【詩】「別れ」「月」「れい」

別れ

心に依らない痛み
お前との心地良い距離
仲良くなれるだろうか
お前をお前そのものとして
見ることができるだろうか
すでに別れが決まっている痛みよ

2024.9.12 浴室にて




ラードに月よじれて
ベタついたツラを塩水で流す
あの三日月はもうパリパリだ
香りは来ないで、
僕の夢の中で思い出させて、
腹の中で腐った食物だ。
ええ まずいさ 知っているだろう どんな見た目だってまずいさ でも吐けばいい そうさ 無駄だよ あの月でもじっと見ていればいい おお 明日は雨だぞ おい だから見てろって言ったじゃないか じきに月も消える その前に俺たちは消える なあ 今どこにいるんだ これからどうするのさ もう 隠れていることはないんだ

2024.9.14. コンビニの前で


れい

散らばった俺たちを拾い集める
俺たちは壁にもなれない
目立つ為だけに晒された者
どうして恐怖を植え付けるために俺たちは存在しているのか
お前たちはそんな種から美しい花が咲くとでも思っているのか
俺たちは障害を食うことを強いられている
与えられた選択肢のもう一方を知っているのに
お前たちはただ二択であることを叫ぶ
お前自身が一切叫ぶことなくお前たちは叫ばずにはいられない
お前たちの城の大きな影の中で暮らす俺たちを絶叫で踊らせるために
同じレヴェルに錯覚させるためにお前たちも踊る
つり革が揺れる ダンスを止めろ 広告が揺れる
進め、盲目になった時代の俺たちよ。
己を削ぎ落とすための痛みよ、突き進め。
全身を駆け巡る光から狂乱の夜を取り上げてみろ
俺たちは砂金を拾い集める
最初の閃き 最初のアイデア 最初のペンと最初の思考
白紙にさせられた脳で
散らばった砂金を探せ
たとえレールの上にあっても
崖の下にあっても
星空と結んだ記憶の中にあっても
恥じることはない
避けないのは心だけ
俺たちの実体はずっとここで砂金を集めている
その地図をよく見たまえ
いくら拡大してもそこにある砂金
隣人の花壇に撒かれた砂金
公園のベンチに埋もれた砂金
俺たちの耳の中に届く叫び!
さらさらと さらさらと
俯きながら さらさらと
よろめきながらも川沿いを行く
手すりを越えて この背丈を憎むか
針の霧雨を抜けて 塩辛い海水に飛べ
光は消えども真実の直線をみよ
片手に日傘がまた開かれるまで
荷物となる書物を引き釣り上げろ
目に見えない同じ籠に詰め込み
一筆を積み上げて行け
そうさ決して憧れやしない
お前たちの"苦しみ"に
それを同情と思われようが
それを無関心を包む虚偽と言われようが
まだ届き続ける
これからもずっと
光届くあいだずっと
俺が待てるあいだであれば
つつしんで待つだろう
こんな地いやそこに見えた
空席で

2024.9.X メモなし(たぶん喫茶店にて)


作:矢野南

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?