#146 利益相反取引-③

最近井上ジョーさんという方のYouTube動画を見すぎて「あれ?英語聞き取れるんじゃね?喋れるんじゃね?」と思い始めている古田です(井上ジョーさんのチャンネルはこちら。日本人が日本語を話しているようにしか聞こえないのに,ロサンゼルスで生まれ育ち英語がネイティブというところがもう既におもしろいんだけど,1人語りで繰り広げられるトークがおもしろすぎる。人間観察能力と洞察力が高すぎる。)

さて,前置きはこれくらいにして昨日のブログ(こちら)の続きです。

利益相反取引についていろいろと書いていますが,昨日まで利益相反取引の中でも「直接取引」というやつについて説明してきました。

「直接取引」というのは,条文上「自己又は第三者のためにする取引」と書かれていて,ここでいう「ために」は,取引の当事者名義を意味するということでした。「自己のために」は取締役自身が取引の当事者(名義)となり,「第三者のために」は取締役が第三者(他人)に代わって取引をする場合を指すものでした。

今日は,直接取引とは区別された「間接取引」について話をします。間接取引は,↑の直接取引には該当しないけれども,取締役と会社の利害が相反するものということです。具体例から入りましょう。

また日産自動車を例に出しますが,この日産自動車には,古田博大という平取締役がいる設定を引き続き使います。この古田は,日産自動車の取締役として,当然役員報酬をもらっているのですが,その金額は年間1200万円です。古田は独身ですし,これだけの収入があれば,充分に暮らすことができます。しかし,古田はめちゃくちゃ嫉妬深いのです。役員報酬を1200万円も得ているのに,代表取締役のカルロス・ゴーンの役員報酬が10億円もあることにいつも腹を立てています。「あーもう,くそが。なんでこれだけしかもらえないんだよ。飲まなくちゃやってられねぇ」とグチばっかりです。そんなグチばっかり言っていると,さらにストレスが溜まります。そうすると,この古田,金遣いが荒くなるのですが,毎晩毎晩高級店で(1人で)飲み歩くようになり,結局,年収1200万円でもお金が足りなくなり,銀行から借金するようになりました。借金は積み重なり,その額は1000万円にもなってしまいました。これだけ借金しても金遣いの荒さが治らなかった古田は,また借金をしようと銀行に行ったら,「もう貸せませんよ!」と一蹴されてしまいます。それでもおいそれと引きが下がるわけにはいきません。だって,古田の預金口座はすっからかんなんですから。お金を借りて補填しないと,家賃とクレカの引き落としが間に合いません。そうなるとブラックリストに載ってしまい,ますますお金が借りられなくなってしまいます。

古田:なんとか,お貸しくださいませんでしょうか・・・・?

銀行:ダメです( ・ิω・ิ)

古:そこをなんとか

銀:ダメです( ・ิω・ิ)

古:なにか方法はないでしょうか・・・・・

銀:今までの借金総額1000万円について連帯保証人でも付けてくれれれば考えなくもないですけどね!あなたみたいな人の連帯保証人になってくれる人はいるんでしょうかね!はっはっはっ!(・∀・)

古:(うぅ。どうしようどうしよう。連帯保証人なんて誰がなってくれるだろう。そうだ!会社に連帯保証人になってもらおう。カルロス・ゴーンは頼みを聞いてくれないだろうけど,東川さんには頼めるかもしれない。どうも,東川さんはゴーンの失脚を狙っているようだし,それに協力することを約束すれば,東川さんも代表取締役だし,代表取締役として会社の連帯保証を取り付けてくれるかもしれない・・・)

(あくまでたとえ話ですよ!)

だいぶ長くなりましたが,要約すれば,日産自動車の平取締役である古田は,自分の勤務する日産自動車に,自分の借金の連帯保証人になってもらおうとしています。これが,間接取引の典型例です。

まず,「連帯保証人」から説明しなきゃいけないと思うのですが,「連帯保証人」というのは連帯保証「契約」を結んで,連帯保証「債務」を負うようになった「人」のことを意味します。難しいワードがいろいろと出てきましたが,説明しますね。

もうめちゃくちゃ当たり前なところから話を始めますが,自分の義務は自分で果たさなくちゃいけません。なんかふわふわした文章を書いてしまいましたが,例えば,お金を借りたら返済期限までに返済するべき額を返済する義務がありますが,その義務を果たさなくちゃいけないのは,お金を借りた本人です。お金を借りた人がお金を返さなくちゃいけないし,逆から言えば,お金を貸した貸主も,貸した相手である借主以外の人に返済を求めることはできません。貸主というのは,借主からしか返済してもらえませんから,貸主が返済のアテにできる財産は借主が持っている財産だけです。

しかし,返済を請求できる相手を増やし,なおかつ,返済のアテにできる財産の持ち主を増やすのが「保証」と呼ばれる契約です(「保証」と「連帯保証」の違いもちゃんと後で説明するので待っててクダサイ)。貸主が,借主以外の人物と保証契約を結ぶと,貸主は,保証契約を結んだ人に対して,返済を求めることができます。この「保証契約を結んだ人」のことを「保証人」と呼びます。借主本人に代わって返済しなきゃいけないことが保証「債務」です。保証人が自発的に返済してくれない場合,貸主は,保証人に対して裁判を起こして判決をもらい,「保証人」の財産に対して強制執行することができます。「強制執行」というのは,例えば,土地だったら持ち主(保証人)に無断で売却されてお金に変換されるということです。預金だったら差し押さえられて銀行が勝手に返済額のぶんだけ勝手に貸主に払います。給料だったら差し押さえられて勤務先が返済額のぶんだけ勝手に貸主に払います。

このように,「保証」という契約は,返済を請求できる相手と,返済のアテにできる財産を増やすものです。これは貸主から見た性質で,保証人から見ると,自分には一切借入金が入ってきていないのに返済義務(保証債務)だけ発生し,しかも,自分の財産が返済のアテにされてしまうものです。

(どうして保証契約なんて結んでしまうのかというと,まあ,需要がないわけではなくって,保証人も,タダで保証人になる人ばかりではないんですね。保証料をもらうわけです。保証人を付けないと借金できない人の保証人になってあげる代わりに保証料を支払ってもらうというビジネスがあります。保証人をつけたとしても,借主本人の返済義務がなくなるわけではありません。最終的に借主本人が完済すれば,保証人としては,保証料のぶんは丸儲けになるわけです。)

で,保証と連帯保証の違いについてですが(そもそも,日本には「連帯保証」になっていない保証契約は(ほぼ)存在していません),単なる「保証」だと,貸主が保証人に返済を請求してきた場合「まずは借主本人に請求してよ」と反論することができます(「催告の抗弁」なんて名前がついていますが,この名前だけ覚えてもしょうがありません)。だから,単なる「保証」だと,貸主としては,まず借主本人に請求しなきゃいけないわけですね。あらかじめ借主に請求しておかないと,保証人には請求できない。

なんか,「あらかじめ借主に請求しとかなきゃいけない」なんて「そりゃ最初に返済を請求するべきなのは借主本人なんだから当たり前でしょ」と思う方もいるかもしれませんが,「連帯保証」は違うんです。(日本の保証契約のほぼ全部の)連帯保証契約では,「最初に借主に返済を請求してよ」とは反論できません。借主本人に請求することなくいきなり連帯保証人に請求してきても,それを拒むことはできないのです。

請求を拒めば,借主本人が返済しない限り,裁判を提起されて強制執行されてしまうのです。単なる「保証」だと,「借主本人のところに財産あるよ!」という反論もできます(これが「検索の抗弁」と呼ばれるものですが,名前と内容があまりリンクしていません笑)。しかし,連帯保証ではこの反論もできないので,結果的に,貸主が,借主本人に潤沢に財産があるにもかかわらず,連帯保証人にだけ請求するという事態もありうるのです(もちろん,貸主が借主本人に一切請求しないということであれば,貸主と借主本人がグルになって保証人を詐欺被害にあわせた可能性も考えられますが,詐欺が成立するかどうかは別問題なわけで,貸主としては,全く自由に,請求する相手を借主本人と連帯保証人で選べるのです。)

保証(連帯保証)の説明はこれくらいにしときましょう。保証の説明が長すぎてもう時間になりましたので,続きは明日書きます。明日は,保証が利益相反取引に当たることについて説明を始めます。

それではまた明日!


━━━━━━━━━━━━━━━━━━

※内容に共感いただけたら,記事のシェアをお願いします。

↓Twitterやっています。

古田博大(ふるたひろまさ)よければ,フォローお願いします。

アメブロにも同じ内容で投稿しています(リンクはこちら)。

※このブログの内容は,僕の所属する企業や団体とは一切関係ありません。あくまで僕個人の意見です。


サポートしてくださると,めちゃくちゃ嬉しいです!いただいたサポートは,書籍購入費などの活動資金に使わせていただきます!