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文系出身の若手SIer社員が放送大学で情報学を勉強してレベル上げした話の続き:気が付いたら若手じゃなくなってた編

はじめに

この記事は社会人学生 Advent Calendar 2023の12月23日の記事です。note書く書く詐欺状態になってくれていたところ、きっかけを与えてくれた主催のmanamin(https://twitter.com/manamin0521m)さん、ありがとうございます。昨日の記事は先日リアルでお会いしたぷじぇば(https://twitter.com/pujeba)さんによる「社会人学生歴6年が思う、社会人学生に必要なこと3選」でした。電通大夜間、大変そう。

さて、「文系出身の若手SIer社員が放送大学で情報学を勉強してレベル上げした話」として記事を書いてから3年が経過しました。はてなブックマークに取り上げられてこともあり、初の記事にしてそこそこのPVを記録したことをありがたく思っています。

記事から3年経ってもはや若手とは呼べない年次になってしまったのもあり、その後の経過と近況、最近の関心事について書いてみようと思います。

もはや若手ではない

上記の記事でも書いていますが、私は2018年入社で某SIerに入社し、2023年のクリスマス現在社会人6年目になります。年次的には中堅に片足突っ込んで周りの人の当たりがだんだんキツくなってきたくらいです。転職がチラつく・・・というか周りの人がやたら転職し始めるお年頃ですが、まだ最初の会社にいます。

2021年の記事では「フロントエンドエンジニア兼UIUXデザイナー」と名乗っています(すごい自信だ)。ここから数年たった今あえて自称するなら「プロダクトマネージャ兼サービスデザイナー」という感じになるかなと思いました(すごい自信だ)。お客さんのシステム部ないしビジネス部にうねうねうねと入り込み、協力しながらプロダクトを世に出すような役割です。徐々にマネジメントも求められるようになってきてそれなりの開発部隊をまとめる経験もさせてもらい、自分のできることとできないこと、やりたいこととやりたくないことが徐々に見えてきました。大規模システムのPMはマジ絶対やりたくない。

現在はお客さんの新規事業を事業戦略からサービスコンセプトの立案、システム開発、サービス開始後の運用戦略までほぼ全工程にわたって参画するというSIer(というか弊社)にしてはなかなか得難い経験をさせてもらい、水平・垂直の両軸で仕事と責任と労働時間が広がってきています。サービスデザイン的な動きはうまくできるようになってきましたが、マネージャとしては細かいことが気になりすぎてキャパオーバーになり、本当に求められている全体のマネジメントができなくなりがちなことが弱点だとわかってきました。

そんな訳で、社会人学生としての立ち回りもかつての「システムエンジニアやるにしてはコンピュータサイエンスの知識が不足しているからちゃんと勉強したい」というものから、エンジニアに限らずデザイン・ビジネスを含むステークホルダと対話し議論するために、自分の中にインタフェースを開発する/素養を培うためのものに変化しつつあると考えています。中心視野のための勉強から周辺視野のための勉強に変わったといってもいいかもしれません(この辺うまいこと言いたいけど言えてない)。

社会人「学生」として

社会人学生としては上記の記事の通り2021年3月に放送大学情報コースを卒業、その後放送大学大学院で科目履修生を続けつつ、2022年8月に学位授与機構から情報工学の学位をいただきました。2023年度は放送大学の自然と環境コースに再入学しながら、東京都立産業技術大学院大学(Advanced Institute of Industrial Technology:AIIT)の科目履修生の方に比重を置きつつ社会人学生ライフを続けています。アドベントカレンダーの他の執筆者の方やAIITでの知り合いにも放送大学との二足の草鞋(仕事も合わせると三足?)を履いている方がおり、情報学やデザインといった分野であれば親和性が高いのかもしれません。というか今年の社会人学生Advent CalendarはAIIT関係の人がやけに多いですね。

社会人学生としてメインで活動しているAIITでは1四半期あたり1-2科目を履修しています。基本的に1科目当たり週2回授業があり、ものによっては品川シーサイドという我が家からは絶妙に行きづらいキャンパスへの登校が求められることもあり、AIITの1科目で放送大学の4科目くらいの重量感を感じています。現在はデザイン系を中心に、どちらかというとディスカッションやグループワークがある科目(「デザインマネジメント特論」「コミュニケーションデザイン特論」「価値デザイン特論」など)を中心に履修しています。「4科目以上で優を取る」という科目履修生向け入試の要件も幸いギリギリクリアでき、2024年度から正規の学生として入学するかどうか検討中です。

放送大学への再入学は面接授業と新規科目の履修を目的としており、再入学の卒業要件が+16単位と異様にユルいのもあって既に2024年度末での2回目の卒業が確定しています。2023年度後期の面接授業で(何かの間違いで落単しなければ)認定心理士の必要単位が揃う見込みなので、時機を見て申請しようかと思っています。

幾何学デザインの面接授業で作ったオブジェたち

BTDモデルとプロダクトマネジメント

目下最大のお悩みとしては、プロダクト企画開発時に顕在化してくる様々なトレードオフ(かのように見えてしまうけれど実はそうでもないものを含む)に対する対応の仕方です。

私は以前ミラノ工科大学というところに一瞬留学してサービスデザインの基礎についてスーパー詰め込み教育を受けたのですが、その中で「良きサービス」とは何ぞ?というのを議論した際に引き合いに出されたのがBTDモデルでした。①"Business Viability"=「ビジネスとしての生存可能性」②"Technology Feasibility"=「技術としての実現可能性」③"Design Desirability"=「人間にとっての(デザイン的な)望ましさ」の3領域の中心に答えがある(ことが多い)という考え方です。デザイン思考の文脈では(特に私のいるSIerのような会社においては)これまでビジネスとテックの視点しかなかったところにユーザの視点を取り込もうぜ!という文脈で雑に受け入れられている部分が多いように思います。

産技大のコース構成もBTDモデルを意識しているような気がする

BTDの3軸は一定の納得感がありますが、サービスをこれらの交差領域に留めおくのは困難というかほとんど無理だというのが最近の所感(あるいは自明なのかもしれません)です。プロダクトマネジメントという観点から考えると、ビジネス領域とデザイン領域は「ビジョンを実現するために何をするか」というWhatの話をしているのに対し、テクノロジー領域は多くの場合それらから一段下がったHowの話をしているため、プロダクトバリューの観点でより重要なのは(SIerの人間としてはやや苦しいところですが)BやDなのではないかと考えるようになりました。

BTDの交差領域に持っていくのが難しいという話ですが、例えばサービス戦略におけるKPIの達成・グロースハックといった観点は、サービスの成長にとって欠かせない一方で、いわゆるダークパターン(最近はdeceptive patternと呼ぶそうですが)と表裏一体です。売上や契約率といったKPIを達成するために解約導線を複雑化したり、ラベルの文言をいじくりまわしてユーザの行動を不利益になるほうに操作しようとすることは、ビジネス観点からは望ましいのかもしれませんがユーザサイドから見てUndesirableであることは明らかだと思います。

このあたりの意思決定はプロダクトオーナー・ビジネスオーナー、あるいはビジネス部の組織的な考え方に依存する部分が大きく、データ分析と心理法則の活用(悪用)でいくらでも"evil"になれてしまう状況で、どのように意思決定をするかが問われている感覚です。

不確実性のデザイン

ここ数年仕事をしてきて、サービスをベン図の中心に寄せていくにあたって明らかにデカい障害があるのがセキュリティであることに気づきました。かつてうっかりセキスぺを取ったせいでセキュリティ面での議論に度々巻き込まれているのですが、セキュリティがいわゆるthe elephant in the room(=明らかにそこにあるのに触れられないデカい問題)として触れられないままスルーされるケースが少なくありません。

例えばアカウントを発行して行動履歴データを取り分析して・・・といったシステムを構築しようとすると、アカウントのセキュリティやプライバシーの問題がどうしても引っかかってきます。私が携わっているプロダクトでも某大手通信会社の認証周りが(これまでの度重なるトラブルを経て)それはもうガッチガチに固められ続けてきた結果、いくらログイン後の導線をDesirableにしようと頑張っても、恐ろしく使いづらい認証システムのせいでUXが最悪に悪い、という事態が顕在化しており頭痛が痛くなります。

この辺を解決するための研究分野としてユーザブルセキュリティというのがあるそうです。名前の通りセキュリティを担保しつついかにユーザブルなシステムを構築(サービスを提供)するか、といった分野で、辺縁的な領域のようで実際にはプロダクトの提供価値に大きく影響するところだと思います。セキュリティ技術それ自体は必要とは思いつつあまり面白いと思えてきませんでしたが、こういった観点だと掘り甲斐があるなと再発見した次第です。ユーザリサーチを重ねる中で、非機能要件がUXに与える影響がメチャメチャ大きいことがわかってきました。

またSIerにいるとどうしてもシステム中心設計・・・というか画面中心設計っぽい考え方になってしまうところがあり、ガチガチすぎるセキュリティや確率的に応答するAIという、ざっくり言うと「ユーザ目線で納得いかない」要素がこれからガンガンシステムに組み込まれてくる中で、どのようなユーザインタフェースがDesirableなのかという問いは改めて興味深いと思います。デザインの議論の中では「XXのデザイン」という感じの流行りワードがちょくちょく現れますが、AI時代には「不確実性のデザイン(と最近勝手に呼んでいます)」が問われるのではないかと思っているところです。最近はNoUIに感化されています。

最近の個人的バイブルたち

これから先どこまで社会人学生を続けるかはまだ答えが出ていませんが、続けるのであればセキュリティにしろAIにしろ「ユーザの意図から外れた応答が返ってきやすい領域において(デザイン・テックを複合して)どのようにサービスを設計するか」といったあたりをもう少し研究してみたいと思います。もともと最初の大学院でユーザの技術受容モデルのような研究をしていたので、図らずも原点回帰しつつあるかもしれないなとこれを書いていて思いました。いかに優れた技術でもユーザに使ってもらえないと意味がない、という課題感は学生時代から今に至るまでずっと抱き続けています。

まとまらないまとめ

というわけでアラサーを迎えた今、

  • システムエンジニアから上流に張り出してプロダクトデザインっぽい仕事をやりだした

  • 社会人学生として学ぶ目的も目の前の業務や技術そのものというより周辺の人たちとコミュニケーションをとるための材料づくりに変わりつつある

  • 特にセキュリティ周りやAIなど、ユーザの納得を(前者は複雑すぎるセキュリティ要件、後者は本質的な不確実性により)超えたレスポンスがシステムから返却される領域についてどのように対応するか考えたい

という記事になりました。ここまで読んでいただいてありがとうございました。社会人学生Advent Calendarはあと2日続きます!

Happy Holidays!



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