潮騒に告ぐ

濡らしてゆく濡らしてゆく
穏やかに
さらわれゆく連れられゆく
砂粒のように

同じところにわたしは立ち尽くしているはずなのに
少し少し削られゆく感覚
嘗て、そして今も
大地を浸食していったように

なのになのに足元の砂は却って積もってゆくの

岸辺に打ち寄す細波が
感覚に刻む不思議な錯覚

削られているのはどっち?
あの場所へ連れていかれるのは

この身体を置いて
太陽が沈むその先へゆけてしまいそうになるわ
柵も檻もぜんぶすり抜けて
気が付けばもう此処にはいないのかもしれない
ぬくもる水に分解された魂がこの身体を捨てるまであとどのくらい残されているのかしら

終焉の先に世界の端っこへゆけるなら
細波に曳きつけられてしまうのは
誰かが其処から呼んでいるからなの?
わたしじゃない私が愛したひとか
一つの世に昇華しきれぬオモイを放つ輝きか

惹かれてやまない
そちらにゆきたくなるくらいに
けど沈んだ底には苦しみしかない今はまだ
なにも終わってはいない

だから今は告げよう
またいずれ逢いましょう、と



©2015  緋月 燈



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