#116 借地借家法(難しいことは僕もわかりません!)-②

昨日のブログ(こちら)の続きです。

昨日は,借地借家法という法律があって,「借地」と「借家」にこの法律が適用されるということをお話しました。そして,借地借家法の存在意義は借主保護だということもお話しました。

で,「借主保護」という目的ってどういうことかというところから,今日は始めます。

では,借地借家法が存在しない世界はどうなるかというところから話を始めたいと思います。

ちょっといきなり難しいですが,「対抗要件」というものから話していきたいと思います。

いやぁ,全然聞き慣れない言葉が出てきましたねー,「対抗要件」。法律の世界ではよく問題になる話なんですが,普通はこんな言葉思い浮かべる必要もなく生活していますよね。「対抗要件」を気にして生活している人なんて,ほとんどいません(僕も仕事以外では全く気にしていません)。

でも,対抗要件を気にすることなく生活できているのは,実は借地借家法のおかげなんです。

ちょっと「対抗要件」なる言葉について説明します。この言葉は,字面だけ見ていても理解することは難しいと思いますので,ゆっくり解説します。

そもそも,「対抗要件」というのは,権利を誰に主張できるか?というところに関わってくるものなんですね。

この感覚,非常に不思議ですよね。「権利を誰に主張できるか?」なんて疑問は普通浮かんできません。「自分の権利は誰にでも主張できるからこそ,『権利』として保障されているんだろ。誰にでも主張できるに決まっているんだから,『誰に主張できるか?』なんて考える必要なんかない。」こういう考えを持つ人が多いのかもしれません。

でも,こんな例はどうでしょうか。法律の勉強をしていると,かなり最初の方で学ぶんですが,「二重譲渡」という場面があります。例えば,お金に困っている人(古田)が,自分の土地を友人2人(佐藤と鈴木)に売ってしまった。2人に売れば,代金を2倍もらえますからね。かなり切迫していたんでしょう,その時の古田は。とにかく,お金が欲しかったのでしょうね。

こうやって,2人に売却することを「二重譲渡」と呼びます。「譲渡」という難しい言葉が出てきますが,まあ「売却」と置き換えてもいいです。土地を2人に売る,そんなことが可能なのか,という疑問が出てくるでしょうが,まあ,できるっちゃできます。

ここで,「土地を売っているんだったら名義が変わっているんだから,そんな二重譲渡なんてできないよなぁ」と思ったそこのあなた!それはもう,対抗要件の考えに一歩踏み込んでいます。

ちょっと順を追って説明しますね。自分の土地を売る場合,普通は,代金をもらうのと同時に買主に名義変更します。だから,普通は二重譲渡なんてできないんです。買主に名義が変わった後に,その土地を売るなんて,普通はできない。だって,2番めに買おうとしている人(鈴木)からすると,「俺の土地売るよ」と古田が言っているのに,その土地の名義は既に佐藤に変わっているわけで(現在の土地の名義が誰に変わっているかは,法務局で誰でも確認できます),そんな自分の土地でもないのに「俺の土地売るよ」なんて言ってくる古田みたいな変な人からは誰も買いません。だから,二重譲渡なんて普通は起きない。

でも,古田は,とにかく,二重譲渡して代金を2倍もらいたいんです。毎日毎日借金の取り立てが来ていますから。その返済に充てるお金が欲しいんです。でも,佐藤に売るだけじゃ足りない。どうしても,佐藤だけじゃなく,鈴木にも土地を売却してお金を工面したい。そのためには,名義を佐藤に変更したらダメなんですよ。名義を佐藤に変更したら,鈴木が買ってくれないから。

じゃあどうするか。古田は佐藤にこう持ちかけるんですよ。

「一応お金だけもらっておいてさ,名義は後でちゃんと変更するから。安く名義変更してくれる司法書士知っているんだよ。名義変更の費用(司法書士の費用と登録免許税)も普通は買主持ちなんだけど,俺とお前の仲だからさ,俺がその費用は持つから。とりあえず,お金だけもらっておいていいかな?」

これを聞いた優しい佐藤は,弁護士でもある古田の言うことを聞いてしまい,名義変更しないまま購入代金を古田に渡してしまうんです。こうして,古田は,首尾よく名義変更しないで売却代金を手に入れることができました。

そして,古田は鈴木にも土地の売却を持ちかけるんです。そして,なんと,鈴木に売るときには名義を変えてあげるんです。古田としては,佐藤から代金もらったことで,借金は完済したので,切迫した状況は去っていたんですね。だから,お金を急いで工面する必要もなく,とりあえず遊ぶ金が工面できればよかったので,土地が鈴木名義になってもよかったんです。

鈴木は,まさか古田が名義を変更しないまま土地を既に佐藤に売却していたとはつゆ知らず,購入代金を古田に支払い,それと同時に土地の名義も古田名義から鈴木名義に変更してもらいました。

まあ,こうやって二重譲渡が起きることもあり得るっちゃあり得るわけです。これ,どう考えても悪いのは古田なんですが,それは置いといて,「対抗要件」の問題が出てきます。

「対抗要件」とは,「権利を誰に主張できるか?」という問題だと説明しました。

↑の例だと,佐藤も鈴木も,土地を買うためのお金を古田に全額払っているんです。だから,どちらも土地の権利を取得しているはずです。じゃあ,佐藤も鈴木も土地の権利を主張できるのか?これが対抗要件の問題なんですね。

この結論は,民法に書いてあります。要約すれば,「自分の名義にしていないと,第三者に土地の権利を主張できない」と書いてあります。↑の例で言えば,自分の名義になっていない佐藤は,鈴木に対して,土地の権利を主張できません。これが対抗要件の話なんですね。

ちょっと一般化して説明すると,土地の場合,自分の名義になっていないと,いくら購入代金を支払っていたとしても,購入して手に入れた権利を,他の人に主張できません。ちょっと難しく言うと,「土地の名義」という対抗要件を備えないと,他の人に土地の権利を主張できない,ということなんです。

「土地の権利を主張できない」ということは,↑の例で言えば,佐藤は,鈴木に対して,「佐藤名義にしてくれ」とは言えないということです。佐藤は,その土地に建物を建てることもできません。一切利用できないんです。佐藤は購入代金全額を払っているにもかかわらずです。

↑の例で言う「土地の権利」というのは,「所有権」というものです。一般的に言われる「購入」は,お金を払うことと引き換えに,土地やその他の物品(パソコン,テレビ,食べ物など)の「所有権」を手に入れることを意味します。「売却」と言えば,お金をもらうことと引き換えに,土地やその他の物品の所有権を手放すことを意味します。

なんか,延々と借地借家法とは関係なさそうな,所有権の話をもとに,対抗要件について話してきましたが,実は,対抗要件というのは,所有権だけのものじゃないんですね。

「借地」や「借家」でも,「権利」が発生していて,その権利は,↑の所有権と同じように,対抗要件を備えないと,他の人に主張できないんです。

↑の例では,お金を払ったのに土地が手に入らないという場面を紹介しました。まあ,既に書きましたが,この場面というのは,あんまり現実的じゃありません。名義を変えないままお金だけ渡すなんてお人好しはそうそういませんし,しかも,↑の古田は,詐欺罪に当たる可能性もあります。そして,当然のことですが,結果的に土地が手に入らなくなってしまった佐藤としても,古田に損害賠償を請求することはできます(古田は鈴木からもらったお金を遊ぶために使う予定だったようですから,お金が残っているかどうかは別問題ですが)。

でも,借地借家法で定められている対抗要件の話は,もっと現実的です。

例えば,土地を借りている場合(「借地」ですね),貸主(地主)が土地を売ることはあり得ますよね。土地を売るのは貸主(地主)の自由ですから。じゃあ,土地を売った場合に,借地契約はどうなるの?という疑問が浮かびます。これが対抗要件の問題なんですね。

実は,借地契約によって,借主には「借地権」という権利が発生するんですね。で,その借地権という権利を誰に対抗できるのか?という「対抗要件」の問題が,やっぱり生じてくるんです。この対抗要件の問題は,↑の二重譲渡よりも,かなり現実的ですね。

今日は時間がきましたので,ここまでにします。

それではまた明日


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