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#142 ゆるむ季節の目盛り

春の嵐が去った。
急に季節が進んだね、とか聞くともう嬉しくなっちゃう。そうすると、どうもわたしの思考は急に頼りない。いつもなら冷静に数字を変換するのに「最高気温20℃」と聞いて「やっほーい!」と置いてきた上着を慌てて取りに帰る朝。
おおらかにいることに憧れがあるのだ。
暖かな気候はそういう気持ちにさせてくれ、少々狂った目盛りを平気で読ませてしまう力があると思っている。
通りを渡る新1年生たちの、真新しい紺の色がきれい。


ベランダのチューリップはまだ芽が出ない。
息子が学校で育てていたのだけれど、一度鉢をひっくり返してしまって球根が転がりだしたのが良くなかったんだよなぁきっと。

爪が伸びるのがやけに速い。髪は昔から速い。
毎週爪を切る。裏からオイルを塗ると良いらしいのでせっせと塗る。こんなことをしているともう瞼が重くなってくる。
先週末の花見(という名の母親参加型イベント)の疲れが抜けない気がする。
仕事から帰るとお昼寝せずには何もできないのだ。これが困る。やりたいことは山ほどあるのに、頭と季節が追いつかない4月。

なんとなく「好かないなぁ」と思っていた仕事を断ろうと思う。
キャパを見直す。わたしのは子ども用茶碗くらいしかないのだから。
もう断ろう、次は断ろう、とのびのびにしてきて、ようやく4月の中旬というなんともはんぱな時期に決心するあたり、わたしらしいというか何というか。
きっとわたしじゃなくても大丈夫なのだし、と誰かに言い訳する。


日々よほどぼんやり生きているのか、急に視界が開けた時その明るさと精彩な景色に心臓がショックを受けて縮こまるような気持ちがする。そして自分の姿を鏡でまじまじと眺め「そんなことしてる場合ー?」と呆れた調子で独り言を言う。
もう少し頻繁に視界が開けてくれると良いのだけど、基本ぼんやりしているのでは無理な話ということになるか。


桜の季節は心許ない。弱い自分にどう声をかけて良いのか未だに掴めずにいる。世間の随所から湧き出る新鮮さとは裏腹に
自分の綻びや底力のなさに気がついて、両手にうんとぶら下げた荷物をどうやって運ぼうか途方に暮れるわたしには
荷物を仮置きできる台と、寒い首に巻くスカーフを手渡したい。
少しずつリズムを取り戻そうと思う。台車がなくても、そのうち元気が出るだろうから。

そうだな、まずは昼寝なしで過ごせるようにするところから。


るる


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