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舟唄

「お酒は温めの燗がいい」
…うん、そうだなぁ。
「肴は炙った烏賊でいい」
…刺身ほど贅沢じゃ無いが良いな。
「女は無口な人がいい」
…お喋りな女将は、ちょっとなぁ。
「灯りはぼんやり灯りゃいい」
…店の中は暗い方がいいな。

なんだか「舟唄」の世界が、自分に近づいてきたのを感じる。


どこかの田舎町の、流行ってもいないような店で、カウンターに一人座りながら焼酎の湯割りを飲む。
肴は炙った烏賊も良いが、いい加減煮込まれたような、真っ黒な煮込みが良かろう。

カラオケなんて有っちゃいけない。
小さいテレビが棚の上で、紅白歌合戦なんかを流してる。
女将は黙って、カウンターに肘を着きながら、横目でそれを観てる。
そして時折笑ってみたり、小さな溜息を吐きながら、その度ごとにグラスを口に運んでいる。

三杯目の焼酎を飲み上げたら、ご馳走さまと言い、払いを済ます。
「よい年を」と、声を背中にしながら戸を開けたら、雪。

駅前のホテルまでは然程遠くはない。
体が冷えてしまったなら、熱いシャワーを浴びて寝てしまおう。
どこからか鐘の音が風に乗って聞こえてくる。

年の終わりは見知らぬ土地が良い。


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