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雨、降りしきる夜の窓辺・4

「今宵の雨は元気が良いですね」

 少年の中にある闘いに割って入った、灯馬の声。その言葉通り、雨音は闘いを煽るように音を強めた。

 新しい年へと向かう冬の夜。窓の向こうの冷え切った空間は、雨に洗われながら朝を待ち侘びている。少年は、冷気が寄り添ったガラスに自分の姿を発見した。

 目にかかる黒い前髪。意識的に無に戻したはずの口元は微かに緩み、うっかり言葉を生みそうになっている。夜に映る輪郭は黒いシャツを纏い、決してガラスに映り込まない存在を意識している。

「灯馬……お前はもう、自分の感情を乱されたりは、しないんだな」
「珍しいですね」
「何が?」
「いえ。随分久しぶりに聞いたものですから」
「何を?」
「貴方の弱音を、です」

 弱音。そう音を放った存在に、少年は顔を向けた。

 笑みを浮かべた、青白く中性的な顔。ストーブの炎に照らされているにも関わらず、灯馬の背後、白い壁に影はない。それは少年にとって既に謎ではなく、ただ、そういう存在だという事実でしかない。

 穏やかで柔らかな笑顔と気配。それらを受け取って、少年は一歩だけ灯馬にその身を近づけた。

「いつまで続くのか……お前の中に答えはあるのか?」
「この身が滅ぶまで……そうとしか言えません」
「お前は、その時が待ち遠しいか?」
「私には手に入らないかもしれません。ですから、待ち遠しいと言う表現は相応しくないかと。貴方は、どうですか?」
「俺は…………このままでいる気はない」

 僅かに語気を強め、少年は振り返って窓を開けた。氷雨(ひさめ)。入り込んだ冷気が冬の匂いをきっぱりと伝え、部屋に満ちた暖かな気配を奪ってしまう。揺らめく炎。刹那強まった風に、少年の黒髪が舞い上がる。

「こんな夜に、俺の近くに来るな……!」

 窓から突き出した右手
 大きく開いた手の平
 環状の刻印
 環の中央

 飛び出したモノ
 鏃に姿を変えた雨粒の群れ

 向かう先に黒塊
 大きなクモを模したカタチ

 直撃
 粉砕

 雨に打たれ
 ナニモノかは地に浸み入り
 消えた

 シャツを濡らした雨を払わず、少年は窓を閉じた。僅かに軽くなった心。自身の中にあった闘いに決着をつけ、少年はひとつ、息をもらした。

「随分と腕があがりましたね。ですが少々感情的でしたね……あの零念(れいねん)、運が悪かった」
「コイツが嫌がったんだ」
 

 れいねん
 いや
 きらい

 少年は【コイツ】と表現したモノの声を脳内で受け止め、右手を握り締めた。皮膚に浮かび上がった刻印が消える感覚。熱を帯びた右手が冷めるのを待って、手の平をガラスに添わせる。


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