夜の浜辺で少女と出会った

夜深くの浜辺に僕は立っていた
ここはどこだろうと辺りを見回しても一面に広がる海のほかには何もない
瞬きをする、
一拍おいて
再び瞼を開くと何もなかった浜辺に少女がたっていた
よく見ると足がかすみがかっているようだった、
彼女に見とれていると、こちらに向かって歩いてきた
僕の前で立ちどまって

「なぜここへやってきたの」

そう、問いかけてきた
何故ここへと聞かれてもそれは自分にも分らなかった
思い出そうとしたが思い出せない
たしかに記憶はあるはずなのに。
もやもやしながら言葉を出せずにうなっていると
彼女は僕に微笑み、立って話すのもなんだというので二人で流木に座った

眼前には大きな月が白い光で海を照らしている、この水平線の先はそのまま宇宙なのではないかと思えるほどの存在感があった
彼女も同じく海を眺めていた、彼女がいったい何者なのか僕は何一つ知らないが
その横顔には妙に大人びた物憂げな表情が浮かんでいた

「どうしたの?」

彼女はこちらを見て言う、まさか見とれていたとは言えないので僕はまた口をつぐんだ
彼女は頭に?を浮かべたようにして僕の顔をじっと見つめていたが、それ以上声はかけてこなかった

彼女は流木から立ちあがり海へと駆けていく
そのまま歩みを止めず海の上を歩いていった
海に反射する月光に照らし出されとても美しかった
なぜかこの時僕は不思議に思わなかった、海の上は歩けないものだと思いつつも彼女が海面に立っていることに対して違和感を感じない
僕も行こうと足を延ばした、しかし波打ち際まで行くことはできてもそれより先には足を踏み出すことができずにいた
それに気づいたのか彼女は僕の前まで来て言う
「あなたはまだ来れないわ」

「どうして」
僕は訴える
「どうしても、自分の影を見て」
彼女はたしなめるように静かな口調で言って

僕は影を見て気づく

「ありがとう」

「いいの、また会いましょう」

そう言って彼女は消えた

僕は誰もいなくなった浜辺で思う

「帰らないと」

僕は海を背に影の続く方へ歩き出した

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