#119 借地借家法(難しいことは僕もよくわかりません!)-⑤

昨日のブログ(こちら)の続きです。

昨日は,借地権・借家権の意味をおさらいしました。そして,借地権・借家権(借主が土地・建物を自由に使える権利)は,対抗要件を備えないと,貸主が土地・建物を誰か別の人に売った場合に,借地権・借家権を主張できず,その結果,立ち退きを余儀なくされてしまう,ということを説明しました。

で,その「対抗要件」とは何かというと,民法には「登記」と書いてあるので,民法に従う限り,借地権・借家権の登記をしないと,貸主が土地・建物を売却した場合は,借主が自分の借地権・借家権を新しい所有者に主張できず,立ち退かなきゃいけないことになる,ということでした。

で,昨日は,この民法に書かれた「登記」という対抗要件を修正しているのが借地借家法であるというところで終わっていました。

ちょっと用語の意味のおさらいですが,「借地権」が「土地を自由に使える権利」で「借家権」が「家(一軒家,アパート又はマンションの1室,テナントビルの1区画など)を自由に使える権利」のことです。

話を戻して,じゃあ,「修正している」というのは,どういうことなのか。借地権と借家権に分けて説明します。

まずは借地権です。

そもそも,このブログでも書きましたが,借地借家法が適用される借地権は,建物所有目的に限ります。土地を借りるにしても,いろんな目的(借りる理由)が思い浮かびます。もちろん,土地を借りて,その上に自分の建物を建てることも考えられますが(これが建物所有目的です),他にも,コインパーキングにして小銭稼ぎをする,その土地で農業をするなど,いろんな土地の利用方法があります。その中で,借地借家法が適用されるのは,建物所有目的だけであることに注意してください。

で,借地借家法が適用される借地権の場合,借地権の対抗要件は,「その土地の上に登記された建物を所有すること」なんです。ちょっと難しいですか?(そんなに難しくないですかね)

繰り返しになりますが,借地借家法が適用される借地権というのは,建物所有目的に限られるということでした。つまり,借地借家法が適用される借地権というのは,土地を借りた後に,その上に建物を所有することを前提としているわけです。土地を借りて,その上に借地権者が自分の建物を所有する,そういった借地権に借地借家法が適用されるわけです。

まあ,よくあるのは,更地で土地を借りて,借りた後に,建物の新築工事を発注し,建物を建てる,というやつですね。他にも,借りた時点で土地も建物も既に存在するんだけど,建物は売却して,土地は貸す(借主から見れば,建物は購入して土地は借りる),というパターンもあり得ます(珍しいとは思いますが)。

つまり,借地借家法が適用される借地権は,そもそも,↑に書いたような感じで,借主がその土地の上に建物を所有する(新築かもしれないし,中古物件かもしれない)ことが前提になっているわけで,そういった土地を借りた目的のとおりに,土地の上に建物を新築したり,中古物件を購入したりして,その建物の登記さえしてしまえば,対抗要件は備わることになるのです。

で,世の中には未登記建物(建物として物理的には存在しているものの,法務局に登記の申請をしていないため,法務局の管理する不動産登記の記録上は存在しないことになっている建物)が存在しますが,普通は,建物を建てたら,その建物の「表示登記(どんな建物なのかを示す登記のことです。要は,新しい建物の「表題部」の欄を新しく作成することです。不動産登記の「表題部」については,ググって画像を見てください。)」と,「所有権保存登記(その新しく完成した建物の一番最初の所有者を示す登記)」を申請します。

(ちょっと脱線しますが,未登記建物でも課税されます。当たり前ですが。法務局としては,登記の申請があった建物しか記録しませんが,固定資産税を管轄するのは市町村役場ですから,市町村役場の固定資産税の担当部署が,法務局とは別に未登記建物を調べて課税します。更に脱線しますが,税務署と法務局はつながっていて,不動産の名義変更など,不動産の登記に変更があったら,法務局は税務署に知らせます。不動産の登記が変動すると,そこには必ずお金が動いていますからね。売却した場合は,売却代金に譲渡所得税が課税されます。また,相続で名義変更があった場合は,相続税が発生する可能性があります。このように,不動産登記に変更があったら,課税チャンスとなる可能性があるので,法務局は税務署に知らせるのです。)

閑話休題。借地借家法の話です。

これまでの話をまとめると,要は,建物所有目的で借りた土地の上に,その予定通りに建物を所有し,そして,普通に自分の名義に変更しちゃえば,それだけで借地権の対抗要件は備わることになるのです。このことが借地借家法に書かれていて,これが「民法の修正」になるというわけです。

(土地の上の建物の名義が借主本人とは違う場面があり得ます(例えば,父が土地を借りているが,建物の名義は息子にしたというパターン)。この場合も同じように借地権の対抗要件が備わっていると言えるかという問題があるのですが,ここでは割愛します。)

で,次は借家権の話ですが,借家権の場合は,借地権よりも更に簡単です。

そもそも,あらゆる借家権に借地借家法が適用されます。建物を借りるというのは,いろんな目的がありますよね。居住用だけでなく,ビジネス用もあります。例えば,ビジネス用に雑居ビルの1室を借りる場合であっても,借地借家法は適用されます。

こんな風に,世の中にあるいろんな借家権に借地借家法が適用されるわけですが,借地借家法には,借家権の対抗要件が「引渡し」と書かれています。「引渡しって何だよ」という話ですが,法律の世界には「引渡し」という用語はよく出てきて,まあ,言い方を変えれば「支配の移転」とでも言えるかもしれません。

ある人の支配圏内にあったモノが,その人の支配圏内から離れて別の人の支配圏内に移動する。抽象的に言うと「引渡し」ってこんな感じかなぁと思います。

(もっと難しくいうと,「引渡し」って「占有移転」を指すのですが,この「占有」概念について話してしまうと,ローマ法までさかのぼる,めちゃくちゃ大変な議論が巻き起こってしまい,僕も少し占有概念について習った程度で,全く理解できていないので,割愛します。「占有」という概念は,ものすごーく奥が深い(らしい)のですよ。)

で,ちょっとむずかしい話をしてしまいましたが,借家権(建物賃貸借契約)の場合,一般的に「引渡し」は鍵の受け渡しを意味します。というのも,鍵を受け渡した時点から,借主はその建物内を自由に使えるようになるわけですし,逆から言うと,貸主は鍵を受け渡したということは,その建物を自由に使えなくなるからです。普通に考えても,いくら貸主(大家さん)だからといって,鍵を受け取った後に,勝手に建物(部屋)内に入ってこられちゃ困りますよね。この「困りますよね」という感覚は法律的にも合っていて,要は,鍵の受け渡しによって,その建物(部屋)の支配が貸主から借主に移るので,「引渡し」にあたる,ということです。

(鍵の受け渡し時点で,貸主の支配下から借主の支配下に変更されるわけですから,鍵の受け渡し後に貸主が,必要もないのに借主に無断で建物(部屋)内に入ったら,それは住居侵入罪になります。)

まとめると,借家権(建物賃貸借契約)では,単に鍵を受け取るだけで,借家権の対抗要件が備わります。だから,借主は,鍵を受け取ってさえいれば,その建物が売られようと,立ち退かなくて済むので,安心していいというわけです。

借家権の場合は,「鍵を受け取るだけで対抗要件が備わる」というのが,「民法の修正」になります。

今日は時間がきましたので,ここまでにします。

それではまた明日


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