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役人を減らせ

コラム『あまのじゃく』1954/8/12 発行 
文化新聞  No. 1249


実現可能⁈ 夢のシミュレーション

    主幹 吉 田 金 八

 全国各府県の財政は軒並みに赤字となり、ここ一年ほどすれば吏員の俸給が満足に払えなくなってしまう状態だという。
 その中にあって、黒字五県の筆頭は栃木県で、28年度分に1億4000万円の余剰が出るという。
 これは同県の小平知事が、県庁を事業会社の如く能率的に運用するために、5千人の職員を3千2百名に減らしたからである。
 5千人を3千人といえば4割の人減らしである。小平知事は、もうあと2割首を切れば事業会社並みな能率になるのだと言っている。
 小平知事の如きは全国まれな英断であろうが、これをもってしても現在の官庁は必要の倍以上の人間を抱えていることが証明される。
 職場と働く人の量の、能率に及ぼす関係は面白いもので、10人でちょうど良い職場に15人の人間がいると、10人でやった仕事の量より落ちるのが通例である。10人で10の仕事ができるものなら、15人で8の仕事しかできない。つまり、能率が半減するわけである。それは人が多すぎるとつまらない理屈をこね回して、他人の仕事をケチをつけたり、怠けた方が得だと思ってみんなが「要領」を使い出し、上役におもねて同僚間の気持ちがピッタリしなくなったり、職場の空気が完全に乱れてしまう。
 勢い仕事がダレて間違いが多くなる。
 黄変前などが問題になったりするのは、農林省の役人が多すぎて、もうとっくに食料などは野放しにしておけば良いものを、余計な事に手を出すから、武士の商売で黄変米を高く売りつけられて、国民からは批難と受配拒否を食い、国家は大損害を被るという事になる。
 もっとも、この米に難癖をつけて醸造用に安く払い下げて、リベートで儲けるのが役人の付け目かもしれない。
 記者は県庁などというものは何のために必要なのか理解できない。県庁がなくなったら、県民の生活にどんな不便があるのだろうか。さしずめ道路と橋が補修できなくなるであろうが、これとても県がどれだけのことを現在しているかという事を考えれば、むしろ道路・橋梁は市町村に移譲してしまった方が良いのではないか。
 高等学校も県立は全廃して市町村に任せる。単独でやって行けなければ組合立か私立にしたらよい。染色指導所とか職業指導所などは、全て業者の団体に任せてしまえば、県の仕事などというものはなくなってしまう。
 埼玉県庁に何人の役人がいるのか知らないが、半減はおろか全員不必要だということになる。そして、県税を全廃すれば県民の持久力が段々と増してくるのではないか。
 全国の役人を構わずに半減して、余った金で道路工事でもやったら良い。役人を遊ばせて食わせておいたのでは、何時までたっても国土の建設も産業の発展もない。
 道路が良くなれば資源も開発されて産業も興こる。勢い、失業者もなくなるという訳である。働かない者は食ってはいけないと言ったのは誰だか知らないが、働かない官吏を食わせて、働きたい労働者には仕事がない、なんていう時世では、何時までたってもウダツは上がらない。


 コラム『あまのじゃく』は、埼玉県西武地方の日刊ローカル紙「文化新聞」に掲載された評判の風刺評論です。歯に衣着せぬ論評は大戦後の困窮にあえぐ読者の留飲を下げ、喝采を浴びました。70年後の現代社会にも、少しも色褪せず通用する評論だと信じます。
 このエッセイは発行当時の社会情勢を反映したものです。内容・表現において、現在とは相容れない物もありますが、著作者の意思を尊重して原文のまま掲載いたします】

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