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パリ五輪はティエリ・アンリにかかっている

いよいよヨーロッパのフットボールが本格的に始動し、また忙しいシーズンが始まったことを改めて感じさせてくれています。

そんな中で現地時間8/21に、フランスのU21代表(フランス語では[Espoirs:エスポワール])の監督にフランスフットボール界のレジェンドである、ティエリ・アンリ氏が就任することが発表されました。

今回の契約は2025年までで、主な大会として来年のパリオリンピックと、再来年スロヴァキアで開催されるU21のユーロを指揮する予定です。

前監督のシルヴァン・リポールが解任されてから次なる監督候補に様々な名前が挙がっていましたが、ここでなぜアンリを選んだのか、今回は深く考察していきます。



タイトルと無縁な監督との別れ

シルヴァン・リポール

2017年5月11日から2023年7月31日まで6年にわたってエスポワールを率いていたのは、シルヴァン・リポールという人物でした。レンヌ生まれの彼は現役時代は地元のレンヌやル・マン、ロリアンなどでディフェンダーとして活躍しました。

2003年にロリアンで現役引退を決意するとそのままロリアンでアシスタントコーチを経て、2014年から2年間監督業を経験しました。最後は成績不振で解任されますが、2017年にフランスのU21の代表監督のオファーを受けます。

これまでU21のユーロを3回、2021年のオリンピックを指揮しましたが、いずれもタイトルに手は届きませんでした。なかでも今年6月に開催されたU21ユーロはかなり豪華なメンバーを揃えていたにも関わらず、準々決勝でウクライナに敗れるという失態を犯したことが解任の最大の原因となりました。

来年に差し迫ったオリンピックでタイトルを勝ち取るためにも、この状況から打破すべくFFF(フランスフットボール連盟)は新たな指揮者を模索し始めました。



自国開催のプレッシャーを知るからこそ


次なるエスポワールの監督としてかなり有力視されていたのが、ジョスリン・グルヴェネクでした。過去にはギャンガンやボルドー、リールを率いた経験のある人物です。現地メディアの報道では、面接で最も良い印象を抱かせたのが彼であったとされています。

ジョスリン・グルヴェネク

彼が有力視されていた理由としては、直近まで監督業をやっていたこと(2021/22シーズンにリールを指揮)、そして彼が現役時代にU21のフランス代表に招集された経験があり、若人たちが集まる雰囲気を知っているからというのが考察として挙げられます。

ちなみに彼以外で監督候補になっていたと噂される人物は、元ストラスブール監督のジュリアン・ステファン、前トゥールーズ監督のフィリップ・モンタニエ、元レンヌ監督のサブリ・ラムシなどが候補に挙がっていました。

グルヴェネクが有力視されていた状況の中で、今月中頃に突如ティエリ・アンリの名前が浮上し、噂がそのまま現実となってアンリが就任しました。

ここから何故アンリが就任することになったのか、自分なりの見解を述べていきます。



まず今回の監督人事において大前提として現在フリーとなっている監督経験のある人物、さらにフランスに馴染みのある人物ということ。

何よりも今回重要視したのが来年に控える自国開催のオリンピックに関する事かと考えられます。もちろん自国開催のオリンピックにおいてフランスフットボール界のレジェンドであるアンリが監督になれば自ずと高い関心が集まり、商業的な効果が出ることも予想出来ますが、アンリが自国開催のプレッシャーを知る人物であるという経験は非常に重要な要素なのではないかと思います。

1998年W杯時のアンリ

アンリは15歳頃から早くもアンダーのフランス代表に選出されており、1996年に自国で開催されたU19ユーロ、98年のこれまた自国開催となったW杯でいずれも優勝に貢献している人物です。オリンピックという大きな大会において、また国内でも人気度の高いフットボールという競技において失敗が許されない状況の中で、自国開催のプレッシャーを受けながら戦った経験のあるアンリを選んだという理由であれば非常に合点がいきます。

ここまでリポール体制の中でタイトルに無縁だったLes Bleuetsが名誉挽回のためにもアンリというレジェンドと共に悲願の優勝を目指すとなれば選手のモチベーションも上がることが期待されます。



監督アンリに対する正直な感想

ちなみに月曜日にFFFのTwitterにてアンリの監督就任が発表されましたが、報道によると、まだアンリは正式にサインしてないとのことです。(FFFフィリップ・ディアロ会長は会見でアンリ就任の事実を認めた)

というのも現在は連盟と具体的な点について協議している最中とのことで、例えばアンリは長年プーマのスポンサーを務めていますが、フランス代表はナイキと契約を結んでいるためスポンサー関係をどうするのか。また、Amazon Prime Videoにてリーグアンのコメンテーター・CBS SportsにてCLのコメンテーターも務めていたため、これらの仕事をどうするのかがまだ何も決まっていない状況です。

仮にアンリと完全合意に至らなかった場合は、コーチとして入閣予定の元フランス代表のガエル・クリシや元アンジェ監督のジェラール・バティクルが代理として監督業を担う可能性もあるようです。他にもGKコーチ候補としてレミ・ヴェクトゥルグレゴリー・クーペをFFFのメンバーであるジャン=ミシェル・オラス氏が推しているようですが、実現すればネームバリュー的に豪華な面々が揃うことになります。(約2週間後にスタッフ等まとめてアナウンス予定)



しかし、アンリはおそらく厄介事をうまく整理してエスポワールの監督に就くものと思われます。なぜなら、彼自身が新たな刺激を欲していると感じるからです。今夏監督人事にやや難航したPSGが、新監督にナーゲルスマンを招聘し、アシスタントにアンリを迎えるという構想はアンリはOKを出しており、結局ナーゲルスマンとの意見の相違で破談になりましたが、彼は新しい仕事をやりたがっていたと思います。



ここまではアンリが就任した背景について、自国開催のプレッシャーを知る人物であること、彼自身が新しい冒険をしたかったことを考察として割とポジティヴに綴ってきましたが、正直に言って、自分はアンリの就任に少し悲観的な立場です。

彼が2016年からベルギー代表のアシスタントコーチを務めていたことは有名な話ですが、一度この仕事を断念してまで挑戦したのが古巣ASモナコの監督に就くことでした。

モナコ監督時代のアンリ

2018年当時かなり話題を集めましたが、最終的には20試合で4勝5分11敗という成績で低迷するクラブを救えず、わずか4ヶ月ほどで解任されました。しかし結果以上に問題視されていたのは、一部選手との不和があったこと。練習中にうまくいかないことがあるといきなり怒鳴り散らし、ボールを持って「俺からボールを奪って見ろ」と高圧的な要求をすることがあったことを選手に暴露されました。

人心掌握術に難があることを踏まえると、ほとんど練習ができない代表活動において彼のその悪い部分が出ないか、かなり心配な気持ちです。当然彼に対する憧れの心を抱いている選手も複数いるでしょうから、彼が暴走せずに選手たちの士気を高めるという役割を果たす必要があります。



ちなみに私はリポールが解任された際に、次なる監督として個人的に推していた人物はジネディーヌ・ジダンです。

ジネディーヌ・ジダン

理由としてはアンリと同様に、彼も自国開催のプレッシャーの中でタイトルを勝ち取った経験があること(特に1998年W杯は彼が中心的存在だった)、フランスフットボール界のレジェンドであること、さらにアンリと比べて監督としても圧倒的な実績を残していることが理由として挙げられます。

PSGのオファーを断り続け、静かにフランス代表監督の座が空くのを待っている彼の状況を踏まえると、アンダー世代ではありますが、夢のフランス代表監督の仕事を担うことができます。マネジメント能力も高い彼の実力はぜひパリ五輪に活かしてほしいと思っていましたが、願い届かず、、



今後はアンリが就任する予定のエスポワールを注目しつつ、来年のオリンピックは当然日本代表の次に、Les Bleuetsを応援していきたいと思います。ご覧いただき、ありがとうございました。

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