#123 借地借家法(難しいことは僕もよくわかりません!)-⑨

昨日のブログ(こちら)の続きです。

昨日は,対抗要件を備えていた人が「勝つ」理由を説明しました。対抗要件というのは,例えば法務局の管理する不動産登記のように,誰がどの土地の権利を持っているのか,誰でもわかるようにしておく機能を持っていて,だからこそ,対抗要件を備えていれば,他の人は,対抗要件を備えた人が権利を持っていることを知ることができるので,対抗要件を知らなかったという言い訳は通用せず,その結果,対抗要件を備えた人が勝てる,という理屈になっている。そういったことを説明しました。

不動産登記と同じようなことが借地権・借家権でも言えます。

借家権であれば,誰がその建物を使っているか,その建物を訪れたり,手紙を出したりして確認できるので,「引渡し」が対抗要件となりうるわけです。また,借地権であれば,その土地の上に建物が存在するかどうか,存在するとすれば所有者は誰なのかを法務局で確認することができますから,土地の所有者と建物を所有者を見比べれば,借地権の存在がわかる,ということを説明しました。

そして,法務局では,新しく建てられた建物の登記事項を新たに作成する際,その建物がどの土地に建てられたのか,建物登記事項の「表題部」の欄のうち「所在」欄に記録しておき,その記録データによって,「土地の上に建物が存在するかどうか」がわかるのです。

ここから,昨日の続きですが,「ガソリンスタンド」の最高裁判例についてです。

(ちょっと,脱線しますが,最高裁まで行くような事件って,事案がとってもおもしろいです。しかも,「最高裁民事判例集」略して「民集」という,最高裁の公式判例集に載るような事件は,事案にかなーり癖があるものが多く,その事案を読むのが,法律の勉強の醍醐味の1つになっています。)

この事件は,1950年に,ある弁護士が土地を買うところから始まります(ちなみに,最高裁判決は1997年です)。

この弁護士は,土地を買った後,その土地を2つにわけています。分けた理由は定かではないのですが,まあ,土地を分けた結果,道路に面している土地と道路に面していない土地の2つが出来上がりました。

で,この弁護士は,ガソリンスタンドをやろうと思い立ち,自分の兄弟を巻き込みます。この弁護士には,兄と弟2人がいて,この兄弟全員を役員にして会社を設立します。社長になったのは,上の弟です。で,この弁護士は,役員になるだけじゃなくって,この会社と顧問契約も結んでいます。

で,この会社は,弁護士から,↑に書いた,道路に面している土地と道路に面していない土地の両方を借りて(借地権を設定して),1954年頃からガソリンスタンドの営業を始めます。

まとめると,弁護士から会社が土地を借りて,その会社がガソリンスタンドを始めた,ということです。この会社は,弁護士の兄弟が設立したもので,弁護士自身も役員になっていて,なおかつ顧問弁護士にもなっています。

こうやってガソリンスタンドを営業してきたのですが,1967年,少し状況が変わります。というのも,↑に書いた2つの土地のうち,道路に面している方の土地が,高速道路に使うための土地として,道路公団(=国)に買収されます。当然,土地の持ち主である弁護士は,買収の対価を手に入れることになります。このお金を使ったかどうかまでは書いてありませんが,おそらく,このお金を使って,もともとあったガソリンスタンドの建物を取り壊して,1969年4月,新しく3階建ての建物を建てました。

で,ここが大事なのですが,もともとあった建物は,道路に面している土地と道路に面していない土地の両方にまたがって建っていたのですが,建て替えた後の建物は,道路に面していない土地の上に建っていて,道路に面している土地の上にはまたがっていなかったんです。

新しくできた3階建ての建物は,1・2階部分は会社のものとなってガソリンスタンドに使われ,3階部分は弁護士のものとなって法律事務所として使われるようになりました。それぞれ,会社名義・弁護士名義に登記されています。

兄弟4人は,買収の対価で建物も建て替え,順風満帆にガソリンスタンドを経営していました。

ところが,1986年頃から,弁護士とそれ以外の兄弟3人との間で,ガソリンスタンド運営会社

の経営方針についてケンカが起こります。

弁護士1人と他3人とのケンカですから,弁護士が少数派です。

ケンカの少数派となった弁護士が何をしたかというと,なんと,ガソリンスタンドの敷地として会社に貸していた土地を,売却してしまったのです!

弁護士としては「もう怒った!好きにしろ!」ということなのでしょうか?

会社としては,非常に怖いですよね。借りていたガソリンスタンドの敷地が,見ず知らずの人に売られてしまっていますから。立ち退きを求められたりなんかしたら,ガソリンスタンドを運営できなくなってしまいます。

でも,ここで出てくるのが「対抗要件」の話です。

これまで繰り返しお話してきたように,土地が売られたとしても,借地権の対抗要件を備えていれば,立ち退かなくてもいいのです。

で,借地権の対抗要件というのが,「土地の上に登記された建物を所有していること」でしたよね。この事件も大丈夫そうですよね?だって,3階建ての建物を新しく建てて,その建物の1・2階部分は,借地権を持っている会社名義に登記されていますから。

しかし・・・・

さっきもお伝えしましたが,新しく建てた3階建ての建物は,道路に面していない土地の上にあるんです。道路に面している土地にはまたがっていない。でも,道路に面している土地の方も,建物はないまでも,給油所として使っていますから,ガソリンスタンドの運営にはなくてはならないものなんです。

道路に面している土地のほうも,借地権が設定されています。こっちの土地も,会社は弁護士から借りているんです。でも,その上に建物がないばっかりに,対抗要件を備えられていないんです。

新しく建てた3階建ての建物の登記事項を見ると,「所在」欄には,道路に面していない土地の地番だけが書いてあります。だから,登記事項を見ても,道路に面している土地のほうに借地権が設定されていることはわからないんです。

だとすると,道路に面している土地を,弁護士から買った人に対して,会社は借地権を主張できない=立ち退きを余儀なくされる,ということになるのでしょうか?

以上が,この事件の事案と問題点です。

今日は時間がきましたので,ここまでにします。

それではまた明日


━━━━━━━━━━━━━━━━━━

※内容に共感いただけたら,記事のシェアをお願いします。

↓Twitterやっています。

古田博大(ふるたひろまさ)よければ,フォローお願いします。

アメブロにも同じ内容で投稿しています(リンクはこちら)。

※このブログの内容は,僕の所属する企業や団体とは一切関係ありません。あくまで僕個人の意見です。

サポートしてくださると,めちゃくちゃ嬉しいです!いただいたサポートは,書籍購入費などの活動資金に使わせていただきます!