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約束の、その先の未来へ

それは何回目の特典会でのことだっただろうか。
「ずっと推してくれる?」
16歳の彼女は無邪気にそう言った。

「ずっとかどうかは分からないけれど…まあ僕のフォロワー数超えるまでくらいはね。」
できない約束はしたくない自分にとって、それは精一杯の答えだった。

というより、その時点ではこれは事実上「ずっと」に限りなく近い約束だった。当時の彼女のフォロワー数は2000前後、自分のフォロワー数が7000~8000程度だったか。確かそのグループのフォロワー数トップの子よりは多かったと思う。

彼女のグループはたまたま夏に近所のショッピングモール(今はもうない)で見かけた。自分は当時アイドル現場に行くようになって5年目、推しのグループにしか興味のない時期が終わって、ある程度幅広く見に行くようになり始めた頃。ここは楽曲もパフォーマンスもまあまあの割に何で知られてないんだろうなと、なんとなく気になった。初見でご挨拶に行くような軽率ムーブはあまりしてなかったのだが、たまたま時間に余裕があり、しかも本当は別の子に行こうとしたのが前に並んでいた人がその子を指名してしまい、初めましてで他の手が空いてる子をスルーして人気の子を待機していくのもガチ恋ムーブっぽくて嫌だなと思って違う子に行ったのが彼女だ。特別顔がタイプとかではないが、ダンスのキレと、やたら音程をはずすもののアタックの強い声と、自分が一番可愛いことに謎に自信ありげなところが目立っていた。

1回限りだろうと思ってCDにサインをもらうのにTwitterネーム言うこともないだろうと、うっかり本名ベースで名乗ってしまったにもかかわらず、なぜかトークで言いくるめられてリプするよと言ってしまった。そのため私のことをTwitterネーム以外で呼ぶアイドルは彼女だけである。

終わった後にネットでプロフィールを確認したら16歳、これはやっちまったなと思った。私は「アイドルは20歳から」という考えでJKとかは接触に行かない主義だったのだ。パフォーマンスも、特典会での対応もしっかりしていて21~22歳くらいかなと思っていた。

その後たまたま次の週に行ける対バンがあったり、定期公演のゲストが一度ちゃんと見てみたいところだったり、なんとなく月1回くらいライブに行き始めた。12月には彼女のバースデーライブに行ったりもした。何度か特典会に行くうちに子供っぽさが見えてきた。やっぱりリアルJKはガキ。

年が明けて2月、彼女はグループからの卒業を発表した。卒業の(表向きの)理由は学業のため。10代はこれがあるから推しにくいんだよな。
それまで推したグループに大変恵まれていたためか、これが「推しの卒業」という現実に直面した初めてのことであった。

卒業公演はグループとしての集大成すら感じる素晴らしいライブだった。使いきれなくなりそうなほどの特典券を買い込んで、こっちが衣装替えしてチェキを撮った。

約束は果たされずに、いや終わりまで見届けたのだから約束を果たして、終わった、はずだった。


1年半後。
彼女が所属していたグループは年内で活動を休止。
私は主現場を2つほど変えて相変わらず元気にヲタクをしていた。
確かその年のTIFの前後だったと思う。とある老舗のグループのエース級が電撃卒業して新グループを結成するという話は耳にしていた。
そこの新メンバーに彼女の名前が発表された。

えっ、こういうことってある?
卒業後少しの休養を挟んで別の事務所の新しいグループでステージに復帰することは現在のライブアイドル界では特に珍しいことでもないのだが、何しろ自分にとっては推しの卒業が彼女が初めてなのだから、卒業した推しの出戻りは当たり前に初めてである。
1年半前に止まった時が動き出した。ヲタク人生初めてのお披露目公演のチケットを取った。

ステージに出てきた彼女はあの時そのまま、ずば抜けたダンスのキレと、ちょっと音程が外れるところも。そしてステージに立てる喜びを全身で表現していた。

特典会ではお互いが顔を合わせた瞬間叫び声を上げ、言葉にならなかった。覚えていた、覚えられていた。
メンバー毎の特典会の列はエースの子が圧倒的に長く、他のメンバーは列が途切れたら先に上がる方式だったが、彼女が上がるのは他のメンバーよりほんの少し、時間にして1〜2分、遅かった。それが嬉しかった。少しでも長くステージに立ってほしい、そのために支えたいと思った。

お披露目でオリジナル曲1曲、事務所の先輩のカバー曲4曲で25分セトリが組める状態になっており、その後も1stシングルのリリース、1stワンマン、ワンマンが終われば次のシングルとワンマン。立て続けに成長軌道を描けるように運営も力を入れてくれていた。事務所の他のグループと比べても明らかに恵まれていた。

事務所の先輩方にはフォロワー数5桁のアイドルも多数いて、これはあっさりフォロワー数抜かれて遠くに行ってしまうかもしれないとも思っていた。

だがそこからが長かった。快進撃を続けた1年目はそれでもTIFメインステージ争奪戦の前哨戦をクリアできずに一頓挫。さあ2年目巻き返しというところでコロナ禍によりライブができない状況に突入。その状況下で一番若手のメンバーが卒業。翌年にはエースメンバーの卒業。補充はうまくいったように見えたが、グループ名を変更して再出発の年に前年に補充したメンバーが脱退。グループとして不安定な時期が続いてしまった。

彼女自身も新グループで求められる水準と自身の実力とのギャップ、そして周囲からの期待に応えきれない苦しい時期を過ごしてきたと思う。それでも頑張る才能には長けていて、1つ1つのライブに真剣に向き合う姿勢は常に感じているし、朝晩のTwitterの更新も(おそらく苦手な)ブログの更新も毎日続けている。

最初に彼女を見てから6年半が経った。
前のグループでは一早く卒業していった彼女が(とはいえ若手の追加メンバーとして抜擢され2年以上頑張ってきたのだが)、このグループでは先輩、後輩、同期の卒業を見送る立場になった。
ちょっと外れがちな音程は、だいぶ直ってきた。その分アタックが弱くなり丁寧に歌いすぎる時期もあったが、最近は持ち前の元気さとも両立させつつあると思う。
当時ほどの無邪気なアイドルとしての自信はきっとへし折られた時期もあったのだろうが、今や事務所の人気投票でも2位になって結果もついてきた。

そして今、フォロワー10000人の大台を迎えようとしている。
フォロワーは数ではない、質だ。そんなことは誰でも知っている。それでもアイドルにとってフォロワー数は目に見える指標、フォロワー1万はライブアイドルのエース級としてクリアすべき最低限の条件だと思う。
そしてフォロワー1万超えとほぼ同時に、私のフォロワー数も超えることになる。

新しいグループで活動を再開した頃は、ずっとこの状態が少しでも長く続けばいいと思っていた。でも、もうそろそろヲタクとして引き時なのかなと思うことも多くなった。自分の家庭の事情も大きく変化した。いつかの特典会で「お子さん産まれたの?」と聞かれたその娘は4歳になった。

そろそろ先の景色を見よう。フォロワー10000人の壁の向こう側に何が待っているだろう。

私が濱田菜々のヲタクであるのはここまで。これからは、応援するためにライブには行かない。
その代わりに、都合がついたら時々はライブパフォーマンスを楽しみに行く。

今の濱田菜々には、Gran☆Cielには、それができるはずだ。

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