#129 借地借家法(難しいことは僕もよくわかりません!)-⑭

昨日のブログ(こちら)の続きです。

昨日のブログでは,借地借家法の「正当事由」についてお話しました。「正当事由」はよく問題になるんですが,この「正当事由」がない限り,家賃をきちんと払っている借主を立ち退かせることはできない,ということでした。

(もちろん,借主が「立ち退いていいよ」と言ってくれれば,話はそれで終わるのですが,借主が「立ち退きたくない!」と言ってもなお,立ち退かせることができるのか?というのが,弁護士が扱う法律の話なんですね。よく,「弁護士が間に入って交渉してほしい」という方がいますが(もちろん,弁護士はお客さん本人に代わって交渉するのですが),弁護士が交渉したとしても,それだけで話が進むわけじゃありません。弁護士が交渉する意味は,僕らが法律を知っていて,法律を根拠に交渉ができることです。「法律を根拠に交渉する」というのは,「交渉が決裂しても,後で裁判を起こして判決をもらい,その判決に基づいて強制執行することで,無理矢理権利を実現することができる」という意味です。つまり,弁護士の交渉は,「相手に有無を言わさず強制的に権利を実現することができる」という後ろ盾のもとでやるんです。だからこそ,弁護士が交渉すると事件が進むんです。僕らは,最終的な裁判での決着を見据えていますから,必要以上に交渉を続けません。基本的に,交渉で解決する必要はないからです。というのも,最終的に無理矢理権利を実現できるのであれば,譲歩する必要がないのです(交渉では,殆どの場合譲歩が必要になってきますからね)。もちろん,より早く紛争を解決したいとか,裁判までやりたくないとか,そういった理由で交渉での解決を図ることもよくありますが,法律を根拠に無理矢理権利を実現できる手段を知っている僕らが,ズルズルといつまでも交渉する必要はありません。だから,僕らが考えるべきなのは,「法律上権利が認められているか」なんです。↑の「正当事由」の話で言えば,借主が「立ち退きたくない!」と言ったとしても,なお立ち退きを求めることができる「権利」があるのか,ということを考えます。この「立ち退きを求めることができる権利」のあるなしを左右するのが「正当事由」の有無なんです。)

閑話休題。話を戻します。

昨日は,「じゃあ,正当事由って何よ」という疑問について,↓の3つの観点を書いたところで終わりました。

①大家さん側の事情(立ち退きを求めることがどれくらい必要なことなのか,また,立ち退きが済んだ後に待ち受ける建て替えなどのプランがどれくらい具体的に練られているのか)

②借主側の事情(立ち退きを求められた場合に,借主が被る不利益はどれくらい大きいのか。借主が,その建物以外へ引っ越すことはできないのか。)

③借主が被る不利益は,大家さんから立退料をもらうことで,回避することができないか。

これだけ書いても意味がわからないと思いますので,いろいろと説明を加えます。

まず,立ち退きを求める場合によく出てくるのが「立ち退き料」です(普通は「立退料」と書きますが,変換が面倒くさいので,ここでは「立ち退き料」と書きます)。「立ち退き料」とは,まあ言葉通り,「これだけのお金払うから出ていってくださいよ」という意味合いですね。立ち退きの見返りにお金を渡す場合の,そのお金のことを「立ち退き料」と呼びます。

ここで大事なのは,「際限なく立ち退き料を積めば立ち退かせられる」というわけじゃありません。もちろん,立ち退き料を際限なく増額すれば,借主も「立ち退いていいよ」と承諾してくれる可能性は高くなるでしょう。例えば,家賃3万円のアパートの立ち退き料として1億円を提示すれば,ほぼ全ての借主が「はい!出ていきます!」と言ってくれるでしょう。

ただ,このような立ち退き料の使い方は,あくまで,借主に「うん」と言わせるための説得材料です。「法律を根拠に無理矢理立ち退かせる」のではなく,「立ち退いてくださいよ」というお願いをして,借主に立ち退きを承諾してもらう,という話です。借主に立ち退きを承諾してもらえれば,「正当事由」は関係なくなりますからね。「正当事由」の話をさせないために,立ち退き料で立ち退きを迫る,こういった場面でも「立ち退き料」というのは出てきます。

でも,繰り返しになりますが,立ち退き料をいくら積んでも,それだけで「法律を根拠に」立ち退きを求められることにはならないんです。

あくまで,①と②の要素がそれなりに認められる場合に,立ち退き料を払うことで,正当事由を「補完する」のです。立ち退き料だけで「正当事由」にはなりません。立ち退き料をいくら積んでも,それだけでは「正当事由」にならず,あくまでも借主への「説得材料」にしかなりません。

ここが勘違いしやすいので,最初に話しておきました。

だから,例えば,「先月アパート建てたばっかりだけど,もう経営めんどくさくなったなぁ。なんか,住民全員立ち退かせたら友達がアパート買ってくれるらしいから,全員に出ていってもらおう。」みたいな理由で立ち退きを求めているような場合だと,「めんどくさい」という,身勝手な貸主の都合で立ち退きを求めているので,立ち退き料をいくら積んでも,正当事由は認められないでしょう。①貸主が立ち退きを求める必要性が非常に弱いし,なおかつ,②先月から住み始めたばかりなのに引っ越しさせられる住民たちの不利益も小さくないからです。

このように,立ち退き料は,正当事由を「補完」する役割であって,「立ち退き料を積めば立ち退かせられる」=「立ち退き料だけで正当事由が認められる」のは間違いなのです。

じゃあ,①貸主側の必要性・計画の具体性と②借主の不利益って何だよ,という話になってくるんですが,まあ,これもケースバイケースで一概に言えないと思いますが,①については,例えば,建て替える前と後で収益に大きな差が出てくることなどでしょうか。

例えば,今の建物だと,建物自体も古いし,中の設備や内装も古いから,家賃を安くするしかないんだけど,そうやって家賃を限界まで安くしているのに,空き家が目立ち,固定資産税すら払えない状態である。しかし,アパートを建て替えれば,新築で設備や内装・外装も新しいので家賃も高く設定できるし,しかも,近くに女子大があるので,新規入居者も多数見込まれれ,実際に,近くの築年数の浅いアパートは満室状態となっている。こういった場合,建物を建て替えるという,貸主側の事情にも,それなりの根拠が出てきます。そして,新築する建物の設計や新築費用の見積もりを既に済ませていて,なおかつ,新しく設定する家賃も一応決まっているとしたら,収益性を具体的に比較することができますから,貸主側の必要性が,より説得力を増します。

そして,借主側としても,例えば,借主が一人暮らしの男性で,今のアパートを離れたとしても,職場にもっと近いところに,もっと安く住めるアパートがあるという場合であれば,仮に引っ越すことになれば,当然,引っ越しの手間はかかるし,お金も必要になってきますが,まあ,引っ越すことによって,生活が不便になるようなことはありません。そうすると,②借主の不利益も,それほど大きくはなく,結果的に,引越費用や新規物件に入居するための初期費用+α(引っ越しの手間賃)くらいの金額を立ち退き料として支払えば,「正当事由アリ」と認められると思います。

正当事由の判断はケースバイケースではあるんですが,僕が考えているのは,貸主側が立ち退きを求める事情を,なるべく具体的に説明し(できれば,老朽化の程度や建て替えによる収益の改善について数字を用いて説明する),そして,借主がその建物にこだわる理由がないことも説明して,最後に,借主の引っ越しに伴う費用(引越費用+新規物件の初期費用+引越手間賃)を立ち退き料として提示すれば,正当事由が認められてくるのかなぁと思います。

今日は時間がきましたので,ここまでにします。

それではまた明日


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