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夢日記 ぼくはもう空を飛べない…

ぼくは空を飛ぶのが好きだ。
飛行機やヘリやハンググライダーではなく、自分のスーパーパワーで空を飛ぶのは最高だ。
色んな物を置き去りにしながら、自由に空を飛ぶ。
そんな毎日は最高だった。
そんな日々は確かにあったのだ。
だが、あの日、彼から愛を告白された日、ぼくは飛ぶのをやめた。

彼は世界を救うヒーロー。
超人的な能力で、ジェット機より早く空を飛び、戦車の砲弾を弾き返し、拳で岩を砕き、レーザーで鉄を溶かす最強の異邦人。
彼のことは、ずっとテレビで知っていた。
この世界に突如として現れた救世主。核戦争から地球を救った英雄。
だけど、ぼくとは関係ない世界の話だと思っていた。
ぼくは空を飛ぶのが好きだ。でも、その能力で人助けなど考えもしなかった。ぼくの力は貧弱で、ビルにぶつかったら怪我をするし、早くは飛べない。
ぷかぷか浮かんで、風に流されていって、急降下して地面すれすれで止まる。風任せなので、思った方向に行くのは難しいので、目的地への移動にも使えない。ただ、1つ、ぼくが異邦人より優れている能力はあったが、それは秘密だ。

そんな弱者のぼくが、風に流されて遠くの国の深い森に降り立った。
そこでぼくは一番の幸せを体験することになる。
誰にも邪魔されず、思い切り飛べた。
まわりには、ぼくのように飛べる人はいなかったので、ぼくは人に見つからないように凄い高い所を飛んだり、人がいない僻地に行って飛ばなければならなかった。
異邦人の最強の彼は周りの目を気にしている様子はなかったが、ぼくは極力人目に触れたくなかった。
ぼくのような人は、みんな自分の能力を隠して生活しているものだと思っていた。だから、世間の話題に上らないのだと。
能力のない人に見つかったら、研究所送りか利用されるか差別されるかだ。
そんなわけで、深い森の中でぼくは自由を満喫していた。

絶対誰にも見つからないはずだった。
だが、山火事があって、逃げ遅れた人を助けてしまったことで、ぼくの元に悪い人たちがきて、ぼくをさらって。。。思い出したくないような展開があって、そして、彼が来た。
ぼくは彼に救われた。それは事実だし、非常に感謝している。
その話は世界的なニュースになってしまった。
そして、そのニュースの最中に、彼はぼくに求婚した。

感謝はあったが、ぼくは見つかった能力者がどうなるのか恐怖があったし、最強の異邦人に守られる存在に耐えられなかったし、正直、好き嫌いの感情を異邦人の彼に抱くことはなかった。

ぼくはそれから逃れるために消えた。
「助けてくれてありがとう。どうしても国に帰りたいので探さないで」
そして能力を使わずに、目立たずに、名前と顔と性別を変えて、別の世界で暮らしている。

今日も空を見ながら「飛びたい」と思う。
だが、飛んだ瞬間に彼に見つかってしまう。能力のない人たちもぼくを追うだろう。

でも、飛びたいなあ。ぼくは飛びたい。

起きてテレビをつけるとオリンピックがやっていた。
BMX。自転車で宙を舞う彼らを見ながら、「また、空を飛びたい」と思ったら、じんわりと息苦しさを感じてクーラーを止めて窓を開けた。

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