明石市長の言う重症病床の確保のために何が必要か?

明石市長がひろゆきらと対談したAbemaTVの動画を見させてもらったが、私の思っていたように、彼は立憲のようなゼロコロナ論者ではないし、社会活動制限はできるだけ少なくして、とにかく民間病院を働かせて病床確保させたいという考えの持ち主のようだ。結局のところは「医療現場をできるだけ働かせて、その範囲で経済活動を優先する」吉村知事に近い考えではないかと個人的には思っている。

それはともかく医療現場の直面している問題について、明石市長は十分に理解しているとは言い難い。先日から指摘しているように医療現場の問題は単なる病床数ではなく、重症病床をみることができるマンパワー、特に看護職員の人手不足の問題が大きいからだ。実は医師はそれほど不足はしていないし、陰圧装置も多くの病院が院内発生に備えてすでに準備している。

一般の急性期病床は7対1看護という体制をとっていることが多い。ざっくり言えば、どの時間帯でも患者7人に対して最低でも1人の看護師を配置しなさいという体制で、実際このぐらい看護師がいないと急変などに際して安全に急性期の看護を行うことは難しい。一方で重症を扱うICU系の病床ではさらに手厚い看護体制が必要で、HCUでは患者4人に1人ICUは患者2人に1人の配置が決められている。また、コロナ重症病床では腹臥位治療や感染対策の観点からさらに人手が必要で、患者1人につき1人あるいは1人に2人の看護師が必要になると言われている(Nasal High Flowを使う場合はもう少し手薄でもいいかもしれないが)。

つまり外部から看護職の補充なしでコロナ重症病床(ICU)を10床増やすと、単純計算で他のICUを10床つぶすか、一般急性期病床を70床潰さなくてはならない。実際にコロナ中等症以上の受け入れ病院では30~50床ぐらいある1つの病棟を丸々潰して、数人の重症~中等症患者を受け入れるという体制をとっていることが多い(ベッドマップで見るとコロナ病床はスカスカに見えることが多い)。

明石市長の強く主張する「(県が)重症病床を増やす」鍵は、(1)他の急性期やICU病床をどれだけ削れるかと、(2)新規に重症をケアすることができる看護師を(過労で辞めさせずに)どれだけ確保できるかにかかっている。(1)についてはすでに各所で行われているが、先日の記事で指摘したようにこれは弱者や他疾患患者へ大きなしわ寄せを生む。

そこで白羽の矢がたっているのが患者数が減った診療所で働く看護師や潜在看護師の活用である。かといって、普段から重症者や病棟仕事をしていない看護師がいきなり重症患者をケアすることはできないので、彼女らを比較的スキルを必要としない一般病棟に配置し、現在一般病棟で働いている看護師を重症病床向けにトレーニングして、コロナ重症病床に回すという方法が模索されている。

しかし、潜在看護師の活用は思ったように進んではいない。

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少し古い資料だが、毎年5万人超の看護職員が誕生しているのに、妊娠出産や職場ストレスによる離職が再就業を2万人上回っているため、ケアを必要とする高齢者人口は急激に増えているにも関わらず年間3万人しか看護職員は増加していない。

また、一応看護職員数が増加していると言っても、少子化の影響で徐々に高齢化が進んでおり、急性期病院で重症者相手にバリバリ働けるという人は少なくなっている。

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潜在看護師の復職が進まない理由としては、

・子供が小さい頃の面倒は女性が見ることが多い
・夜勤と家庭との両立が大変
・ブランクや医療進歩のため復帰に際してスキルに不安がある
・そもそも妊娠出産したら仕事をやめるつもりだった

などが指摘されている。これらの問題を解決していかない限り、病院看護師数は増えないし、コロナ重症病床も(2)によって増やすことはできない。当然コロナ禍の短期間にどうこうできる問題ではない。さらにコロナによって同居家族以外との接触や高齢者との接触を減らすことが推奨されており、保育園でカバーしきれない時間帯の子育てを自らの親(祖父母)に手伝ってもらいにくくなっていることも状況をより悪化させている。

明石市は子育て支援などで定評があるのだから、真っ先にこのような問題に気づいて取り組める下地が揃っていたはずだ。「重症病床を確保せよ」と言うのであれば、院内保育所が充実していない近隣市外を含めた病院看護師の夜勤や延長勤務における子供の預かりを明石市内の保育園や学童で対応すべきだし、場合によっては保育園の保育士やシッターの派遣もすべきだろう。以前もこのnoteで指摘したようにコロナ対応する病院看護師の同居家族や、子育てを手伝う親族を高齢者以上に最優先ワクチン接種対象とする政策(これは厚労省の指針に喧嘩を売ってでも対抗する必要があるが、法律違反にはならないと思われる)を速やかに導入すべきだろう。もはや手遅れ感は否めないが。

もちろん給与面での待遇改善も必要だろうし、スキル面での復職支援も必要で、これにもまたマンパワーがいる。簡単には重症病床は増やせないし、増やせば大阪のように他の疾患患者に多大なしわ寄せが来る、これが今の医療界が直面している問題である。特に昨年春の緊急事態宣言では多くの患者が通院を控えたが、今年の2回の緊急事態宣言では高齢患者も何事もなかったように普通に通院してくるし、同じ人数で通常医療も回さなければならない。ただでさえ感染対策で、医療従事者には通常医療ですらいつも以上に多大な負荷がかかっている。根性ややる気でどうにかなる問題ではないことを、明石市長はもっと重症病床(たとえば加古川医療センター等)の現場を見て理解すべきだろう。

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