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新内眞衣卒業セレモニー

小さい頃、遠出の車中で流れるラジオ、その中でふと耳に入った曲があった。


車は平野を滑走する。すると、稲の刈られた田んぼにすらっとした出立ちの白鳥が一羽を見つけた。後部座席に座る僕は白鳥の鳴き声を聞こうとする。

車が通り過ぎる刹那、白鳥はすぐさま向こうのほうへ飛び立って行ってしまった。
目をくれることなく一心に飛び去って行く白鳥は、曇天にも関わらず美しく光を放っていた。

そんな時に流れた曲であった。

僕はその曲の委細をはっきりと覚えていない。でもその曲は聴いていた僕に、寄り添ってくれたような安心感と、それに匹敵するほどの強い寂しさをもたらした。
それだけははっきりと覚えている。


新内眞衣さんの最初で最後のソロ曲、『あなたからの卒業』を初めて聴いた時、あの時の懐かしさを思い出した。もしかしたらあの時聴いた曲なのではないかとすら思った。

曲を聴いていると、突き放すように一人で生きろと言われたような気がした。とは言え僕にとっても、ラジオはかけがえのないものであり続けるのだろうと思い、今日も放送される番組のことを考えている。

早いものでまもなく冬は明ける。白鳥はきっとまたいつか、どこか近くに訪れるだろうと思っている。

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