【詩】『疲労』

自分が書いた文字にすら明るい顔を向けることができない

散歩

発音が綺麗だなぁ
羨ましいなぁ
ティックトック
ユーチューブ
絶滅したのかなぁ
恥ずかしかったなぁ
誰にも言えない
何処にも書けない
なにも見ない落書き

雨上がり
パンケーキの香り
バターは水溜まり
無実だよね
黒い川底だ
メープルシロップだ
足りないけどね
また来るまでだ

小さな橋を学生が通る
何人も続く 夕暮れも
一瞬で声が響く
目を開けられない痛みだ
まだ見ていたい絵なのに

街は帰り道の川だった
俺は家から出たばかりだ
見送る言葉を持たず
ただ動く夜を認めた
人の多さを その距離を
知られるべき存在が
溢れんばかり表によって
押さえ付けられている

夕立ち終わり
言葉を探してゐる
だれよりも先に
鳥は歌い始める
我々には滾る間もなく
歌い始めたように思える
濡れタオル
取り替えて
疎らな黒雲と
土のかほりが
無人の部屋の暗い写像を包む
我々の立派なゆめの中に現れる
あちらこちらの墨汁で

犬にも猫にもなれない
人になることができない
不法投棄されたふるづくえ
それはいよいよ追い出された
除け者を見る目
除け者を見る目
目を閉じるのはどちらだ
除け者を見る目
除け者を見る目
口を開けた愚か者め
わざとらしく
わかりやすく
目立ちやすく
銃声を鳴らす
愚か者が奇を衒う
迷いなく不法投棄を撃つ
そこには誰もいないのに
死の影を取り囲んでしまう
改ざんだ
無駄な文字
いらないから
いらないから
弱い愚か者は

世界の広さは聴いていいらしい
ここを曲がったら遠回りでも
日陰道に光が滲み
重たい空気がまだあるらしい
初対面の人に
どうやってここまで来たか
言えない
どれも大切で心細い
ギターの弦それも
たるんでいる
しめろしめろと
俺は窓を閉めた



作:矢野南

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