短編|Forget me not
ああ、パスポートの作り直しをせねば。花が発いてしまった。
薄暗い部屋の奥、灰やほこりにまみれた机の上でやっと見つけたパスポートから植物の茎が生え、先端に花が咲いていた。スタンプのインクの色を吸って、何とも言えないグレーの色になっている。
私はパスポートを大切にしていた。なくすと不安になり、手が震えた。いつも肌身離さず持ち歩いていた。いつかこんな場所脱出してどこか遠い国へ行くんだ。いつか映画で見たような凪いだ海の見える小さな白塗りの壁の家に暮らすんだ。のんびり洗濯物を干しながら