独断で選ぶ2019年邦ロック楽曲ベスト10(後編)

前編はこちら

前編に引き続き残り5つの2019年邦楽ロックベスト10楽曲について個人的感想を添えながら紹介していく。

Vaundy "東京フラッシュ"

-2000年生まれの邦楽ニュースター

なんと2000年生まれという若さでYouTubeにアップロードされたこの曲をきっかけに注目を集めているVaundy。2020年4月にはワンマンライブを予定している。他にもロックフェスへの出演も決めていて、こちらも2020年バズること間違いなしのアーティストである。そして実は歌い手出身のアーティストでもある。

この東京フラッシュは、最近流行りのチル系のサウンドに少し気だるげなのに甘いVaundyの声。醸し出ているオシャレ感。King Gnuが大流行している現在の邦楽ロック界でこの曲が人気にならないわけがない(ちなみに東京とフラッシュどちらもKing Gnuの楽曲のタイトルに使われている)。この曲には「Just two of us 進行」という有名なコード進行が用いられている。この進行で有名な曲をあげるとするならば椎名林檎の「丸の内サディスティック」や小沢健二の「今夜はブギーバック」、あいみょんの「愛を伝えたいだとか」だろうか。このコード進行が東京というテーマとぴったり合致し、いわゆる「エモさ」を醸し出しているのだ。ただ、このコード進行は印象に残りすぎてしまうため、下手に使ってしまうと似たり寄ったりの曲になってしまう。これをコード進行に引っ張られることなく、ここまで上手くメロディを乗せて使えているのがVaundyの天才さを証明している。そして、歌がめちゃくちゃうまい。声に纏っている色気という元から持っているものもとても良いし、裏声や声色の変化が効果的に使われていて、まるで複数人そこにいるかのように感じられる。オシャレなサウンドに耳がいきがちであるが、そのメロディ、そして歌声も素晴らしいのだ。

めちゃくちゃ車のCMで使われそう、「STAY TUNE」みたいに。

ラブリーサマーちゃん "ミレニアム"

-"ピチピチロックギャル"のすきなもの

Sound Cloud上にアップロードした楽曲から人気に火がつき、Twitterのフォロワー数は4万5千人以上(2020年1月現在)の女性シンガーソングライター。個人的に尖りまくったツイートが大好き。吸収した好きな音楽をラブサマちゃんの中で咀嚼し、それを楽曲に込めていて、音楽はシンセサウンドのものからバンドサウンドのものまで幅広い。2019年リリースされた「LSC2000」はめちゃくちゃオアシスで良かった。ラブリーサマーちゃんはミュージックビデオ作って欲しい。

そしてこのミレニアムも名曲である。僕の大好きな「切なさ」「儚さ」がどこからか漂ってくる。最初はブリッジミュートと単音弾きのクリーントーンのギターから始まり、途中からディストーションを踏んだ歪んだ音のギターのリフが入る。このリフがローファイなギターワークになっていて、彼女のすきなものが早速登場している。ビート自体はとてもシンプルで、イントロや間奏、最後のギターソロで登場する強く歪んだギター以外はクリーントーンのまま曲が進行するとてもシンプルな構成。それでも、この曲に感動してしまうのはそのメロディと歌詞、さらにか弱い少女のような優しく儚い歌声にある。全体を通してメロディの起伏が少なく、複雑なものではないが、所々反復が使われていて、耳に残る。そして曲の最後に最高音が登場してそこから階段状にメロディがだんだん下がるという個人的に切なさを聴きてに感じさせるメロディを使ってドラマチックに曲を締めている。サウンドがシンプルだからこそメロディが活きてくるのだと思う。ただ、1番と2番でベースラインがかなり変わっているなど、しっかり聴けばシンプルな中にある凝っている部分に気づくことができる。また、歌詞においても、

「使い古した感傷を」
「悲しいニュースばかりの国で」
「大して明るくはない未来」

と、彼女が繊細だからこそ感じてしまう世界の生きにくさやそれに伴う将来への不安を描いている。そして最後には

「あの馬車 君がいるから 君はいるから」

と歌詞においてもリフレインを用いることで、少女の切なる願いのように感じさせている。しかもそれが最後の歌詞で、この歌詞の後ギターソロがあって曲が終わるので、儚さが後味としてリスナーの中に残る。そして、もう一度「ミレニアム」の主人公の少女に会いたくなるのだ。その儚さを最大限引き出しているのが、彼女の可愛らしい、少女のような歌声である。ただ、アニメ声という訳ではなく、優しい、どこかで会えそうな声なのである。具体的な情景描写は一切出てこないものの、まるで少女のモノローグのような映像を脳内に思い浮かべてしまう。この曲はラブリーサマーちゃんにしか書けない曲だと思う。

betcover!! "異星人"

-最先端のアナログ

betcover!!は 1999年生まれのシンガーソングライターヤナセジロウによるソロプロジェクトであり、独特のドリーミーな詩世界の中での世の中への絶望を描く歌詞や、ポップスやフォークにソウル、さらにはパンクなどの幅広いジャンルから影響を受けた音楽はオリジナリティに溢れている。曽我部恵一や後藤正文など、一流のミュージシャンからも高い評価を受けていて、音楽好きからはすでに高い注目を得ている。

この「異星人」という曲は1990年代や2000年代初期頃のポップスの雰囲気を携えながら、異星人という一見ファンタジックなテーマで現実世界のブラックな側面を描いた楽曲である。アコースティックギターやシンセサイザーの音が上述した少し前のポップスの雰囲気を作り、シティポップが再び人気を得ている現代にマッチしている。そして、シンセサイザーの音がデジタルすぎず、少しローファイになっていてるのだ。歌詞についても

「龍を見たのさ暑い青い稚拙なあの夜に」
「夏の荒野を駆ける遠吠え 鉛筆の芯の白い光」

と、色と季節をうまく織り込んだファンタジックな表現になっているのだが、その歌詞を一つ一つ読み解いていくと、現代の社会、人間に対する絶望が読み取れていくのが面白い。

Cody・Lee(李) "I'm sweet on you (BABY I LOVE YOU)"

-具体的な情景描写と恋物語

男女の恋をリアルな情景描写と少し弱気な心理描写のコンビネーションで描く男女ツインボーカルのロックバンド、Cody・Lee(李)。彼らのライブは非常に落ち着いた雰囲気であるかと思いきや、ラストには激しい熱を持った曲「When I was cityboy」で締められるなど、カッコつけない等身大なのにかっこいいライブに心惹かれるもので、歌詞の力も相まって非常に魅力的なバンドだ。

このI'm sweet on you(BABY I LOVE YOU)も例に漏れず、Cody・Lee(李)らしい楽曲になっている。早速歌詞の冒頭から

「最寄り駅には桜が咲いた
サインポール錆びた土曜の理髪店
BABY 風に吹かれて」
「古本屋二階に干してる布団
塀の上で眠るトラ猫のジョン
BABY 風をあつめて」

と、まるで本当に自分の周りにそのまちが存在するかのような映画のような情景描写となっている。そしてサビでは

「屋根を越え雲を越え流れるBEATが 聞こえた」
「山を越え海を越え流れるBEATが 聞こえた」

と、メロディ、そして歌詞の「越え」がリフレインされることで印象に残りやすく、キャッチーなものとなっている。また、Bメロで「君に会いに行く」という心の中を描いた歌詞というところからサビの景色が開けていく歌詞というのもとても気持ちがいい。

この歌詞については、作曲した高橋響が詳しく解説しているnoteの記事があるので参照してほしい。

そして、音もアコースティックギターの音が曲の雰囲気にぴったり合っていて、時々登場する強く歪んだギターも歪んでいながらも曲に寄り添っていて、各楽器が曲を大事にしているのが伝わる。また、イントロのアルペジオがなぜか僕にはフジファブリックの「笑ってサヨナラ」を思い出させた。どちらも別れの曲だからなのだろうか。

BUMP OF CHICKEN "Aurora"

-カリスマロックバンドは今尚現役

BUMP OF CHICKENについてはもはや説明不要だろう。僕がロックというジャンルの音楽を聴き始めたきっかけとなったバンドである。彼らがリリースた「天体観測」という楽曲は日本国民に知れ渡っており、彼らが影響を与えたバンドは数知れない。そんなもはや伝説とも言えるバンドはその才能を枯らすことなく今も素晴らしい楽曲を世に送り続けている。

歌詞はBUMP OF CHICKENらしい、どこか心の弱さを持ちながらもその弱さをそのまま肯定してくれるものだ。シンプルな言葉でそういえばこんな気持ちが自分の心にもあったなと気づかせてくれるような言葉が次々に歌われている。その歌詞には一行たりともその場をつなぐようなものはなく、そのひとことひとことに強いメッセージが込められている。そのどこに強く共感するかは、きっと人それぞれである。僕の中で強く感動を覚えた歌詞は

「考えすぎじゃないよ そういう闇の中にいて 勇気の眼差しで次の足場を探しているだけ」

である。そういう闇(=色々と失敗や理不尽を受けてきた経験)が僕を考えすぎにさせるという当たり前のようなことを改めてつきつきられてハッとする。

「おひさまがないときはクレヨンで世界に創り出したでしょう」

このクレヨンという幼児を連想させるようなワードで世界の見え方は自分次第であるというメッセージを表現していることが、どこかノスタルジックな気持ちにさせつつ、強い説得力を歌詞に与えているのだ。

メロディも美しく、どんなアレンジにも耐えうる。アレンジに頼りきりのメロディの貧弱な曲は弾き語りをすると少し微妙に聞こえてしまうものであるが、ピアノやギターでの弾き語りでも、男性の声でも女性の声でもそのメロディは美しく響くのだ。また、サウンドも衝撃的だった。僕はイントロの音ですっかりと心を掴まれた。RAY、Butterfriesの頃から洋楽の流行に乗っかりながらBUMPらしさを大事にしてきた最近のBUMP OF CHICKENであるが、ついにその究極まで達してしまったのではないかと感じさせるほど邦楽ロックには新しいサウンドであった。これからのBUMP OF CHICKENがさらに楽しみになる一曲だった。

終わりに

最後までこの記事をお読みいただき、ありがとうございました。拙い文章で、また音楽のレビューとして間違っているところもあったかも知れません。僕のバンドLuigiもぜひ聴いていただけると嬉しいです。


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