ってた」
「え?」
「もうすぐ店閉めるから、ちょっとまってて」
「・・・うん・・・?わかった」
気づけばお互いに敬語が外れ、フランクに話すようになっている。彼が片付けるのを、花たちを見ながら待つ。今日も少しだけガーベラが残っている。白いガーベラをもらったのが随分前のように感じた。あの日は二度と忘れられないだろうなぁ、と心の中で思ったと同時に、渡辺さんの声がした。
「ごめんね。おまたせ。」
「ううん」ガーベラに向けていた視線を渡辺さんに向けると、彼は手を後ろにして立っていた。
「え、なに?」
「うん、これ、渡そうと思って」
そう言って彼が後ろから出してきたのはきれいな白い花束だった。もちろんそこには、白いガーベラも入っている。
「え?かわいい!」
「今日、来てくれると思ったんだよね。そしたらなんか作りたくなって。」
「初めて渡したのが白のガーベラだったから、もう白のイメージなんだよ」と彼は笑った。
受け取った花束は、白のガーベラと白のカーネーションがメインだった。
「白いカーネーションもかわいい」
「白のカーネーションの意味は、純粋な愛。西洋だとSweet and lovelyって言われてる。俺の気持ち伝えるにはこれかなって思って。」
「えっ?」
「前に、俺のアレンジを認めてくれたでしょ。もうあれ以前からたぶん好きだった。でも、あんなに俺の欲しい言葉を素直に言ってくれるなんて、運命かなって。本当に感謝しかなくて。そう思ったら、こんなの作ってた。」
と、彼は恥ずかしそうに笑った。
うれしい、以外の言葉が見つからない。本当に信じられない。なかなか言葉を発せずにいた。彼はつづけた。
「初めの出会いは本当に最悪だったと思う。今でも申し訳ないと思ってる。でも、あのときそこいたのがほかの人だったら、たぶんこんな気持ちにはならなかった。」
「好きだよ。」
とどめを刺した彼の告白の言葉に、私は小さくうなづくことしかできなかった。
「なんか言ってよ」と笑う彼の腕が伸び、気づいた時には私は彼の腕の中にいた。
これから彼との人生がスタートする。
…epilogue
「ねぇ、Pentasってどういう意味?」
仕事終わりに店に来て、いつもの椅子に座っている彼女の言葉を、店の片づけをしながら聞く。
「え?この店の名前」とふざけて答えた。
「そうじゃなくて!なんでこの名前にしたのかって話よ!」と彼女も笑った。
「ああ、ペンタスっていう花がかわいかったから」
「それだけ?」
「うーん・・・よし、片付け終わり。今日何食べる?」
「あ!この前できた和食屋さんに行きたい!」
「向こうの通りのやつ?いいよ、行こう!」
やった!と、彼女は席を立った。その後ろについて俺も店を出る。
店のカギを閉めて振り向くと、
「行こ!翔太!」とはじける笑顔で右手を差し出した彼女が、何よりもいとおしかった。
はいはい、とその手を握る。
ペンタス。別名、Star Cluster。花言葉は「希望が叶う」「願い事」。
この店に来た、何かを伝えたい人たちの希望や願いが叶いますように。
fin
(ペンタスは渡辺の誕生花でもある)
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