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雨、降りしきる夜の窓辺・3

 ひっそりとした室内。気配を伝えてくるのは、雨音とストーブの炎の揺らめきのみ。そこに潜んだため息を、少年は確実に捉えていた。このところ灯馬は頻繁にため息を漏らす。その原因が自分にある事を、少年は理解している。

ーー 俺なんて、ほっとけばいいのに……

 胸の中に浮上した思いを伝えても、灯馬は従わないだろう。常にともにある事が務めだと、信じて疑わないから。

 灯馬を【従者】と呼ぶ者もいる。しかし従うという文字が付いていても従わないのが灯馬という存在。まるで目付役。自分が半人前だと言われているようで気に入らない。少年は、芽吹いた感情を無視できなくなっていた。

 なぜ灯馬が自分の側に置かれたのか、少年は覚えていない。気づいた時には存在していた。生まれた時から一緒なのかもしれないし、出会いの記憶をどこかに置き忘れたのかもしれない。ただひとつ間違いないのは、灯馬の姿形、声、気配。一番古い記憶から今に至るまで、全て変化していないということ。

 老いという現象が灯馬には訪れない。そして、ある特定の人間と、灯馬本人が存在を感じて欲しいと思う人間の目にしか、その姿は映らない。少年は、灯馬の姿が見える事実に優越感を持ってはいない。むしろ、一種の異物感を覚えている。

 自分は見えてしまう人間
 普通ではない

 街に溶け込み、すれ違う人々と同じような生活をし、学校にも通っている。友人と呼べる人間もいる。それなのに。

『 貴方の真実を知ってしまう事が、相手にとって正となるか負となるか……私は後者だと思います。私が味わった苦悩を、貴方には抱えて欲しくない 』

 少年が過去に耳にした、灯馬の言葉。強い否定はしないものの、宿災の真実を伝える行為を制していた。

 宿災の事実を知った相手が、どう思うのか予想はつく。その身に災厄を宿し、感情を受け入れ共存しているだなんて、理解してもらえるわけがない。

 仕方がない
 それが運命

 少年は一旦はそれを了承した。しかし、己の深部に封じ込めた思いが時折顔を覗かせる。

 気づいて
 本当の姿に気づいて

 宿る災厄の感情ではなく、明らかに自分のもの。それを抑え込みながら生きることに、少年は疑問を覚え始めていた。

 刺々しい苛立ちは、少年の中で日々成長している。そして今は、沸々とした高揚感が苛立ちを押し退けようと主張を強めている。勝つのはどっちだ。


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