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医療機関のウィズコロナ

世間でのウィズコロナは大いに議論されており,もう自粛も行動制限も何もなくなったという会社や事業者も少なくないだろう.しかし,医療機関のウィズコロナの議論は全くもって遅れている.

医療機関のウィズコロナは論点として大きく2つに分かれる.
・医療提供体制についてのウィズコロナ
・医療機関内での院内感染対策としてのウィズコロナ

の2つだ.

前者に関してはマスゴミの皆様も大いに関心があるようであり,「全医療機関がコロナを診ろ」とかまったく頓珍漢な御託を並べているが(眼科クリニックとかがコロナを診れるわけがない.内科と耳鼻科は原則として診るようになるべきだと思う),後者に関しては関心が広がることはなく立ちすくんだまま従来のコロナ対応を続けている所も多い.それは単純な話で「院内感染で患者を感染させて重症化させたら,(倫理的にも裁判的にも)医療の負けだ」と思考停止して思いこんでいるからである.管理者の事なかれ主義も相まって,基本的にはゼロコロナを目指しているのが医療機関の院内感染対策であり,「感染対策のための感染対策」で病院職員のプライベートががんじがらめになって皆悲鳴を上げているのも,完全思考停止したゼロコロナモードで院内感染対策を続けた結果だ.

しかし,現実問題として職員はいろいろな形で社会生活をしており,第7波以降は,公共交通機関では車内ノーマスクも気にしないウィズコロナモードの人々がわんさか生まれており,いくら防御を強化しても大穴があいた舟からバケツでせっせと水をかき出すようなもので,職員や面会者,外来患者のコロナ持ち込みが減ることはない.はっきり言って無駄な努力である.しかしICTは感染をゼロにするための専門家であり,役割の上ではそれ以外の選択肢が提示できない.つまり分科会における経済専門家vs医療専門家の対立と同じ構造が,病院内でも一般職員vsICTという形で勃発しているということだ.

では医療機関のウィズコロナは一体どうしていけばいいのか?


今こそ発想を転換して,その病院の本来のミッションに立ち返り,感染対策の労力対効果や意味合いをよく考えることだ.

たとえば急性期病院のミッションは速やかに診断を下し,短期間で濃密な治療を行って退院または亜急性期病院へ転院させることである.院内感染が生じると隔離期間中は検査に制限がかかる他,転院が困難となって在院日数が2倍近くなったり,ベッド回転が著しく悪くなるため,極力院内の感染者数を抑えることがミッションの達成に重要である.入院患者には全員検査を行うか,入院当初の患者は持ち込みの可能性を考慮して個室管理とすべきだし,短期間なので患者のQOLを損なう行動制限や面会制限もやむを得ないだろう.職員については入院直後の患者と接する際には徹底したガードを行うほか,頻繁に定期検査を行って持ち込みを早期発見するのが合理的である.職員はたまの息抜きでハイリスク行動をとっても良いが,戻ったら必ず頻回な検査を受けるということを徹底する必要がある.

一方で亜急性期やリハビリ病院のミッションは,数ヶ月の期間をかけて絶え間ないリハビリを提供し,ADLを上げていくこと,そして次の生活の場の訓練をしていくことがミッションになる.長期のリハビリに耐えたり,生活の場への移行には,家族からの励ましや病状認識・意見交換が必須であり,厳しい面会制限はむしろミッション達成の阻害因子となる.患者も同一のメンバーが長期間病棟にいることも多く,患者同士の会話や情報交換も治療に重要である.また退院すれば世間にあふれるウィズコロナモードの人々と付き合っていかなければならない.重症化リスクがかなり高い人やワクチン未接種者以外の人には,ハイブリッド免疫をつけもらう意味でも医療監視下での院内感染をある程度容認することも考えるべきである.職員についても一人一人の患者と長時間相談に乗ったり,体を接触させてリハビリすることがミッション達成に重要であることから,一定数の感染者が出ることはテイクすべきリスクとして容認していくべきだ.また患者と職員間の人間関係もミッション達成に重要であるから,職員も心に余裕が持てるようプライベートは軽くウィズコロナモードになっても良いと思う.そして仮に患者が感染したとしてもPPEを着用して最後の順番にリハビリする,復帰直後の職員を配置するなど工夫をしてリハビリを続け,隔離による廃用を作らないことがミッション達成に重要である.

「院内感染を許容していく」というとなかなかピンと来ないかもしれないが,感染者をゼロにするのではなく一定の上限目標値を定めて,フローコントロールをしていくというイメージを持ってもらうといい.コントロールされたインフレターゲティングのようなものである.リハビリ病院で絶対にやってはいけないことは,病院が機能不全に陥るような大クラスターを発生させることである.職員と患者の感染状況を常にモニターして,特に病棟において近接箇所でのクラスターが発生しそうであれば,職員を含めて一時的に厳しい措置をとることはやむを得ないが,散発的な発生であれば入退院制限を行わず様子を見ていくということも考えていくべきだ.

最後に慢性期病院は以前からコスト面の厳しさもあって感染対策については今でも相当ユルユルな状況が続いている.入院時検査もしないし,熱が出てもひとまず解熱薬で対症療法して放置しまう.コロナ禍になってからナースステーションで四六時中ノーマスクの職員を見たのは慢性期病院だけである.これは社会的にそういう役割を付された病院と言っても過言ではないかもしれない.もともと慢性期病院は介護が手に負えず,棺桶に片足を突っ込んでいる人が行く場所であり,意見は色々あるかもしれないが,次に入院を待っている人にベッドを空けるというミッションのため,感染対策が甘いのは黙認していくしかないと思われる.

オミクロンになってから新型コロナは高齢者以外にとってはほぼインフルエンザ並,高齢者にとってもインフルエンザ×2回ぐらいの危険度になっている.事なかれ主義の影響で,いろいろなお願いベースでの感染対策が各所で惰性で続けられているけども,果たしてインフルエンザでも同様のことを続けるのか,今後もその措置を永遠に続けていくのか,院内感染対策も「ウィズコロナ」「出口」を考えながら模索を始める時期がすぐそこに来ている.


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