めし(1951年)
成瀬巳喜男がスランプから脱したとも言われている作品。
上原謙と原節子の若夫婦で、劇中でもしつこいくらい「美人の奥さん」と言われます。
しかし昭和の男は家族に「ありがとう」と言わないですね。家事も女がやって当然と思っているし…。
林芙美子はなぜ大阪を舞台にしたのでしょう。生命力、猥雑さ、したたかさ…そういうものが東京より強く感じられるから?
三千代のお金も時間も張り合いもない生活、三千代自身の生殺しの状況との対比が、よりくっきり対比されます。
小林桂樹はこの時代では新しい夫像です。妻の姉が泊まりに来ても寛大ですが、自由を履き違えた里子にはビシッと言います。家父長制風は吹かさないけれど、イマドキの若者に迎合はしない、戦中派の面目躍如というところでしょうか。
上原謙はまた煮え切らない夫役です。この人は私生活ではどんな人だったのでしょうね。しかし息子とは似てませんね…。
杉村春子はうますぎて怖いです。今回わりと平凡な母親役なのですが、笑顔の裏に何が隠れてんじゃないかと勘繰ってしまう…。
二本松寛は、「麦秋」でも同じような役を演じています。上原謙とは違う、もっと質実剛健な感じの二枚目ですね。
Wikiを読むと、里子は初之輔とは、叔父と姪とは言っても血は繋がってないそうです。映画見てる限りでは特にそこは触れられてなかったので、よけい気持ち悪いようなイラッとさせられるような…。
里子は当時のイマドキ女子です。大人たちはイライラさせられたり腹が立ったりしながらも、それを彼女にうまく伝えられません。あの山村聡のお父さんでさえも扱いきれないのです。彼女は劇中一度も着物を着ません。
当時の街の景色や風俗が興味深いです。
繁華街でもまだビルが少なくて、道路は舗装されてません。
キャバレー「メトロ」、実在のお店でのロケのようですね。すごいスケール感…行ってみたい!
ダンスは、昔の学校でやらされていた創作ダンスの原点を感じますね…。
景気が悪くて職安に人が溢れてました。朝鮮戦争は1950年開戦、特需はまだなのでしょうかね。
玄関に置いておいた靴が盗まれるというのはなかなか物騒です。
外ではスーツの男性陣は、家に帰ると浴衣に着替えます。反対に女性陣は、普段は洋服でもきちんとしたお出かけは着物、という意識だったようです。
戦争未亡人の中北千枝子は、子連れで逞しく働いています。毎度こういう地に足のついた生活感のある役が似合います。
それに比べると、自分の悩みがいかに贅沢かということも、三千代は充分分かっているのです…。
盛り上がって結婚したはいいけれど、毎日の冴えない暮らしに、恋愛気分もあっという間に色褪せてしまう…現代でもよくあることです。
が、ある意味戦争が終わったからこそ出てきた悩みと言えるでしょう。
生きることで精一杯だった時代にはなかった感覚です。
だからこそ、夫の添え物で、これが女の幸せなんてラストは、全くそぐいませんね…。林芙美子の未完の遺作らしく、結末は映画オリジナルのようですが…全然納得いかない!
この1時間半の三千代の逡巡は何だったんだ…!
ネコちゃんかわいいですね。「ユリ」という名前がしゃれてます。
原節子東宝専属第1回作品です。
松竹ではなく東宝作品なので、DVDで字幕が出ます!これ地味に嬉しいですね。松竹は字幕のないものが多いので…。