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書籍『イナンナの冥界下り』

安田 登 2015 ミシマ社

漢字発生時の「心」の作用、すなわち「時間を知ること」と、そしてそれによって「未来を変える力のこと」(p.5)

イナンナの冥界下りに興味を持ったのは、M.マードック『ヒロインの旅:女性性から読み解く〈本当の自分〉と創造的な生き方』がきっかけだ。
イナンナがエレシュキガルに会い、Black Motherの顔を得ることが、女性の回復であり成長に不可欠であることを描く下りで、イナンナが登場するのだ。
女性の深い傷つきを語る上で、一度きちんと触れておきたいと思うようになった。

そのうち、この神話が能として演じられたことを知り、ますます興味が惹かれるようになった。
そして、手に取ったのこの本だ。

シュメールの神話は、ギリシャ神話のように物語(登場人物の感情や行動に因果がある)になっておらず、10代の頃にはよくわからないままだった。
それを、こころ=言葉以前の時代の名残として位置付ける解釈に納得した。作者は「あわいの時代」と表現する。
現代とはものの見方や価値観があったことを汲み取るように、最も古い時代の神話を読み解く過程は興味深い。

「死」こそが「心の時代」の最大の産物のひとつなのです。(p.85)

こころを表す言葉を発明してこころを獲得してから、人は過去と未来を認知し、後悔と不安を抱くようになった。
それは極めて男性的な(男性性的な、のほうがよいかな)時代である。
こころと言葉を扱う仕事に就く者としてスリリングで刺激的で、どう受け止めてよいのか。
私の冥界下りを思い出さねば。

これは本屋さんで買うべき本。
手触りの良い、素敵な本だ。

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