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【交換小説】#自家製 1

この時期はジャムを作ることにしています。一年分を作ります。紅茶と一緒に飲むためのジャムなので、可能な限り甘くします。市販のジャムは甘さ控えめを謳うものばかりで物足りないのです。外国産には甘いものもありますが、いかんせん少量で高いうえに売っている店も限られるので、自分で作ったほうが早いのです。

そんなわけで今年もイチゴを手に入れました。近くのスーパーで二パック五百円。探せば四百円を切るものもありますが、時節柄、動き回るのも気が引けるのでよしとします。とりあえず六パック買いました。

フィルムを取るとボウルにあけて洗います。形の悪い小粒イチゴですが、六パック分ともなるとなかなかの壮観です。しかしその時、私の手は止まりました。というのも、五パック目の容器の底に敷き詰められていたのは小粒イチゴではなく、七粒ほどのプチトマトだったからです。

こういう時は驚くというよりゾッとするものです。咄嗟に思ったのは、これを作ったイチゴ農家の方が乱心してしまったのではないかということでした。

もちろんそんなこと通常時では考えられません。でも今や数か月前までの常識が通じない世界になっているのです。もしかしたら、私には思いもよらないようなところで以前からぎりぎり保たれていたイチゴとプチトマトの均衡が遂に崩れてしまったのかもしれない。私は再び店へ向かいました。しかし私の呼びかけに言葉もなく振り向いた店員の目はどんよりと濁っていました。

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