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滅びの園

恒川 光太郎 2018 KADOKAWA(幽BOCKS)

仕事に疲れた大人向けの童話のようなスタートだった。
そこはとても不思議な世界で、どこかのどかなファンタジーのようだった。
主人公の鈴上誠一と共に、その世界を理解しようとするうちに、物語に引き込まれた。

ページをめくる手を止めると、物語に置いて行かれそうになる。
この物語がどう進むのか、まったくわからないと思ううちに、読書がはかどった。
いくつもの謎の理由が見えてくるのは中盤以降だ。そこから更に物語は加速する。

凡庸な人物であるはずの誠一と、幼くして異才に目覚めていく野夏、セーコ、理剣。
立場が異なれば、事象はまったく別の物語になり、人はたやすく誰かのせいにする。
名前を出し、顔をさらし、個を暴かれて、見世物にされていく彼らはいいのだ。
名もなき人々の無邪気で圧倒的で集団的な好奇心と依存心と正義感がざらざらと読み手の心を逆撫でする。
どんな災害に見舞われていても、学校は授業を行い、大人たちは会社に出勤し、マスコミはゴシップを提供する。

それは現実の映し鏡に相違なく、私はその大衆の中に埋もれることに、プーニーに飲み込まれようとしているかのような不快を抱く。
なにかに挑戦する人は爽快さを与えるが、彼らはプーニーに飲み込まれて同化することができなかった人々だ。
だから、その実、これは異類婚姻譚であり、今浦島物語、綺麗に終わることができなかった愛のせつない物語だったのだと思う。

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