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#495 死亡事故の刑事事件:執行猶予になるかどうか

【 自己紹介 】

※いつも読んでくださっている方は【今日のトピック】まで読み飛ばしてください。

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【 今日のトピック:死亡事故と執行猶予 】

死亡事故の件数は,この30年ほど,ずっと減少傾向にあります。

死亡事故が減っているのは,素直に喜ぶべきだと思います。

亡くなった方の数はゼロではないので,「喜ぶ」という表現は適切ではないのかもしれません。しかし,いきなりゼロにはならないわけですから,少しずつ減っていって,ゼロに近づいているのは喜ばしいと僕は思っています。

弁護士をしていると,死亡事故に携わることもあります。

携わり方としては,大きく分けて2つで,被害者遺族が損害賠償を請求する際の代理人になるケースと,加害者の弁護人として,刑事裁判に携わるケースです。

今日は,加害者の弁護人として,刑事裁判に携わるケースについてお話しようと思います。

さて,交通事故によって被害者が亡くなった場合,ケースバイケースで,成立する犯罪が違ってきます。

多くの場合は,「過失運転致死」といって,「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」の5条に書かれた犯罪が成立します。

交通事故の厳罰化の流れで,「危険運転致死」という犯罪が新たに作られたのは有名ですが,これは,「過失(不注意)」ではなく,自分が危険な走行をしていることを理解していながら,あえて危険な運転を続け,その結果,人を死なせてしまった,という犯罪です。

さて,今日のテーマは,死亡事故の加害者に執行猶予判決が出るかどうか,という話なのですが,この「危険運転致死罪」が成立する場合は,執行猶予の判決はかなり厳しいと思います。

前科前歴が一切なくても,自ら危険な運転をしながら人を死なせてしまったわけですから,その責任は著しく重大なので,裁判官が実刑を回避して執行猶予判決を出す可能性はほとんどないと言っていいでしょう。

「危険運転致死罪」とまではいかず,「過失運転致死罪」であれば,執行猶予判決の可能性は出てきます。

ただ,これも,前科前歴に左右されます。例えば,既に交通事故の前歴や前科がある場合は(「同種前科」と呼ばれます),過去に,交通事故で痛い目にあっているにもかかわらず,再び交通事故を繰り返してしまったわけで,しかも,その結果人を死なせてしまっているのですから,執行猶予はかなり厳しくなります。

死亡事故で執行猶予判決が出るのは,基本的に初犯(前科前歴がないか,あっても軽微な前歴だけ)という場合に限られるでしょう。

ただ,初犯であれば執行猶予判決が出るとも限りません。

初犯であることは,あくまで必要条件であって,「初犯なら必ず執行猶予判決が出る」わけではありません。

特に重視されるのは,過失の程度です。

「過失の程度」とは,「どういう不注意が原因となって,被害者または被害者が乗っていた車両に衝突してしまったのか」という点です。

僕も,過去に一度,死亡事故の刑事弁護人を務めたことがありました。その事故では,信号で右折する際に,「早く右折しなければ」と思い,急いで右折したところ(対向車線がなかなか途切れなかったので,途切れた合間に素早く右折したようです),横断歩道を歩行中の被害者に気づかず衝突してしまい,被害者(70代男性)は,頭の打ちどころが悪く,病院に搬送されたものの,亡くなってしまった,というものでした。

正直なところ,過失の程度は,かなり重たいと思います。

横断歩道を歩行中の歩行者が見えていないわけですから,前方不注意が甚だしいです。

しかし,結論として,この事故では,執行猶予判決が出ました(懲役2年6か月,執行猶予4年)。

それは,いろんな要素が考慮されたんだと思います。

例えば,加害者本人が,事故の状況を全て認めていたことです。

起訴事実には,「交差点を時速約40㎞で走行した」と書かれていたのですが,普通は,そんな猛スピードで交差点を走行することはありません。

しかも,右折するために停止していた状態から発進し,横断歩道で衝突するまでのわずかな時間で,そこまでの猛スピードまで加速したことになります。

保身のために,つい,「そんなに猛スピードで走行してはいません」と口走ってしまう加害者も多いのですが,この加害者は,素直に認めていました。

実際のところ,加害者運転車両の後方にいた自動車に,ドライブレコーダーがついていて,その映像によって,猛スピードで交差点を走行していたという証拠が残っていたので,争いようがなかったのですが,とはいえ,最初から素直に自分の不注意(猛スピードで交差点を走行したこと)を素直に供述できるのは,簡単ではありません。

ここが評価されたのだと思います。

あと,対人無制限の自動車保険に加入していて,全額の被害弁償がなされる見込みであることや,被害者に家族がおらず(妻とも離婚していた),遺族感情が激しくなかったことも,評価されたのだと思います。

【 まとめ 】

死亡事故で,執行猶予判決が出ている人もたくさんいますが,あなどってはいけません。

死亡事故で実刑判決が出ることも,かなりあります。

というか,そもそも,自分の不注意が原因となって,かけがえのない1人の命が失われてしまっているわけですから,執行猶予判決によって,事実上,何ら刑罰を受けずに事件が終わるのは,あくまで例外的なケースだと思います。

・過失の程度

・被害弁償

・被害者遺族の感情

こういう要素が,加害者にとってうまくプラスに働いて初めて,執行猶予判決が出ると思います。

僕が扱った↑のケースでも,過失の点では,かなりマイナスでしたが,他の点が有利に働いて,なんとか執行猶予判決が出たんだと思います。

それではまた明日!・・・↓

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