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第9章 作戦

正式に弁護士へ依頼して妊婦健診のたびに相談へ行った。

いつ産まれるか分からないので、中途半端に負けるのは嫌だったからだ。

結果的には裁判で勝つのだけれど、このときは妊娠していて無職で生活力のない私を裁判官が親権者に選んでくれるとは思っていなかった。

ダメ元で弁護士をお願いしたのだ。

費用は100万円ほどかかると言われた。

子供たちに貯めておいたものを除いて、わたしの子供の頃からの貯金全額だった。

それを全て使うことにした。

子供たちの命を考えれば、安いと思った。

お金は働けば何とかなる。


母は強い。

子供のためなら何だってできる。

山も持ち上げられる覚悟だ。

弁護士と練りに練った作戦が出来上がる頃、夫から何で帰ってこないんだと連絡がきた。

それもそのはず、しらばくゆっくりしてくるとメールをして1ヶ月が過ぎようとしていた。

おかしいと思うのも無理はない。

すでに弁護士との話し合いで準備が整っている私は、帰るつもりはない旨を伝え電話を切った。

そして連絡先を速攻消した


離婚届も置いてきて、場所も教えた。

あースッキリした。

これで縁が切れる!と思ったが、そんなに世の中甘くはなかった。

すぐに実家に夫はやってきた。

話すことはない、と父は追い返した。

いつも優しい父の激怒ぶりに、あわてふためいた夫は、ただ帰るしかなかった。


それから毎日、仕事が終わると訪ねてきた。

玄関のチャイムが鳴ると、なぜか(夫に暴力を振るわれる!)と体が強ばり夫に心から恐怖を覚えた。

そのときから、夫の顔を見るのも声を聞くのも恐怖でしかなくなった。

心臓がバクバクし、息ができなくなるほど恐かった。

離れてみて、改めて自分は夫を恐かったんだと認識した。

こんなに夫に歯向かったことはない。

暴力になって返ってくるから。


そのほかに実家で問題視されたのは、わたしの普通が普通ではないこと。

わたしの普通は、もう一般的な普通とは、かけ離れていたようだった。

自分のためにお金を使うことを、申し訳ないと思っていた。

服も買わない、何かを買うときは許可をとる。

自分にご褒美などは、あげない。人にはあげる。

誰かに頼ることなく自分だけに負担をかけ黙々とやる。

など、自分にとっては当たり前と思っていたことを、妹と親は当たり前なんかじゃないんだよ、自分を大事にして良いんだよ。

と妹は、ここでもまた号泣していた。

自分を大事にしていない?なんのこと?

このときのわたしは、何が悲しくて妹が泣いているのかさえ分からなかった。

それほど自分を大事にしていない時間が、年月が長すぎた。

ただ、自分をわたしは大事にしていないようだ。ということは家族の反応で何となく分かった。

それほど精神的におかしくなっていた。

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