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ドラマ「モアザンワーズ」のモヤモヤしたところを検証してみる

先日、アマゾンプライムにてドラマ「モアザンワーズ」のシリーズを見た。
途中までは好きなタイプの話だなと思っていたけれど、後半とてもシンドくて、いまだにその理由が何なのかよく分からない。モヤモヤしている、というのが一番しっくり来る気がする。


ストーリー


美枝子は恋愛が得意じゃない高校生、ある日親しげに話しかけてきた同級生の槙雄(マッキー)と親しくなり一緒にアルバイトをするようになる。そのアルバイト先で優しく接してくれた永慈(エイジ)とよく3人でつるむようになり、そのうち槙雄と永慈は付き合うように。ふたりがずっと一緒にいてくれたら、その様子を近くで見れたら・・・そう願う美枝子の気持ちはとは裏腹に、永慈は両親から槙雄との交際を反対される。美枝子は自分の願いの通りになってほしいと2人に「私が二人の子供を産む」と宣言。結果、美枝子は妊娠するが・・・

マッキーとエイジ

このシリーズは、

  • 3人の出会い

  • マッキーとエイジ

  • ミエコの妊娠

大きく分けて流れがあって、エンディングに流れる歌も時が流れるように変わっていく。STUTS(feat.Awich)やiri、くるり、など鋭角に時代をとらえた人たちが並ぶ。
基本的にドラマや映画のタイトルバック大好きなので、この演出はすごくグッときた。しかも歌が流れている間の会話や行動などが、長回しであることが多く、セリフがあるようなないような、ごく自然なやりとりが見られる回もありそれがまたいい。このドラマのテンションを表しているように思う。

今作の序盤の盛り上がりは、エイジがマッキーを好きである、ということがわかるところだ。それまでもマッキーの人となりは繰り返し「魅力的で」「男女関係なく人気者で」「モテる」ことが描かれているけれど、いつも一緒にいるようになった美枝子が必ず聞かれる「マッキーと付き合ってるの?」をエイジが確認することになるシーン。自分の性思考を認識し始めて間もないエイジは、勇気を振り絞って美枝子に聞く、そして自分の思いを告白する。
その思いはやがてマッキーにも知られることとなり、二人はゆるりとお互いを大事な存在にしていく。

マッキー演じる青木柚さん

魅力的で誰とでもフラットに、そしてフレンドリーに接するモテ男くんマッキーを演じるのが、これまでもドラマで度々お見かけしたことがある青木柚さん。

ちょっと儚げな印象を受けるのだけれど、マッキーという嫌らしくない人たらしのキャラがすごく良く似合ってました。近いところでNHKで放送された「ユーミンストーリーズ」で演じていた青年の役がすごく印象的で、金髪も似合うなかなか稀有な存在感のある方。今回マッキーが彼でなかったらもっと違うドラマになっていたかなと思うほど。
個人的な思い入れ?があるせいか、やはり後半、彼が辛い展開になるのがちょっと許せなかったかな。

エイジという役どころ

マッキーといい関係を築いていく歳上の彼が、エイジくん。マッキーも最初から彼に懐いていて、美枝子とともに楽しく過ごしていくのだけれど、結果的に彼らの関係を阻んだのは、エイジくんの父(演じるのは佐々木蔵之介さん)。
マッキーはエイジの家に遊びに行った時にこの父親とは会っていて彼独特の人懐こさで父親とも仲良くなる。そして反対された後でも憎めず、その上父親の思いも聞いてしまってますます、自分の存在に疑問を抱き始めてしまう。
そんなマッキーの複雑な思いを知ってか知らずか、エイジは父親の会社に跡取りとして入社することを決め、美枝子が妊娠した事実を知るなり、子供にとっては婚姻関係にある方が何かと都合がいいと、美枝子と入籍することを考え始める。
エイジはその前、染め物の仕事を一旦始めて筋がいいと言われるまでに成長はするのだけれど、結局は父親の会社を継ぐことになる。それまではおそらくフリーターで、散々親に心配をかけたからと言っていたけれど、この一連の流れはフリーターで好き勝手して、恋人もできたけれど、そろそろ落ち着く年齢か、と父親の会社を継ぐ態勢に入り、恋人とは別れて別の人と結婚した、である。
それでいいのか。
いや、好きなことして生きようよ!がどんなに空々しい理想論だとしても、あまりにも主体性のない人生じゃないか。
ここで少し引っかかり。
マッキーとエイジが楽しく暮らしていけたらいいのに、と単純に思ったことは事実だし、それが脳天気で楽観的な意見であると思われても仕方がないけれど、これまで性思考に悩んできただろうエイジがようやく掴んだ幸せじゃなかったのかマッキーは!とギリギリ奥歯を噛み締めたい気分にはなった。

美枝子の願い

対して、自分の願いを叶えたんじゃないかと思えたのが美枝子。これにもちょっとモヤモヤした。
美枝子は父親がいない。どうやら母と娘を置いて出て行ったらしい、ということがわかる。母を演じたのはともさかりえだけれど、彼女はやや素っ気ない母親だ。おそらく女手一人、娘を育てるためにパートと夜の仕事を掛け持ちしていて、金銭的にも精神的にも限界ギリギリであることはわかるし、あのくらいの放任主義はそこまで珍しいことではないような気がするけれど、美枝子が抱えているのは「父親から捨てられた」という傷と、母親からもそこまで気にかけてもらっていないという寂しさ。両親との関係性でやや問題を抱える彼女は、恋人ができたとしてもうまく関係を築けず、深い関係になることに抵抗を覚えてしまう。
もちろん、妊娠を提案した時には、エイジの父親が口にした「子供を授かる幸せを体験してほしい」という思いに応えることで、エイジとマッキーの仲を、ひいては自分と3人の関係を大事にしたかったという動機があったのは嘘ではないと思う。
ただ結果としては、美枝子とエイジが結婚し共に子供を産み育てる、というごく平凡な結論に落ち着いてしまうのだ。
それ以降の夫婦関係がどんな感じなのかはわからない。エイジの恋愛対象は男性であることは変わりないだろうし、美枝子もただ甘い新婚生活を求められても困るだけだろう。そうなれば二人は「収まるところに収まった」いわば理想的な関係であるように思える。
ただしそれはマッキーの存在なくしては絶対にあり得ないし、美枝子にとっては友達でもありとても優しい兄貴的存在エイジは、全てを受け入れてもらえる都合の良い相手であると言わざるを得ない。

物語の核は冷えている

なのに、後半で描かれるマッキーは、「あの」飄々としてフレンドリーな青年ではあるのだけれど、今は一人、果たされなかった関係を持て余し、何者にもなれずぼんやりと日々をやり過ごしている。ご丁寧に引っ越しまでして、二人の前からは姿を消していた。

ここでキーパーソンとなるのが、美容師の卵でありマッキーと同級生でもある朝人(EXITの兼近さんが演じています)。朝人はスタイリストになるべく奮闘しているのだけれど、周囲からはいまひとつ熱意が感じられないと言われ、なかなか上達しないもどかしさを抱えている。たまたま同じアパートにマッキーが住んでいるとわかり、何となく二人は夕食を共にし、近しい関係になっていく。

二人が意気投合したのはきっと「がむしゃらに何者かになりたい」という熱意に欠けているところなのではないかと思う。マッキーも日々を漫然と生きていて、それが美枝子とエイジから距離をおく要因にもなったのだけれど、この物語では誰もが、目標に向かってキラキラしてはいない。ドラマにおいてこのように真ん中に来る人たちが悶々としている場合には大抵、終わりに向かって何かしら見つけたり、立ち直ったり、矢印が上向きになっていく様子を描くものだと思うけれど、このドラマはフラットである。いろいろあるけれども、そのさきにあるのがほとばしる熱量ではない、そこが新しいように思う。何かしら内面にあるものが露呈し、人が変わったようになるだとかそういう仕掛けがない。
ただ、大抵の人生はそういうものなのだろう、と思う。
朝人も美容師になろうと思ったのは、厳しかった祖父から逃げたくて早く独り立ちしたかったから。その祖父とのやや温かなエピソードがあるにはあったけれど、終始許さなくてもいい、という姿勢はあったように思う。

未来はなかった

最終的には、美枝子とエイジ、そしてマッキーは3人で会うことになる。美枝子と朝人は実は美容学校での繋がりがあり、結果的にそこからマッキーへと繋がっていくのだけれど、美枝子とエイジがマッキーに切に会いたがっているというシーンも、二人が本気で探してたらもっと早く見つかったんじゃないか、みたいなちょっと冷めた気持ちで見てしまった。
そのくらい、後半はマッキーにちょっと肩入れして見てしまっていた自分がいた。

ちょっとキレイゴトなラスト、と言えなくもないけど、もしかして3人で子供を育てるという結論があったのかもしれない、とは考えてしまった。タイミングの問題でその未来はあったかどうか、いややはりどちらかはどちらかと離れることになったのだうな、とも思う。単純な血の繋がりという側面もあるし、関係性に何かしらの歪みが生じたときにお互いがお互いを許せず縛り付けてしまう危険を孕んでいるように思う。どちらにしても三角の中心に子供、というのは相当覚悟がないとうまくいかないだろう。ハマる家族ももしかしているかもしれない、ただしそれは美枝子たちではないように思う。

結局は

自分で感想を書いてみたら何かしら気づきがあるかなと思って書き始めたけれどまだもやもやしているし、時々思い出してはもやもやしている。
自分は既婚の子なし夫婦をやっているけれど、その辺りも関係しているかもしれない。人はどんなに頑張っても、子供のあるなしを両方体験することは無理で、もう子供が持てないと分かっている上でも「もし子供がいたら」と考えることはもちろんある。
ただ今の生活は肯定的に捉えているし、子供のことでの悩みを同級生あるいは年下の方達から聞くにつれ、その悩みがないこと自体は自分にとっては良かったと思うこともある。ただそれは「持たないことを否定したくないため」とも言えるだろう。
それゆえに、妊娠という事実で別れと結婚が成立してしまったこのドラマの全体に流れる不穏さを過敏にキャッチしてモヤモヤしているのかもしれない。
もしこれを、子供を産んで良かった、子供がいるから幸せ、と思っている人が見たらどう思うのか。その逆も然り。聞いてはみたい。
私としては、人の気持ちがないがしろにされ、既成事実と世間体から作られた関係を描いたドラマ、と称したくなってしまう。
ただ、今作には原作漫画がある。未読であるうちからこのように結論づけるのはどうかと思うけれど、機会があれば漫画を読んでみて改めて考えてみたいと思う。
問題を孕みがちな原作とドラマとの乖離についての問題点は一旦ここでは議論の外に置くことにした。今後この辺りを埋める作業もしてみたい。

余談

今作のストーリーをざっくり聞いたときに一番に思い浮かんだのがこの「ハッシュ!」という映画。

随分昔に見たのでほとんど忘れてしまったけれど、同性カップルに子供を望む女性という組み合わせは当時は斬新であったように記憶している。気楽に見られた内容だったという印象で、今よりももっと同性愛だとか性自認に広く理解がなかった時代の作品かと思うのでもしかして今見たら不適切な描かれ方があるかもしれない。機会があればおさらいしたいと思う。

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