#145 利益相反取引-②

昨日のブログ(こちら)の続きです。

昨日は,利益相反取引が会社(株主)に損害を与えてしまう可能性を秘めているので,常日頃のビジネスとは異なり,特別の規制を設けたほうがいいのでは?という問題意識を前提に,「じゃあ結局,何が規制されて,何をしたら違法になるの?」ということから話を始めてきました。そして,まず「取締役が自己又は第三者のために取引をする」という直接取引について説明しました。「自己又は第三者のために」とは「自己又は第三者の名義で」という意味に解釈すること(名義説)を紹介しました(そして,この説が一般的です)。

で,今日はちょっと補足しますが,「取締役が第三者ために取引をしようとする」についてです。昨日は,「取締役が自己のために取引をしようとするとき」だけ説明しました。取締役自身が当事者(の名義)となって会社と取引をする,というのが「直接取引」に当たるということでしたね。この「取締役が当事者(の名義)となって会社と取引をする」というのは,「直接取引」に含まれるのですが,「第三者のために」の取引と区別する意味で「自己取引」と呼ばれたりします。

という感じでまた1つ(あまり意味のない?)専門用語を紹介したところで,自己取引じゃない直接取引,つまり,「取締役が第三者のために株式会社と取引をしようとするとき」の説明に入ります。

「株式会社」というのが「取締役が取締役という立場で勤務する会社」を意味するのは自己取引の場合と同じなのは説明するまでもありませんが,「第三者のために取引をする」ってどういうことだ?と思う人もいるかもしれません。

「うーん,『ために』というのは『名義で』という意味だったよなぁ?取締役が第三者の名義で取引をするってどういうことだ?」という疑問が浮かぶかもしれません。

「第三者の名義」というのは,「他人名義」という意味なのですが,こう言うと,「誰か他の人の名義で取引をするってどういうこと?名義を借りたり貸したりしているのか!?」と考える人もいるかもしれませんが,そういうわけじゃありません。

というか,自分が他の人の名義で取引をすることは,まあよくあることです。よくよく考えてみれば。例えば,トヨタ自動車が車を売る場合,トヨタ自動車という会社は車を売れません。なぜなら,トヨタ自動車という会社は,どれだけ目を凝らしても,どれだけ世界中を探し回っても存在しないからです。会社は実在していません。観念的な存在です。

(こういう共通認識を生み出せることが人間(ホモ・サピエンス)が他の生物に比べて圧倒的優位にたてた要因であるとこの本では説明されています。どこをどう探しても見つからない,目にも見えない,完全に観念的な存在なのにもかかわらず,人々がその存在を肯定している。そのような共通認識(神話)を共有できることこそ,最も着目するべき能力だと思います)

そんな観念的な存在なのに,実際は,トヨタ自動車が車を売ることができているのは,トヨタ自動車に代わって,その従業員が「トヨタ自動車名義で」売ってくれているからです。トヨタ自動車には,佐藤さん,鈴木さん,高橋さん,などなど,いろんな人が勤務していて,その人がトヨタ自動車という目に見えない会社に代わって,トヨタ自動車名義で車を売っているからこそ,トヨタ自動車は車を売ることができているわけです。

話を戻しますが,「第三者のために」=「第三者の名義で」というのも,↑のトヨタ自動車という会社に代わって従業員が車を売るのと同じと考えてください。自己取引とは違って,自分が取引の当事者ではないんだけれども,当事者に代わって取引をしようとする場合が「第三者の名義で取引をする」の意味になります。

例えば,日産自動車の代表取締役であるカルロス・ゴーンがトヨタ自動車の従業員でもある場面を考えてみましょう(あくまで例えですから!)。この場合に,カルロス・ゴーンは,日産自動車の代表取締役としてトヨタ自動車に車を売りつけようとします。日産自動車のことを考えるなら,当然,なるべく高い値段でトヨタ自動車に売りつけたほうが得です。しかし,カルロス・ゴーンは,トヨタ自動車の従業員という立場で,しかも,日産自動車から車を買い付ける担当者でもあるという(トンデモ設定)場合,カルロス・ゴーンとしては,トヨタ自動車の自動車買付担当として,なるべく安く車を買い付けなきゃいけないわけです。トヨタ自動車からカルロス・ゴーンに対しては「なるべく安く買ってもらわないと困るよ」と圧力がかけられているかもしれません。安く買い付けられたらその分給料が上乗せされる雇用契約になっているかもしれません。

だから,カルロス・ゴーンという日産自動車の代表取締役が,トヨタ自動車の窓口として日産自動車から車を買い付けるのは,まさに,「取締役と会社(日産自動車)の利益が相反する」のです。

この「第三者のために」というのが少し難しいと思います(僕もそう感じているので)。日産自動車の取締役としてカルロス・ゴーンがいて,カルロス・ゴーンが日産自動車側の窓口になるのはいいんだけど,取引相手の窓口もカルロス・ゴーンになってしまっている,というのが「第三者のために」の意味です。

これは何も,代表取締役に限りません。↑の日産自動車の例だと,カルロス・ゴーンという代表取締役が取引相手の窓口にもなっているという話でしたが,日産自動車には,代表取締役以外の取締役もいますよね。例えば,「古田博大」という平(ひら)取締役(役職のない従業員を「平(ひら)社員」と呼ぶのと同じように,役職のない取締役を「平(ひら)取締役」と呼びます)がいたとしましょう。この古田という取締役は,平取締役なので,会社に代わって取引をすることはできません(基本的に)。代表取締役がやった取引が「会社がやった」ことになるのとは対照的です。このことを「代表権がない」とも言ったりもします。

このように,古田という取締役は,日産自動車では肩身の狭い思いをしているのですが,この古田は,日産自動車とは別の「東芝」という会社では代表取締役に就任しています。だから,東芝に代わって取引をすることはできます。この場合に,古田が,東芝の代表取締役として日産自動車から自動車を買い付けようとしたら,それは,日産自動車にとって「利益相反取引」になります。「第三者のために」する「直接取引」に該当するわけです。日産自動車側はカルロス・ゴーンが窓口になっていて,東芝側の窓口(古田)とは違う人なのですが,古田が,東芝の窓口として,日産自動車と利害が対立しますから,「第三者のため」に含まれるわけです。

なかなか「第三者のため」は難しいとは思いますが,僕の覚え方は,「こっち側の人があっちの窓口の場合,こっち側にとって直接取引になる」です。こっち=日産側の人=古田が,あっち(東芝)の窓口の場合,こっち側(日産)にとって直接取引になる,ということですね。

余計わかりづらいか・・・

今日は時間が来ましたのでここまでにします。明日は,直接取引には当たらないけれども利益相反取引にあたるという「間接取引」について書きます!

それではまた明日!


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