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「SKAM FRANCE」EP4イマネ編。思春期と家族と信仰の話

アマプラ見放題に登録されたと話題になっていた「SKAM FRANCE」。日本で配信されているのは、全7エピソードのうち「EP3:リュカ」と「EP4:イマネ」のみ。今回はEP3に引き続き、EP4イマネ編も完走。あっという間だった。

ノルウェードラマの「SKAM」

「SKAM FRANCE」の原型は社会現象を巻き起こしたと言われるノルウェーのドラマ「SKAM」(放送は2015〜2017年)。SKAMとは「恥」の意味だそう。

「SKAM」は、一話20分程度のショートドラマで、SNSと公式HPを連動したところが若者を通して社会問題を描くというテーマに合致して爆発的な人気となった。

一週間で起こったことを20分程度にまとめて放送しているのだが、放送後から次の放送までに公式HPにはドラマ内の登場人物がやりとりした会話がリアルタイムにUPされ、一週間分、HP内にUPされたものを編集して放送するという趣向のドラマだ。

日本で言うなら、NHKのドラマがHPを使って次の放送までに登場人物のアカウントのやりとりをUPし続け、次週予告映像を小出しにして見せていく、という感じ。

視聴者は次のドラマまでの一週間、登場人物のリアルタイムのやりとりを追いながら、いつの間にかフィクションの世界に引き摺り込まれてしまう。

日本のドラマ界ではこのような手法はなかなか生まれづらいのかもしれないが(当日視聴率が下がるのではないかという危惧など)本編が爆発的な人気を誇っていることを考えると面白いモデルだなと思う。

「SKAM FRANCE」とは

社会現象となったノルウェードラマはその後欧米で次々とリメイクされる。その中でも原作に忠実で内容も素晴らしいと人気を誇ったのがフランス版。

本家のEP1〜4に3エピソードを加えた全7エピソードで構成。それぞれのEPで主役が交代していき、EPごとのテーマがある。

EP1 ネットいじめと友情
EP2 性的虐待
EP3 カミングアウト(全10話)
EP4 信仰と人種差別(全10話)

EP5 難聴-目に見えない障害と障害
EP6 中毒と自己破壊行動
EP7 10代の妊娠

現在日本に上陸しているものは、EP3と4のみ。本国と同じく、一週間の出来事で1話が構成されている。高校を舞台にし、EPごとで主役は変わるものの出演者は被っている場合が多いので、やや公開されていない部分の主役の心情は理解しきれないところもあるが、全体の流れの上では問題なく見られる(楽天TVとアマプラで視聴可能)。

EP4:イマネ編

EP4は信仰と人種差別。主人公であるイマネはムスリムだが、昔からの友人たちとは違う高校に通っていて、人種も宗教も違う友達とうまく付き合っていた。

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兄の友人であるソフィアンにほのかに恋心を抱いているが、厳格な母、日常生活で人種や宗教において疎外感を抱いているイマネは徐々に友情にも恋にも疑問を抱くようになっていく。

頭もよく、自分の考えを迷いなくはっきりと持っていたイマネ。その純粋さは、成長するにつれ様々な問題と直面していくことになる。

思春期が衝突するものは

イマネは最近家族・友人・そして好きな人との距離を感じるようになっていた。自分は信念を持って信仰しているけれど、それはそれ以外の人たちの理解を得るのが難しいことでもある。そしてムスリムに対する偏見が根強いのも事実。

母親も信仰を忘れないようと厳しい目を向けてくるし、周囲の友人たちが自由に謳歌していることを宗教を理由に共有できないことへの焦りもある。

ただし、これは宗教でなくても誰もが通る道のように思える。仲良しの友達と何でも一緒、共に全てを分かち合ってこその仲だと思える年頃に、両親が厳しいから、自分はそこまで楽しめないから、あるいは金銭的な問題など二の足を踏んでしまう要因があり、そこから生まれる苛立ちをどこにぶつけていいのか分からない。

自分以外のみんながことさら仲良しに見えて、ついていけない自分を歯痒く思う。孤立することへの恐怖は学生時代誰もが経験していることだと思う。

イマネは恋心を自覚するにつれ、いやはっきり自覚できていなかったからこそ、自分の中に生まれる恐怖と焦燥の正体がわからず苦しむ。

恋をして得るもの、失うもの

イマネはEP3において、カミングアウトに悩むリュカに対して冷静で俯瞰的な視点でアドバイスをしている。同世代の友達と比べても成熟した感覚を持っていることがよくわかるけれど、自分が体験したことのない気持ちに触れた時、自分でも戸惑うほどに未熟で子供じみた行動に出てしまう。
(↓イマネとイマネが恋する相手、兄の友人のソフィアン)

これは優等生のイマネ自身も予想できなかったのではないのか。

それほど恋というのは人の精神をコントロール不能にしてしまうものだと思う。時に素晴らしい幸福をもたらすものでもあるし、人を悪魔にもしてしまう。

EP3において付き合うことになったリュカの友人のバジルとイマネの友人のダフネ。2人はあっけらかんと自分たちの恋愛を謳歌し、幸せを隠そうともしない。そんな2人をイマネはただ単純に祝福することができたのか。
(↓バジルとダフネ)

今までの自分ならば友人の幸せを無条件に受け入れられたが、自分が拒絶したソフィアンが別の女の子といい雰囲気になった頃からイマネは徐々に正気を失ってしまう。

自分が自分でなくなる瞬間、イマネは怖かったに違いない。これはお祈りを捧げる瞬間ですら、彼女を捉えて離してくれなかった。

誰もが思い出すのではないのか。好きだ嫌いだと言っていた先に、2人でデートしたりキスをしたりする瞬間が訪れる。そこからこれまでの自分とお別れをして、別の自分になってしまう恐怖と幸福。背中合わせの変化に、自分も周囲も戸惑う。そのズレを穏やかに自覚することもあれば、受け入れられないこともある。子供から大人になっていく、その戸惑いと受容には人種も宗教も関係ないのだと思う。

自分が生きてきた世界が別の何かと融合するとき

このEPにおいて、障壁となっているものの一つは宗教であったけれど、誰しも生きていく中で、友人や恋人との隔たりに悩むことはあると思う。

幼い頃は家族が世界の大半で、その中で得た居心地の良さに甘えて生きてきたけれど、自分の世界が広がるにつれ矛盾する気持ちが出てくる。
子供として守られたい気持ち、大人として認めてほしい部分。全ての人に理解される関係であれば苦悩することもないだろうけれど、大抵の人はその狭間に揺れ、これまでの自分と変化する自分との折り合いがつかずに悩む。

そこを通り抜けた先に、他の誰でもない「自分自身が」納得できる未来があるのだろうけれど、今回この物語を通して私は過去にそういうことがあっただろうかと考えた。闘うことを避け、適当に誤魔化して生きてきたのではないのか、とそんなふうに思えたEPだった。

信仰については自分は本当に知識が浅いし、イマネの苦悩を理解したとはとても言えない。けれど家族の考え方や友達との隔たりなど、分からない者なりに充分考えさせられた作品であった。
そしてこの物語の中でも、全ての人がイマネが望むように、ムスリムについて理解しようと変化する、あるいは理解を示したとは言えなかった。ただそれが現実なのだろうと思う。ただご都合主義に終始していないところもリアリティがあった。

このEPを通じて

イマネは疑問を感じた当初は、自分でも分からない怒りを処理しきれずに悶々とするのだけれど、最後にはちゃんと覚悟を持って向かい合い一つ一つ丁寧に解きほぐしていった。

とは言え、愛するだけでは乗り越えられないものもあるのだろうけれど、イマネには仲間がいて、家族がいて、確固たる信念がある。それだけでも自信溢れる彼女の未来がその先に見えるような気がした。ずっと信じ続けているものが強く心の中にある、そのことは彼女を縛ることもあるけれど、逆に自由にもするのだと思う。

EP3で意味深に取り上げられていた、イマネとリュカの恋人エリオットとの関係。今回のEPで謎が解けます(一番左がイマネの兄。そのことに絡んできます)

それにしても、EP4では主役ではないにせよ、画面の片隅にでもリュカとエリオットの姿を探し、どうしているのか考えてしまった。
出演シーンはまぁまぁあるのだけれど、リュカの会話で「エリオットと喧嘩した」というセリフを聞くだけでちょっと胸が痛かった。どうもエリオットリュカ中毒だ。この2人で映画とかやってくれないかな・・・

そして他のEPもぜひ見たい。配信スタンドの皆々様、どうか他のEPも上陸できるよう取り計らっていただけませんでしょうか・・・

サポートをいただければ、これからもっともっと勉強し多くの知識を得ることに使います。