病歴30:皮膚転移疑い その後
麻酔の注射は、虫歯治療で歯茎にするときも痛いが、それ以外の場合も痛い。しっかり痛い。
鼠径部にできたおできは、数週間の間にすっかり小さくなった。
粉瘤ぽくないので細胞診のために手術しましょうという話だったが、小さくなったのでやっぱりなしにしましょうと言ってもらえないかなぁ。
そういう淡い期待を持って、皮膚科に受診したところ、皮膚科医もうーん…と微妙な笑顔で迷う様子だった。
おそらく、私ががん治療中でなければ、手術はしなくていいですよ、と言われるぐらいの小ささになっていたのだと思う。
が、粉瘤も繰り返すので切っておいたほうがいいっちゃいいですね、という結論になり、観念した。
処置室に横になり、麻酔の注射を数本、深さを変えながら打ち込まれる。
声を出すほどではないが、なかなか痛い。刺すときよりも、液が入る時に痛い。
看護師さんが手を握ってくれる。優しい。
途中で痛みを感じたり、足りない時には麻酔は追加されるという説明があった。
でも、最後の一番深くに入れた分は感じななかったので、そのことを伝える。
効いているか効いていないかがわかるのは本人だけだし、ちゃんと効いている目安になりそうなことだと判断した。
ほんとに麻酔っておもしろいもので、感触はわかるが痛みはわからない。
皮膚を切られる感触はわからないし、針をさす感触もわからないけれど、糸を引っ張る感じはわかる。
あんまり意識を集中させると緊張が高まるので、思い切って喋るほうに切り替えた。
麻酔の注射は痛いけれど、今までもっと痛かったのは、膣の内側から針をさして腹水を採取した検査だったこと。
看護師さんと、医師が、「え?」という顔をする。
あれは主治医を蹴飛ばそうかと思いましたと、笑いを取る。
看護師さんから、「あの台の上でしょ? 蹴飛ばせないですよね?」とツッコミが入ったが、心の中では蹴飛ばしたかった。
今までで一番痛かった検査はあれだと思う。
これが私の痛かった記憶の第3位ぐらい。
2位で痛かったのは、子宮や卵巣を摘出した開腹手術の後かなぁ。
第1位の痛みの記憶は、卵巣が破裂したとき。まさにその瞬間と、そこから続く横になった時の横隔膜のあたりが炙られるような痛み。
臓器を切り取った手術後とどっちもどっちなのだけど、やっぱり、最初の体験は強烈だった。
目の前に星が飛び散るとはこのことか、というぐらい、目がちかちかする感じだった。
ぴよぴよとひよこも飛び回っていたかもしれない。
卵巣が破裂しちゃって、腹膜播種するわ、失血で死にそうだったわ。
病院に救急搬送されて、麻酔をしてもらって、ほっとしたことがあるから、私は麻酔というものへの信頼度が高いのだと思う。
そういう話をしたら、そういう体験は滅多にないのでわかる人が少ないと思うと看護師さんが笑ってくれた。
私も、伝わりにくいと思っているから、こうして記事に書いている。
そうこう話している間に、手術終了。
当日は入浴禁止。翌日からは、泡立てたボディソープで、顔を洗うように手で洗うこと。
数日は体液が滲出するかもしれないし、糸が引っ掛かってセルフ抜糸にならないように、傷跡をカバーしておくこと。そのやり方や素材。
3日間、抗生剤をのむこと。
抜糸は一週間後。
普段通りに生活してよいが、ヨガやストレッチで患部に力をかけないように。汗をいっぱいかいたら、ガーゼをかえること。
いろいろと注意を受ける。
私はビビりなので、だめと言われたことはしないし、試す気はないです。むしろ、じっとしていたいです。
帰宅するまでも、口の中に薬剤を感じた。
ふわふわするような、軽い頭痛のような気持ち悪さを感じるようになり、結局、この日はほとんど横になって過ごした。
夜になって麻酔が切れてくると、なんとなく微妙に痛い。
姿勢によっても引き連れるし、糸がひっかかるととても痛い。
寝る時も気になって仕方がなかった。
翌日は出勤だったのであるが、思いがけず、運転がつらかった。
鼠径部のあたりって、ブレーキやアクセルを使うたびに動く。そのたびに、引っ張られる。痛い。
座っていても、なにげない行動で傷跡が気になってしまう。
更に、長時間座って体重がかかっても痛くなるのでつらかった。
傷が開きそうになったら、10分間、手で押さえておくように看護師さんから言われていたけれども、なにかと痛くなるたびに押さえていた。
もうずっと押さえていたいぐらい、気になるし、痛みもあった。
仕事を休んでばかりで、クライエントの予約が入りきれなくなっている状態で、これ以上休むわけにはいかないと思っていたけれど、休めばよかった。
翌週。4回目の抗がん剤治療をはさんで、抜糸の日が来た。
皮膚科の若い女医さんが、ささっと抜糸をしてくれる。
最も大事だったことは、皮膚転移の疑いが否定されたことだ。
本当に、ほっとした。
その後も多少の痛みは続いており、スクワットや開脚のストレッチのようなことは避けている。
昨日からはやっと入浴を再開した。シャワーばかりであると肌が荒れてきたから、これは嬉しい。
一つ一つのささいな身体の不調があるたびに、転移であるかどうかを否定しなければならないことがしんどいものだと感じた6月から7月にかけてだった。
サポートありがとうございます。いただいたサポートは、お見舞いとしてありがたく大事に使わせていただきたいです。なによりも、お気持ちが嬉しいです。