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思惑商品と心中

コラム『あまのじゃく』1951/3/29 発行 
文化新聞  No. 99


泣きっ面にハチの商人も‥‥

    主幹 吉 田 金 八

 世界的軍拡気構えの波に乗って押し寄せた特需に、国内物価もうなぎ登りに登りかけた。
 商人も得たりや賢しとばかり、買い煽り、売り惜しんで物価上昇に拍車をかけようとした。これで一般消費者に金があったら、本当にインフレの本ツボにはまるのだが、幸か不幸か大衆が金を持っていない。
 儲けようと企んだ人たちは両手いっぱい高い品物を抱えて、アップアップといった形。そういつまでも抱えきれず、今月初めごろから各種商品に換金的投げ物が現れ始めた。
 折悪く税金の査定期に物価が上がり、値上がりの利益まで所得に見込まれ、税金は上がったが高い品物を背負いこんで売れない、といった泣きっ面の商人も多いことであろう。
 金ヘン景気は世界戦争と付きものだから、そう簡単には収束しまいが、衣料、食料等は大東亜戦の時と違って業者の思惑通り動くはずがない。その理由は日本の台所が、良い意味でも悪い意味でもアメリカを主軸とした、資本主義国家に通じているからである。
 これらの国々は日本人の想像もできない物量を支配している。かつては市価を維持するために、小麦を海中に投じ、コーヒーを燃やし、クズ鉄で海を埋め立てたと言われるほどの豊富な資源が控えている。
 しかもこの国々へ通じる道を脅かす海軍力が、中ソにない事は、戦争が起こっても前大戦の時のような孤立経済にはならないことを予想できる。
 さらにまた、物価高をもくろむ人たちの誤算は大衆の購買力のないことを無視したことである。現在の賃金水準では労働者、俸給生活者に食料、教育費以外に余力が全然ない事は明らかで、いくら物価が上がりそうだと宣伝しても、金のない大衆はそっぽ向いている。
 選挙も物価も同じもので、大衆が正しい情勢判断と思想を持って臨めば、政権を得さえすれば良いと言う、大衆の生活を忘れた政治家、資本家は自分たちだけの一人相撲でアップアップの憂き身を見るに違いない。


 コラム『あまのじゃく』は、埼玉県西武地方の日刊ローカル紙「文化新聞」に掲載された評判の風刺評論です。歯に衣着せぬ論評は大戦後の困窮にあえぐ読者の留飲を下げ、喝采を浴びました。70年後の現代社会にも、少しも色褪せず通用する評論だと信じます。
 このエッセイは発行当時の社会情勢を反映したものです。内容・表現において、現在とは相容れない物もありますが、著作者の意思を尊重して原文のまま掲載いたします】

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